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クリスマス・ミッドナイト

「ねぇ、お母さん。
僕の家は煙突が無いのに、
どうしてサンタさん来てくれるの?」

すっかり寝静まっている功太の
台詞を思い出しながら、
葵は温かい紅茶を飲んでいた。

「サンタさんは何だって出来るのよ」

1人で過ごす夜の12時、
テレビの音は一番小さくして、
クリスマスらしいバラエティ番組を何となく付けている。
葵は咄嗟に誤魔化してしまった返答について思い直していた。

サンタクロースは、遠い遠い国に住んでいる。
日本にやって来るのは、年に1度きり。

何となく葵は、その1年という年月が不安だった。
すっかり何もかも忘れてしまわないだろうか。
今年もサンタクロースは功太に、
プレゼントを持って来てくれるだろうか。

葵は眠い目を擦りながら暖房のスイッチを入れた。

ゴウーっと低い音を立てて、
暖房が部屋全体を暖め始める。
その時コンコン、と小さなノックが聞こえ
思わず寝かけていた葵の意識は現へと戻ってきた。


時刻は夜中の3時過ぎである。

ティーパックを入れたままにしていた紅茶は
すっかり渋くなっていた。


2人しか住んでいない小さなアパート。
ドアを開けるまでにそう時間は掛からない。

「こんばんは。お元気ですか」

肩や頭にうっすらと積もっている雪を叩きながら
優しそうな口調で語りかけてくる。

「お久しぶり。いつも御苦労様」

2人は軽いハグをして、
それから葵は赤服の青年を快く家へ向かい入れた。


「寒かったでしょう」

「いえいえ、日本はまだ暖かい方です」

サンタクロースはインターホンなど鳴らさない。
こうしていつも、静かに我が家へやって来る。
2人は何の変哲もない会話を交わし、
リビングの方へ向かった。


「功太くんは、今年も良い子にしていましたか?」

「勿論ですよ」
葵は微笑みながら報告した。

本当は、沢山子どもの話をしたい。
功太が如何に一年良い子だったか、
成長したか、
葵には話せる相手が居ない。


葵は年に1度、
サンタクロースが訪れる日を、
功太に欲しいものをあげられる日をとても楽しみにしていたのだ。


サンタクロースはふふっと笑った。


「では、今年もプレゼントをあげましょう」

茶目っ気のある笑顔と共に、
青年はラッピングされたプレゼントを手元に出した。
サンタクロースは足音1つ立てず、
子供部屋へと向かう。

葵はその姿を見て、
安堵の溜息を漏らした。

高校生になったとき、
自分はすっかり大人になったと思っていた。
しかしながら、大人にならなければ分からないことは
まだまだ沢山あった。

サンタクロースが堂々と玄関からやって来ることを知ったのも、
大人になってからだった。

「葵さん、ちょっと良いですか?」


何となく昔のことを思い出していると背後から突然声を掛けられ、
思わず心臓が震えた。
慌てて振り返ると、
サンタらしく無い真面目な表情で、背後に佇んでいた。


「枕元に既にプレゼントが置いてあるのですが、
誰かやって来ましたか」


ぷれぜんと。
葵は記憶を遡り、心当たりを探した。
思い当たる節は無い。
首を横に振ると、サンタは小声で呟いた。

「あの箱は、ブラックサンタの贈り物だと思うんです」

彼の言う単語には、あまりピンと来なかった。

しかしながら、小さい頃絵本で見た知識がある。

ブラックサンタは悪い子どもの元へ来る。
そうして子どもを川に投げたり、
恐ろしいプレゼントを渡したりするのだ。


その知識を呼び起こした上で、葵は断言できた。

「功太は良い子よ。貴方が一番知っているのでは?」

葵の目には、既に涙が溜まっていた。
悔しかったのだ。
自分の苦労も功太の努力も、
全て無駄になった気がした。

「どうしてうちにお父さんがいないの?」

功太は葵に、1度も聞いたことがない。
お父さんが居ないことを責めたことはなかった。

功太は良い子だ。


そう言い聞かせ下を見つめ続ける葵を他所に、
サンタクロースは言葉を続けた。

「葵さんは勘違いしているようですけど、
ブラックサンタは
悪い子を凝らしめるサンタじゃないんです。
あいつらはクリスマス、
1年で一番子どもの夢が溢れるその日に、
夢を盗んで行くのが仕事なんです」

「どうしてそんなことを…」

葵の指は震えていた。
動揺からきていることは一目瞭然だった。

しかし、葵は5年間1人で
功太を育て上げてきた過去があった。
すっかり身体に染め上げた責任感が、
今さら他者に頼る力を失っていたのだ。

「あの、大丈夫?次のお家の子どもも、貴方を待っているんじゃ」

サンタクロースは、若くも立派に蓄えた顎髭を
撫でながら、暫く考えていた。

「葵さん、そんな寂しいこと言わないで。
頼ってください」

これ以上葵には成す術が無かった。
しかし、子どもの持つ夢が如何に偉大か、
それはよく知っていた。

「夢を盗られると、功太はどうなるの?」


葵はそっと問いかけた。
頭には最悪な想定が幾つも並ぶ。

青年からの答えを聞かぬまま、フラフラと子供部屋へ向かった。

答えを聞くのが怖かった。
子供部屋は短い廊下を渡ってすぐの部屋にある。
寝息を立てて功太が眠っている。
特に苦しそうな様子もなく、
いざ目の前にしても
今の会話になかなか現実味を帯びることが出来ずにいた。

しかし、サンタのいうことを
嘘だと思う気持ちは微塵もなかった。
彼は一度も、嘘をついたことがない。

少しずれている毛布を直すと、
葵の手がふと止まった。

功太が少し、軽くなっている気がする。


思わず抱き上げると、
功太は風船のように
ふわっと持ち上がった。

葵は功太が産まれたときの重さを、
今でも覚えている。

そうして抱き上げる度、
功太の成長をしみじみと感じているのだ。

だからこそ、突然押し寄せた不安に負けて、
無意識に手を放してしまった。


最早布団の上に落ちた感覚も、鈍い音すら聞こえない。
軽い衝撃でうーんと唸った。

枕元に置いてある黒い箱。
これをどうにかして壊さなければならない。
葵は手を伸ばして箱を持ち上げようとしたが、
箱は鉛のように重く、びくともしなかった。

青年が静かに部屋へ入って来た。
葵を安心させようと、背中をさすってやった。

「私の夢を代わりにあげたい。
だけど、私の夢は功太なの。
あとはちっぽけな夢ばかり。
私の夢をあげると、功太がいなくなってしまう」

サンタクロースは静かに泣く葵を咎めることなく見つめていた。
そして彼は呟いた。

「子どもの身体は、
まだしっかりしていない代わりに
夢が沢山入ってるんだ。
夢を取られると
軽くなってしまうのは当たり前だ」

葵には益々不安が押し寄せた。

そのまま功太が消えて
いなくなってしまう気がしてならなかったのである。


「功太を助ける方法が1つあります」

青年に先程までの優しい雰囲気は薄れていた。
彼に見えるのはたくましさと心強さだった。


「箱を開ければ、吸収された夢を返して貰えると聞いたことが」

「今すぐ開けましょう!」


葵は大きな声を張り上げたが、すぐにサンタに止められた。
葵は慌てて口元を押さえる。
サンタクロースは、決して子どもに見られてはいけない。
見られた瞬間、彼はサンタクロースとしての資格を失ってしまうのだ。


「箱を開けるには、少しばかり魔法がなければいけません」

サンタは寝ている功太に気を使い、囁くように話した。

「家族の愛です」

家族の愛。

葵は自分に言い聞かせるように呟いた。

そして不安そうにサンタを見つめるのだった。

功太はお父さんを知らない。
葵は1人で功太を育て上げた。
功太に愛情をどれだけ注いできただろう。
功太は毎日遅くまで保育園で待ってくれている。
休みの日だって、
遠くまで連れて行ってあげられない。
お金がないわけではない。
だけど、欲しいものはあまり買ってやれていない。

サンタクロースはそんな葵の目を見て頷いた。

「これだけは、はっきりと言えます。
葵さんは2人分の愛情をしっかり注いできました」


それからね、
サンタは優しい子どもが好きですけど、
頑張っている大人にだって
何かしてやりたいと思うんです。


サンタクロースはベランダを開けると、
トナカイの待っているソリにプレゼントの袋を置いた。

そうしてトナカイの
頭を撫でながら語りかけると、
トナカイには前の足を高く上げて
鈴を鳴らしながらどこかへ走って行ったのだった。


「プレゼントは大丈夫ですか?」

「大丈夫、サンタクロースは沢山います。
僕はたった今、貴方と功太くんを選んだんです」


外が寒かったのか、サンタは手を擦りながら葵の目を見つめた。
その覚悟が何を表しているのか、
葵には分かった。
しかし葵にも気持ちがわかる以上、何も咎めたりしなかった。


「ブラックサンタが来る前に
箱を開けてしまいましょう」


そろそろ4時も近くなっていた。
ブラックサンタは、
サンタクロースに出会わないようにするはずだ。
時間をずらして
サンタが日本を出た頃に必ずやって来る。
箱を取られてしまっては、
功太の助かる余地は無くなってしまうのだ。

時間は刻一刻と迫っていた。
葵は意を決して箱に手を伸ばした。

大丈夫。
私は功太を愛してる。
私は5年間、功太を育ててきたのだから。


自分を言い聞かせるため呟き続けた。


私だけでは不安に思ったのか、
それとも応援のつもりだったか、

サンタクロースが背後で
立ち上がったのが分かった。

しかしサンタはそれ以上
歩みを進めることは無かった。

声をかけることもなく、
立ちすくんだままだった。

葵は振り返ることもしなかったが、
少なくても1人で
立ち向かわなければいけないことを悟った。


子供部屋は静寂が続いていた。


「誰か来てるの?」

突然、功太は目を覚まし、
はっきりとした声で葵に向かって問いかけた。

背後にいた筈のサンタクロースは
既に姿を隠している。
葵は驚きながらも一瞬だけ後ろを振り返って、慌てて返事をした。


「誰も来てないわよ。
早く寝ないとサンタさん来ないでしょう?」

葵は功太の額辺りをそっと触れた。

事態が悟られないよう、
優しい口調での会話を心掛けた。


「サンタさん、本当に来てくれるかな?」


今度は間を空けることなく、
しっかりと肯定する。
葵は枕元の箱を触れるが、
持ち上げるどころか、動かすことも困難なくらい
箱は重みを増していた。


功太から奪われた夢の重さだ。


再び動揺で指が震える。
一刻も早く箱を開けたかった。

しかし、どれだけ強い力で
持ち上げても捻っても、
箱は開かなかった。


「お母さん、その箱開かないよ?」

功太の声に、ドキッとした。

「どうして知っているの?」

「何となく、わかるんだ」


ああ、そうか。
喉からは自然と悲嘆の声が溢れた。
子どもの不思議な直感とは、時に的を得ているものである。

この箱は、私たちだけでは開けられない。


そして葵は気付いたのだった。

功太は口にしなくても
お父さんが居ないことを不満に思っている。

家族の愛を示す方法は、
一体どこにあるのだろうか。


心から途方にくれたときは
涙も出ないことを知った。


葵は新たな手を考えることも出来ずに
短く笑っていた。
それは諦めを意味していた。

そのとき、確かに閉めていた筈の
窓のカーテンがふわっと揺れたのが分かった。


カーテンの隙間から、一瞬暗闇が見える。

目の錯覚かと疑ったが、
暗闇から影が浮かび上がると、
その次には真っ黒い服を着た男が立っていた。

葵はすぐブラックサンタだと分かった。


「なんだ、小さな子どもも一緒にお出迎えか」

細身の黒服は軽い身のこなしをしていた。

音も立てずに窓から降りると、
意図も簡単に此方へ近寄ってきてしまった。

葵は功太を強く抱き締めることしか出来なかった。


サンタさん?


葵が口を塞ぐ間もなく、
功太は黒服の男に声をかけた。

「その通り」
ブラックサンタはとても柔らかい口調で答えた。

言葉遣いだけでは、
とても悪者だとも思えなかった。
しかし、軽くなった功太の身体が
はっきりと証明していた。

功太は、
おかあさん。
と呼んだ。


「どうして怯えているの。
大丈夫だよ」

真面目な顔をして言うものだから、
葵は自分が母親であることを思い出した。

ああ、そうだ。
家族は1人じゃあ無いんだ。
功太と手を繋いで、
再び箱に手を伸ばしかけたその時である。


「お前はこの、夢が沢山詰まった
可愛い可愛いプレゼントがどこに運ばれるか知っているか?」


ブラックサンタは、まるで絵本を朗読しているように
軽やかな口調で語り始めた。

「魔女だ。
魔女は夢を食べてその年を生きるんだ。
もしお前がその箱を開けたら、
その箱を届ける筈だった魔女が死んでしまうぞ」

最早葵にその声は届いていなかった。
葵に見えていたのは目の前にいる功太と
功太の夢が入った箱だけだった。


功太と共に箱の蓋に触れた。


箱の鍵は小さく音を立てて開いた。
思わず安堵のため息が漏れる。

「嫌だ!!」


功太が大声を上げながら
葵の手を振りほどいたその行動に
一瞬理解が追い付かなかった。


ブラックサンタが
口元を緩めたのを視界に捉えた。


「どうしてそんなことするの?!」

葵の心に優しい口調を保つ気力は
残されていなかった。
功太の腕を思わず強く握る。


「だって、そんなことしたら
魔女が死んじゃうんでしょう?」

功太は至って真面目な顔をしていた。


「だけど、そうしないと功太が死んじゃうのよ?」

諭したところで、
功太の答えは揺るがなかった。


「だけど僕が生きる為に
魔女が死んでしまうなんておかしいよ」


こうなると功太はきかなかった。

ブラックサンタは座っている葵の
視線に合わせて屈んだ。


「では、これは貰っていきますね」


葵は何故だかその様子を
昔付き合いのあった借金取りに似ているな、
と思った。
誰が何を大切にしているかなんて気にも止めず、
ただ仕事だけをしている、
そんな姿がそっくりだった。


ブラックサンタは軽々と箱を取り上げた。

「お母さん」

葵を呼ぶ功太の声色が変わった。

見ると、功太の身体が微かに
浮いていることに気がついた。


「功太!」


葵は功太が自分の元から
離れることが怖くて仕方がなかった。

功太の腕を引っ張り支えると、
ブラックサンタの方を鋭く睨み付けた。

母親の愛が作り上げた冷淡な視線だった。


「安心しな。
この箱を開けるまで、子どもは生きてる。
それまでは愛の力で支え合えば良いじゃないか」


ブラックサンタは葵の心など見えていなかった。
ただ声高く笑った。


それじゃあ。


ブラックサンタは再びひょいと跳んで
窓の縁に手を掛けた。

どう止めれば良いか分からなくなった葵は、
ただその姿を追いかけた。

慌てて裾を掴み箱を取り上げようとするが、
ブラックサンタの機敏な動きに
追い付くことができない。

腕を伸ばしながら無意識に出る声を
放ち続ける他出来なかった。

いよいよ窓から出ていこうとした
ブラックサンタは、
身体を外に投げ出した。


そうして影になる前に
何物かにぶつかり勢い良く後ずさった。

「その箱に俺の夢を入れろ。
功太の夢よりずーっと貴重だろ」


窓から顔を覗かせた男は赤服のサンタだった。
いつの間に回り込んだのだろうか。


ブラックサンタの乗ってきた
ソリの上から、部屋の窓へとひょいと移った。


「本物のサンタさんだ!」


暗い部屋のなかで、
功太の目が一瞬にして輝いたのが分かった。

同時に、ブラックサンタの顔に
若干の影が掛かるのを見逃さなかった。

「なあ赤服よ、俺の目的は分かっているだろう。
お前の夢は子どもに勝る程大きいのか?」


黒服の男はすぐにいつもの顔に戻り、
鼻で笑った。

「俺の夢はサンタであること。
俺はこの夢のために
小さな頃から多くのことを
犠牲にしてきた。
夢を見てきた長さと大きさは誰にも負けない」

それから今度は葵の方を向いて話しかけた。

「葵さんは僕に謝るなと言うけれど、
長年迷惑掛けて悪かったと思っています。
少しでもその償いが出来るならば、
僕は今心から幸せです」

ブラックサンタは少し考え込んでいたが、
決断したようで口を開いた。

「確かにお前の夢は相当な大きさみたいだな。
 俺に断る理由は無い」

黒服の男は、足元に箱を置いた。
赤服は葵の手を引っ張った。
2人の目が合ったとき、
同時に頷くのを見逃さなかった。

「貴方も一緒に開けるのよ」

葵はそう言って右手で功太の手を、
左手でサンタの手を握り、
3人の手を箱の蓋に置いた。

「本当の家族の愛じゃなきゃ、開かないんだから」


功太は小さな声で、
サンタさん?と呟いた。

最早疑う余地もなく、
3人で持ち上げた蓋はすんなりと開いた。


蓋からは何も出てきたようには見えなかった。

それでも支えていた功太の身体が
再び地についたことが、
葵を心から安堵させた。


葵は咄嗟に功太を強く抱き締めた。
喜びで涙を流したのは、
功太が生まれたとき以来だっただろう。

サンタは変わらず落ち着いていた。

「きっと葵さんと功太だけでも箱は開いたよ。
お父さんがいなくたって
ふたりは本当の愛を持ってるだろう。
本当、が1つとは限らないんだから」

そう言って黒服の前まで歩くと、
新しい箱を静かに開いた。


そこに迷いは見られなかった。


ブラックサンタは奪うように箱を取ると、
少しだけ箱を上にあげ、
目線だけで礼を言い窓の方へ歩きだした。

姿を消そうとする前に、
後ろから聞こえる赤服の声に耳を傾けた。

「夢を諦められなくて苦しんでいる人もいる。
見てはいけない夢を見てしまう人もいる。
そういう人を助けてやれよ」

黒服は一瞬立ち止まった。

「まさかサンタクロースに会えるなんてな。
俺も良い日になりそうだ」

そして、そのまま影になった。
静寂が部屋に響いた。

「あの人も誰かを幸せにしたいという気持ちは一緒なんだ。
その誰か、が『みんな』になれば
もっと幸せなんだけど」

サンタだったその男は功太の頭を撫でていた。

功太はまた、サンタさん?と、
お父さんを不思議そうに見つめていた。


私とお父さんが出会ったときね
お父さんは既にサンタさんの見習いだったんだよ。
私はお父さんのことが大好きだったから、
そのうち会えなくなることを
覚悟して一緒になったの。
お父さんは夢を大切にしていたよ。
だってサンタさんは夢を運ぶ仕事でしょう?
サンタさんが夢を諦めるわけにはいかないのよ。


赤服の男は微笑んでいた。

「だけど、今は功太のお父さんとして
大きな夢を持っているんだ。
功太が元気に大きくなること。
大きな夢が1つあれば、
あとは小さな夢が沢山あれば充分だ」

功太は小さな声で

「お父さん?サンタさんのプレゼント?」
と呟いた。


お父さんは少し困った顔をして、
「今年はおもちゃをあげられなくてごめんな」
と謝っていた。

功太は1つも怒らずに

「良いんだ。
僕ずっとお父さんがいるって信じてたんだよ」


そう言いながらずっと彼の目を見つめていた。
葵はそんな2人を愛しそうに抱き締めるのだった。


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