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世界一無垢なヘンタイ

今日はネタバレすると、全編タイツの話である。
とはいえやらしい展開は一文字たりとも出てこないので、
安心して読み進めていただければと思う。


今でこそタイツは冬に欠かせないマストアイテムではあるが、
大人になるまでずっとタイツが苦手だった。
ゴワゴワした感じが不快で、それなら寒さに耐える方がマシだとも思っていた。
その遍歴も大学生になるまで続いていたのだが、元を辿れば幼稚園に通っていた頃、私のタイツ嫌いは既に始まっていた。
但しあの頃タイツが嫌いだった理由は、素材云々というよりも
「タイツを履いていることがバレるのが屈辱恥だと思っていた」からである。

思えば私は物心ついた頃、既に自我の強い人間だった。
もう一例を挙げるならば、頑なにオーバーオールを着なかったところだろうか。
(今思えば子どものオーバーオールめちゃくちゃ可愛いのだけど)
こだわり強い女児だったので、親も苦労したに違いない。

母からすれば寒い冬に制服がスカートなのだからタイツを履かせるのが当たり前の筈なのだが、今考えると明白な理由があって、私はその頃近所に住んでいる友達が全員男子だったので、タイツを履いている友人が居なかったのである。
一緒に遊ぶ友達は誰も履いていないタイツを、私だけが履かされている。
これが私の『恥ずかしい』を作る原因だった。

ある朝本当に嫌すぎて、通園バスに乗ったタイミングで泣いてしまったことがある。乗っていた先生に「どうしたの?」と聞かれたのだが、本音を言うことによってタイツを履いていることがバス中にバレると思った私は、咄嗟に
「お母さんに会いたくなるから〜」と言った。
先生はニヤニヤしていた。母も嬉しそうだった。
あの頃の嘘を、未だ母には白状できていないし、墓場まで持っていく覚悟でいる。

幼稚園に着いてもタイツ問題は続く。
到着すると朝イチで『制服』から汚れても良い『スモック』に着替えることになるのだが、幼稚園児なんて当たり前のように男女混合で着替える。
仲の良い男子たちはタイツなんて履かない。別に意識して見るわけでは無いけれど、皆ズボンを脱げば足が見えるのである。タイツを履いていないのだから当たり前である。
 私は恥ずかしくて、いつも着替えるのが遅かった。皆はさっさと着替え終わってキンダーブックを開いたりするのだが(幼稚園児用の月刊誌みたいなやつ)最早誰も見ていないのに、私はいつまでもモジモジしていた。

そんな時魔が差したというか、当時は名案だと思うアイディアがふと頭に浮かんだ。
否、浮かんでしまったのである。

「そうだ、みんなにタイツという存在を教えれば良いんだ!自ら告白してしまえば、私の気持ちは楽になるに違いない!」

幼稚園児にして『自虐』というヘビーな選択を決意した私は、
キンダーブックを開いている友達の元へズカズカと近付き、
タイツを目の前に差し出した。

「見てー!これがねータイツって言って、これ履くと暖かいんだよー」!



ただの変態である。

きっと教室は騒がしかったに違いないのだが、私の思い出として残っているあの瞬間、教室はとても広く、静かであった。

変態が誕生した瞬間、友達はと言うとキンダーブックのゲームをしながら
「ふーん」と言った。
それは当たり前で、別に私がタイツを履いていようがいまいが、彼らにとっては『どうでも良い事象』でしか無かったのだ。
その後も男子たちは、私と仲良く遊び続けてくれた。
こんな変態キッズに変わらず接してくれるなど、心の広い友人に感謝である。

それきり私はタイツが嫌という理由で泣くことは無くなった。
しかしその代わり、私は何かを引き換えにしたに違いなかった。
愛すべき私のタイツ遍歴。
この記事内で、タイツと何回言っただろう。
冒頭に語ったように、今ではタイツが手放せないマストアイテムだ。

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