WEBTOON翻訳で「うまく訳せない」理由を分析してみた~その1


WEBTOON翻訳を進めていくと、どこかで「うまく訳せない」という壁に直面します。この「うまく訳せない」の正体は何なのか。その理由について考えてみました。

この2年半で約1500話のウェブトゥーンを翻訳してきましたが、その経験を思い起こしながら、自分なりの分析結果をまとめてみます。

▼下書きメモ
今回のまとめは赤枠部分です

「うまく訳せない」理由は大きく分けて3つあった


1. 原文が正しく読めていない
2. 日本語でうまく表現できない
3. 自分の得手不得手を理解していない

1. 原文が正しく読めていない

まず「正しく読む」を「何を読み取るべきか」と定義してみます。では、何を読み取るべきか、以下の6つに分けて考えてみます。

(1)どんな物語か
(2)作品の前提条件は何か
(3)どんなテーマを扱っているか
(4)キャラ同士の距離感
(5)キャラの感情や心情
(6)キャラの身振りや動作
(7)キャラはどんな性格なのか


(1)どんな物語か
訳す前にどのようなあらすじなのかを理解していないと、場当たり的なセリフになってしまい、後から矛盾した内容で翻訳してしまう可能性があります。逆に言えば、あらすじをしっかり頭に入れておくと、訳しながら次の展開を見据えることができるので、論理的にセリフを繋げやすくなります
。つまり、読みやすい訳文が書きやすくなります。

(2)作品の前提条件は何か
作品の前提条件とは設定や世界観です。ファンタジーなのか、転生ものなのか、リアルなドラマものなのか、その世界のルールがどうなっていて、固有名詞はどういったものが使われているのか等が、これに当たります。

仮に「異世界への転生」というジャンルに触れたことがなければ、作中で一体何が起こっているのか理解できず、ナレーションや台詞が文字の羅列にしか見えません。例えば、私が武侠(仙侠)ジャンルを最初に訳した時は、マンガのはずなのに、まるで文献を読んでいるかのようでした。


(3)どんなテーマを扱っているか
設定や題材とは別に、その作品で描かれているテーマが分かれば、その作品に対する理解度がより深まります。親子愛・復讐・正義・恐怖など、主人公やヒロインが、どんな目的を持って、その作品の中で生きているのか。テーマが分かれば、作品に寄り添った翻訳ができるようになります。


(4)キャラ同士の距離感
キャラ同士の距離感はとても大事です。なぜなら「呼称」や「口調」に大きく影響してくるからです。分かりやすい例として、原文では子供が大人に対して「敬語」を使っていても、親しい間柄だったり、生意気な子供だったりすれば、日本語では「タメ語」のほうが適切な場合もあると思います。

これは、年齢性別を問わず、職場・友人間・恋人間など、様々な人間関係で発生しています。よって、キャラ同士の親密度、あるいは敵対心といった距離感を表す描写は、常に気を配って読み取る必要があります。


(5)キャラの感情や心情
キャラがどんな感情で、そのセリフを言っているのか。これはセリフ翻訳において大事な要素です。例えば、原文に「うるさい」と一言だけ書いてあっても、キャラが怒っていれば「うるせえ」「うるさい!!」、または「黙れ」「静かにしろ」のように、表現を変える必要があるかも知れません。

もし、穏やかな感情であれば、「うるさいな~」「静かにね」「シッ!」となる可能性もあります。これが長文になると、ますます単語のチョイスや表現を感情に合わせる必要が出てくるでしょう。


(6)キャラの身振りや動作
翻訳に熱中していると、フキダシばかりに目がいってしまいますが、当然ながら、まず観察すべきは「絵」です。

例えば、キャラの頬が赤らんでいれば、そのキャラは「照れている」のであって、後ずさりしていれば「ビビっている」のです。目を見るだけでも、「真剣」なのか「うつろ」なのか分かります。当たり前のようですが、こういった手がかりを頼りに、キャラの感情や心情を読み取って、丁寧に、セリフに反映させていきます。

もちろん、オノマトペ(効果音・擬音)から、キャラがどんな動きをしているのか、どんな心情を表しているのかも読み取り、セリフに反映させることも大事な部分です。たまに、全体的に効果線の少ないコマや作品もありますが、その場合はキャラがどう動いているのかをしっかり頭で想像して、訳文に反映していく必要があります。


(7)キャラはどんな性格なのか
これは、キャラの口調に統一感を出すためにも、重要な要素です。

性格が把握できれば、キャラの反応をより解像度を高めて思い描くことができるので、感情移入もしやすく、一層そのキャラらしいセリフとして翻訳することができます。また、見た目や属性では分からない部分でもあります。

ポイントは、「そのキャラが何に怒り、何に喜び、どんな目的を達成しようとしているか」に注目することです。

例えば、誰かが虐げられている姿を見て怒るキャラであれば、「正義感が強い」「優しい」性格であり、侮辱されて怒るなら、そのキャラは「プライドが高い」「気高い」「器の小さい」「自信のない」性格の可能性があります。

仲間や恋人、家族ができて嬉しがっていれば、「寂しがり屋」「孤独」「不安」なキャラかも知れません。

復讐が目的だったり、嫉妬深いキャラなら、「過去にトラウマ」があったり、金持ちや地位にこだわるキャラは、「野心家」だったりします。

もちろん、天邪鬼のような複雑なキャラもいますが、これらの点に注目しながら読み進めると、キャラの性格や育った環境などが予想しやすくなり、作品(原文)への読解力が深まって、セリフが翻訳しやすくなります。※キャラの性格や口調が、最初から指定されている場合は、それに従います。


まとめ

これらの点に注意しながら、「翻訳に必要な情報を正しく読み取ること」で、ウェブトゥーン翻訳がよりスムーズになります。


今回は、ウェブトゥーンを「うまく訳せない」時に予想される3つの理由のうち、「原文が正しく読めていない」場合を、7つに分けて考えてみました。


(1)どのような物語か
(2)作品の前提条件は何か
(3)どんなテーマを扱っているか
(4)キャラ同士の距離感
(5)キャラの感情や心情
(6)キャラの身振りや動作
(7)そのキャラはどんな性格なのか


次回は、2つめの「 日本語でうまく表現できない」の理由を分析してみたいと思います。ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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