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ジュースみたいな酒が呑みたい

お酒が呑めない。

全くというわけではない。酎ハイやカクテルくらいならば嗜み程度には呑めるし、体調に支障をきたすなどの理由でもない。
アルコールの味が苦手なのだ。
アルコールの味さえしなければ、度数の強い酒でもある程度は呑んでしまう。
しかしそれは最早ジュースでも良い。

例えばアルコール感の少ない酒を3杯呑んだとしても、お腹がタプタプになってしまう。
みんなの言う『街中で歌いたくなっちゃうような上機嫌』を味わったことが無ければ、若気の至り代名詞である『駅のトイレで懺悔しながら吐く』なんてことも経験がない。

指折り数えかけたところで、私にとってお酒を呑む利点が1つも無いのだ。

そんな面白みのない私ではあるが、お酒に興味が無いかと言われるとそうでもない。
所以はまだ成年に達していない大学生の頃、『酒が強い女に憧れていた』ところから成り立つ。
当時の私は森ガールやフェミニン系なんて言われるファッションスタイルで、「木ノ実は雑多な大学通りにいても遠くからすぐ見つけられる」と言われるほど確立したファッションセンスを持ち合わせていた。
私はそのことを誇りに思っている。
当時の自分に1番似合う服装だったと自負している。

そんな見た目も自覚した上で意外と赤ワインやラム酒を呑めるというギャップに、大いに憧れていたのだ。
中身のカッケェ女になりたかったのだ。
そんなわけで、二十歳になるのが待ち遠しかった。

人生で初めて呑んだお酒は未だにはっきりと覚えている。
誕生日のコースで出てきたスパークリングワインだ。
スパークリングといえどワインはワイン。
憧れのワインをひとくち口にして、私はグラスをそっと机に戻した。
大人の階段から蹴り落とされたような気分に随分と落胆した。
同席した友人は笑っていた。
「まあまあ、呑み慣れれば美味しくなっていくもんよ!」
その言葉を信じて7年が経とうとしている。

そんなわけですっかり下戸代表の旗を掲げ、甘々な呑み会で烏龍茶ばかり頼んでいる私ではあるが、往生際の悪い私はお酒への憧れがすっかり消えてしまったわけではない。

そもそも、創作する人って一度はお酒に憧れないだろうか?
私はBARという店の設定が大好きである。(私のような下戸には英語表記が心許ないので、以下カタカナで表記を統一する)
バーには何か起こる。ような雰囲気があるので、
小説で何か起きたとしても、なんら違和感なく脳内に吸収されていくのだ。
バーってかっこいい。
酒は呑めない。でもバーには行きたい。
先述したように、ジュースのようなお酒なら呑めるのだ。
ジュースみたいな酒が呑めるバー無いかなあ。
友達は大酒ぐらいばかりだから、きっとお子ちゃま用のバーは知らないだろうなぁ。
と思っていたら、大酒ぐらいの友人は酒が呑めれば場所を問わないようで、模範解答みたいなバーを紹介してもらった。

200円でカクテルが呑めてしまうバー。
何が嬉しいかって、お酒の弱さも選んで注文することができるのだ。
私のようにジュースみたいなお酒を呑みたい人も、酒が出る蛇口を自室に常備して呑むのが夢だという友人も、遠慮なく同じテーブルを囲めるのが良い。
こんなにもリーズナブルで薄暗い雰囲気なのに、且つ高級感まで作り出している。
私が求めているのはこういう、ロマンだけを味わえるような店なのだ。

しかも何を隠そう私の大好きな森見登美彦作品『夜は短し歩けよ乙女』をモチーフにしたお酒もあって、今ではすっかり虜である。

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こんなに雰囲気の良い店なのに、会話も覚えていない程下らないネタしか持ち寄れないのは非常に残念である。前回の記憶なんて、彼氏から貰ったチーズケーキが腐っていた友人の話しか覚えていない。

本気のバーに通う人たちからすれば地元民が集う関西サイクルスポーツセンター並みに感じるかもしれないが、私からすればディズニーランドのような気分である。
とはいえ、実はこのバーを知ったのは数年も前の話だ。
バーを知ったようなフリをして調子に乗っていたら本気のバーで鉄槌を下されることになるのだが、その話は追い追いしたい。

とにかく、間違えてジュースを出されても構わないくらい酒の味を覚えられない私ではあるが、そんな私ですら楽しめるバーは存在するのである。


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