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第3話|隠す者と隠される者

※紺野うみのエッセイマガジン『心の中に6人の住人がいたので、自己分析ができた話』の第3話です。この連載は、一度購入するとシリーズで続編が読めます。単話ごとの購入も可能ですが、継続して読む場合はマガジンの購入がお得です。

無料導入編➤はじめに|私の中に誰がいる?
登場住人紹介
第1話|自己否定だらけの私を変えたもの
第2話|心の扉を開く旅の始まり
第3話|隠す者と隠される者
第4話|鉄壁の守りが崩壊したワケ
第5話|6つの扉が明かされて
第6話|住人チームコンサルティング
第7話|自分という世界の外交と内政


➤頑な委員長の扉

後に私が「リンさん」と名付けた、この女性と出会ったことで、私の胸の中で眠っていたさまざまな想いが、ふたを開けて出てきたような感覚でした。

本来なら彼女も、もっと外に出てイキイキしているはずなのかもしれない……。
それなのに彼女は長い間、そうできずに部屋に閉じこもっているしかなかった、ということなのでしょう。
そのことに気がついて、胸の内は申し訳なさや情けなさでいっぱいに。

そんな時。ふと我に返ると、グリーンダカラちゃんが足元で、床にころころ寝転がって静かに私を待っていました。
もちろん、その光景には一瞬で気持ちが癒されてしまいます。

彼女は私が自分の方を見たのに気づくと、またぴょこんと立ち上がります。そして「どうする?」とでも言いたげに、ニコニコと私の顔を見上げるのでした。

せめて、もう一人くらい会えないものだろうか……と、欲張りになる私。
会えるものなら会っておきたいと思い、私はその意志を伝えようとしたのですが、それよりも早くグリーンダカラちゃんがててっと駆け出しました。

この子は私の考えてること、なんでも分かっちゃうみたいだなぁ……と思って感心した後、それもそうかと納得。
そんなの、ここは私の心の中なんだから、当たり前なのかもしれません。

彼女は今度はまっすぐに、広間の中央の机を挟んで対に位置している、水色の扉の前で足を止めます。

次は、ここがいいってことなのかな……?

もうあまり躊躇うことなく、私はグリーンダカラちゃんを信じて扉をノックしていました。

間もなくして、中から扉を開けたのは、高校生くらいの女の子。眼鏡で三つ編み、固い表情が印象的でした。
なんだか委員長っぽい子だなーと思い、直感的に「委員長」と名前を決めてしまったほどです。笑

少しばかり気になったのは、最初に扉を開いた瞬間、彼女の表情はとても暗かったのですが、私の顔を見るなり条件反射のようにスッと作ったような笑顔になったことでした。

 「ああ、どうも。グリーンダカラちゃんも。……どうしてここへ?」

笑顔のまま、彼女は流れるようにしゃべります。
たしかに笑顔……なのですが、どこか拒絶されているような雰囲気がしています。

私自身、そういう人のかもし出す雰囲気にはわりと敏感なので「ちょっと警戒されている……?」というのはなんとなく感じます。

「いえ、あの……。どんな人がいるのかなって思って、会いに……」

しどろもどろにそう答えると、心なしかその笑顔がさらに固くなったような気がしました。
すると、有無を言わさない口調で、委員長は言うのです。

「……心配しなくても大丈夫ですよ。失敗しないように、私がちゃんとコントロールしていますから。とにかく今は、上司の指示通りにがんばるしかないので!」

余計なことはしないでくださいね、とでも言いたげな、裏側の気持ちが見え隠れしてきます。

「あ、そう……ですか……」

むきになったように言われ、その頑なさに私は戸惑うしかありませんでした。
どことなく疲れている様子なのに、その瞳だけはなぜか必死なのです。

そんな委員長を目の前にながら、その姿には心当たりがありました。
まるで近頃の自分を、客観的に見せられているかのように思えてならなかったのです。

「辛くても、信じてがんばらなきゃ!」
「間違っているのもダメなのも、未熟な自分なんだから」

ああそうか……と、私も理解しました。
私はたぶん、ずっと、この「委員長」で過ごしているのかもしれない。

どこにいても、何をしていても、彼女が私をコントロールしています。
失敗をしたり、少しでも現状に疑問を持ったりしたら「委員長」が、自分で自分を叱りつけるのです。

「私はもっと努力をしなければいけないし、がんばらなきゃいけないでしょう!?」……と、尊敬する上司の役に立つように、決して足を引っ張らないようにと必死になっているのでした。


➤委員長の隠しごと

その時でした。どこからか、突然なにかが壊れるような物音が聞こえてきたのです。

とたんに委員長の顔から笑顔が消え、元々よくなかった顔色がさらに青ざめたように見えました。

音は、どうやら委員長の隣の部屋から聞こえてきます。
水色の扉の隣は、檸檬色の扉。――その向こう側からです。

なにごとか!? と思いながらそっちを見ていると、委員長は慌てたように言いました。

「とにかく、私に任せてください。大丈夫なので!」

委員長に背中を押されるようにして、私はその場から遠ざけられました。
何か言う前に、入口の方にぐいぐい押し戻されてしまいます。

……いや待って待って、なにかヤバイものがいるんじゃないの?

どう考えても、檸檬色の扉の向こうがあやしいのです。
私がいぶかしんでいるのに委員長も気づいて、彼女はまたあ鉄壁の笑顔を作りました。

「ご心配なく。私がどうにかしますので」

ど、どうにかって……!?

委員長はとにかく、終始「頑な」なのでした。
そしてそのまま嵐のように、急いで自分の水色の扉の中へ戻っていってしまいます。

ぽつんと取り残されて、またシンと静まり返る広間……。

私が入口のところまで追い返されてしまったのを、いつの間にかグリーンダカラちゃんが机を囲んでいる椅子のひとつに座りながら、足をぶらぶらさせたりしてニコニコ見ていたようでした。

謎めいた檸檬色の扉のせいで不安な気持ちになっていた私でしたが、その呑気で変わらない笑顔にホッとするやら、ちょっと笑えてしまうやら。

焦らないで大丈夫、と彼女に言われているように感じて、私はやっと「今日は、もういいかな。戻ろう……」と思えたのです。

そしていつものように、グリーンダカラちゃんに見送られながら、イメージのひとときを終わりにしたのでした。


➤檸檬色の扉の謎

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