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ウッ

『女子特有の』という言葉がある。
大体その意味合いに良い意味が含まれることが少ないけれど、
その中でも私は、何か行動を共にする例の掛け声が苦手だ。

「一緒に○○しよう〜」のやつである。

例えば体育のマラソンだったら「一緒にゴールしよう〜」とか、
休み時間ならば「一緒にトイレ行こう〜」とかそういうやつだ。

勿論、遊びやご飯は全く苦では無い。
寧ろ誘ってくれてありがとうだ。
大体が強制的にやらされることとか自分がプラスの感情で動いていない時、
あの2文字が生まれる。
『ウッ』である。

言われる度に『嫌だなあ…』と思っていた。
ただこういう状況、大抵は相手方の全力好意である。

私は決しておひとり様が好きな訳ではないのだ。
自分のタイミングで呼吸を整えて走りたいだけで、
特別トイレに行きたくないタイミングで席を立ち上がりたくないだけなのだ。
そこには1つ1つに、ちゃんと理由がある。

まあでも、そんな感情が生まれるのは学生時代が殆どだろう。
だから皆例え話で「女子中学生みたいな」と比喩するのだ。
大人になるとある程度の物事には許容しなければいけないし、
精神的にも歳をとった私は、この苦手意識も随分忘れかけていた。
忘れた、というより無くなったと思っていたのだ。
しかし先日、『ウッ』という気持ちは、驚くべきタイミングで顔を出した。


最近の話になるが、職場では感染症対策の一貫として、抗原検査が定期的に行われるようになった。
お客様と接する機会の多い仕事なので、少しでも安心していただく為にも検査を取り入れることは妥当な判断だと思うのだが、万が一陽性になった場合その場で全員に知られてしまう【デッドorアライブ】なシステムである。
そしてこの検査なのだが、鼻に綿棒を入れて粘膜を削ぐというイマイチ他人に見られたくない方法で行われている。
どう考えても公の場で行う仕様にはなっていない。
恥なんてどこかに消えた私なので、別にやれと言われればやるのだが、気の利く上司が「女性は更衣室でやって来てもいいよ」と言うのでお言葉に甘えることにした。
じゃあ後でやるかー、と思って検査キットを机に放り投げたその時だ。
可愛い後輩がひょこひょこと近付いて来て
「一緒に検査しましょうー!」と言ったのである。

まるで何千年と眠っていた火山が噴火したような、
誰もが忘れかけていた『ウッ』が生き返った瞬間だった。
マグマは、今までどこで眠っていたの?というくらい今も尚活発に動いていた。
そしてここにある『ウッ』の正体は100%で【面倒くせー!!!】だった。

なんだ、理由なんて無いじゃあないか。
私があの頃のマラソンやトイレに関してずっと思っていた感情は
「面倒くせー!!!」それだけだったのだ。
誘ってくる相手が面倒臭いんじゃなくて、
私が極度の面倒くさがりなのだ。
寧ろ面倒臭いのは、何を隠そう私の方である。
背中に【面倒臭がりすぎて八方塞がりです】というタスキでも掛けながら歩け。

なので勘違いしないで欲しいが、後輩のことは全く嫌いではない。
後輩が善意で言ってくれたのも充分過ぎるほどに伝わった。
私は煮えきれない笑顔を作って「しようね!」と返事をして、
もう一度デスクへ向き合った。

私程の面倒臭がりを、私は知らない。

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