見出し画像

心の充電なのかしら?

今泥棒が入ってきて、
部屋の中の物を根こそぎ持って行かれても
私は決して湯たんぽを離さないだろう。

それくらい、湯たんぽが好きだ。

『足先から心の中まで、ぽっかぽかにしてくれるものなーんだ?』
湯たんぽである。
『ぽ』辺りで食い気味に答えられるくらいには、湯たんぽ一択である。
こんなに湯たんぽが好きなのに、
この愛着に気が付くまで少しばかり時間が掛かったことに、未だ後悔している。

幼少期。
冬になると、母は毎日私と兄の為に湯たんぽを温めてくれた。
その頃の湯たんぽはコンセントと繋がっていて、
気を付けなければ熱くなりすぎてしまうという厄介な代物であったが、
これが何倍も、冬場の布団を好きにさせた。
私は母の愛に包まれて、ぬくぬくと眠ることが出来たのである。
そういえば言い忘れていたが、数年前まで私の実家にはエアコンが無かったのだ。
私たちの冬には、夜の湯たんぽと朝のガスストーブが必須であった。
即ちこれらを準備してくれている母の愛のみで、
私は途中で諦めることなく幾度も冬を乗り越えることが出来たのだ。

しかし今、こんなにも湯たんぽの愛を語ることが出来るのは、
恥ずかしながら一度手放した過去があるからである。

20xx年、私は一人暮らしを始めた。
ワンルームエアコン付きの部屋は、とにかく年中快適であった。
夏は寒いくらい涼しくすることも可能だし、
冬場だって暑いくらい暖かくすることが可能だった。
この魔法の箱に魅了され、
私は湯たんぽも電気ストーブも、
こたつすら買わずに幾年か過ごした。

しかし私はようやく気付いたのである。
エアコンは足が冷える。
否、足が暖まらない。

どれだけ暖かい部屋でぬくぬくと過ごしていても
何故だか足は氷のように冷えたままだったのだ。
私はとんでもなく冷え性である。
その癖、靴下が嫌いなのだ。
寒さに負けて靴下を履いて寝たこともある。
しかしつま先がその窮屈さに反抗し、
鳥肌が立って眠りにつく前に脱いでしまうのだ。
(外なら平気なのに、厄介な体質である)

貧乏性な私もようやく重たい腰を持ち上げて、
湯たんぽを手に入れることになった。
今の湯たんぽは電子レンジで温めたり充電式だったりで、
多種多様な便利アイテムとなっていた。
懐かしくもあり嬉しくもある私は、
とびきり可愛い充電式の湯たんぽを選んだ。

湯たんぽは偉大だ。
湯たんぽと一緒に、私の心をぬくぬくと温める。
懐かしさが蘇る。
昔からあるのに、昔とは違う姿にうっとりとする。
こうやって長く使われるのは、やはり理由があるのだ。

充電が完了した。
布団の足元の方に入れて、
私はゆっくりと足を踏み入れる。
何故だか、全身を温めるエアコンよりも
何倍も暖かく感じた。
この瞬間私は布団から抜け出せなくなり、
すっかり湯たんぽの虜になった。

嗚呼、湯たんぽを買って良かった。
足元を温めながら、忘れていたあの頃を思い出す。
布団に潜るだけで冒険が出来た、あの頃のことである。

そんな私は今年、こたつを買った。
きっと次は、古びた形のストーブに手を出してしまうのだ。
こうして湯たんぽにしがみつく私は、
セピアがかった思い出にも、未だしがみついている。
湯たんぽの充電とは、心の充電なのかしら。


↓記事に出てくる愛用湯たんぽはこちらです


この記事が参加している募集

#買ってよかったもの

58,972件

よろしければサポートをお願い致します!頂いたサポートに関しましては活動を続ける為の熱意と向上心に使わせて頂きます!