コードの通じない語り手 —太宰治の小説「親友交歓」について—
今回は、太宰治の短編小説「親友交歓」について見ていきます。
これは、作者の太宰自身であると考えられる語り手の許に、一人の男が訪ねてくる話です。東京において戦争で罹災したために、津軽の生家に避難していた語り手は、そこで小学校の同級生だと名乗る男の来訪を受けます。その男は百姓であり、東京で文学者として成功した語り手に対して、しきりに色々な物をたかります。要するに、勝手に「親友」を名乗るしたたかな田舎者にたかられた、という話なのですが、語り手はこの話をする前に、十全な前置きをし