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風邪の日に思い出すオムライスと母のこと

起きたら、のどに刺すような痛み。

「風邪だな」

痛むのはのどだけ。漢方薬を飲んで、マスクをかけて外出。でも大事をとって早めに帰宅することにした。スーパーでみかんとプリンを買い、薬局で薬を補充して家に戻る。

具合が悪いのを自覚したら、途端に体が重くなってきた。イソジンでうがいをし、水分と食事をとった上で、薬を飲んで横になる。

ベッドの上でまどろみながら、子どもの頃、風邪をひいたときのことを思い出していた。わたしは滅多に風邪をひかない子どもだったが、あるとき、ひどく熱を出した。

「何が食べたい?」

と母に聞かれ、遠方にあるお店のオムライスが食べたいと半ば冗談で答えたわたし。母は外出し、わたしは一人リビングで眠っていた。目を覚ますと母が帰っきていた。わたしが食べたいと望んだオムライスをテイクアウトして。

「ほんとに買ってきてくれたの?」

わたしは驚いた。お店は遠方にあり、それは子どものわたしにとって贅沢な食べ物だったから。母はちょっとあきれたように言った。

「食べたいって、言ったじゃない」

そうだけど。でもほんとに買ってきてくれるなんて。風邪をひいてちょっとラッキーだったな。当時の私はそんな風に思ったのだった。

眠りから冷めると、そこは実家ではなく、自宅だった。外はもうだいぶ暗くなっている。進学を機に実家を出てから長い長い時間が経った。風邪を引こうがケガをしようが、一人でなんとか乗り切ることもできるようになった。できるようにはなったけど、いつも平気なわけではない。正直、今はあのオムライスがちょっと恋しい。オムライスと、母のやさしさが。

今度帰省したら母に聞いてみよう。あのときのこと、覚えている?と。

ありがとうございます。いつかの帰り道に花束かポストカードでも買って帰りたいと思います。