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#5分で読める小説
【短編小説】12/31『108の鐘の音とコタツを彼女と』
近所のお寺で鐘を突く音が聞こえる。最初のうちは二人で数えてたけど、二十を超えたあたりから眠くなってきて、やめた。
「羊じゃないのに眠くなるんだ……」
彼女がコタツの天板に顔を乗せて言った。
「単調な作業が眠さを誘導するんでしょ。あと、やっぱコタツって眠くなる」
「んー。なんかやることあったっけぇ」
「ないよ。全部昼間のうちに終わらせたもん」
「だよねぇ。洗濯も掃除もして、年越しそば食べて、明日
【短編小説】12/30『モグリの電車』
通勤で利用する電車がとある駅のホームに着くたび思い出す。
昔、芸人さんが電車を擬人化させたコントやってたなぁって。
対立関係にある銀色の電車と黄色の電車が同じ駅の同じホームに停車したところからコントが始まる。
お互いがお互いの欠点を言い合い、貶し、自分の方が優れていると主張する。
そのホームでは決着がつかず、二路線はホームで分かれて駅を出る。
次に二路線が一緒に停車したホームは、先ほ
【短編小説】12/29『抽選器からアルマジロ』
『歳末大セールの抽選会場はこちらでーす!』
派手なハッピを着て、プラスチック製のメガホンを持った男の人ががなってる。吐息がマスクの隙間から出て眼鏡を曇らせる。
寒いのに仕事大変だなぁ……。
僕が吐いた息もちょっと白くなって、すぐに消えた。
年末年始に必要なものの買い出しに来たはいいけど、人が多くて少々疲れた。
そういう人のために開放されているらしき、休憩所という名の倉庫に置かれたパイプ椅
【短編小説】12/28『バランスのいい食事を、と彼が言う。』
仕事帰りにスーパーへ寄った。夕飯を買うのだ。
今日は疲れてて面倒だけど頑張ったご褒美欲しいから、好物の明太子と白飯にしようかなぁ。それともイクラ? いや、高価(たか)いな……と鮮魚コーナー付近を物色していたら頭の中で声がした。
(身体に悪いよ。ちゃんと他のも食べて?)
ヤマザキさんだ。
私の命が危険に晒されたとき、助けてくれた人。だいぶ前に亡くなっていて、いまは天界で人を助ける仕事をしてい
【短編小説】12/27『浅草の朝』
健康のため、散歩がてら川沿いを歩きつつ、散歩中の犬をガン見して愛でる。
地図アプリによれば、目的地まではもう少し。
古風な見た目の建物が並ぶ小道を通り抜けると、パッと視界が開けた。
おぉー。
テレビなんかで良くみる、赤くでっかい提灯が目の前に! 感動!
近所に住んでるのに初めて生で見た。もっと早く来れば良かったなー。
夜明け少し前の、冷たいけれど清々しい空気の中で大きな門を見上げた。
【短編小説】12/26『海腹川背』
乾燥機から洗濯物を取り出して畳んでいたら、玄関を開ける音が聞こえた。
「ただいまー」
「お帰りなさい。どうだった?」
その問いに彼の顔が緩んだ。どうやら釣果はあったみたいだ。
「めっちゃめちゃ釣れた。予約した船の船長が有能な人でさ、凄かったのよ!」
「ほぅほぅ」
「見てコレ」
満面の笑みで出してきたスマホの画面には、人間の身体より大きな魚と彼が並んでる写真が表示されている。
「でかっ、すご」
【短編小説】12/25『ワタシに願いを』
毎年定番のものから新たに発表されたものまで、冬の大きなイベントが題材になっているそれらが街に流れ始めた。
きっとこないであろう“キミ”を待ってみたり、クリスマスキャロルが流れるころに思いを馳せてみたり、プレゼントよりも“貴方”が欲しいとせがんでみたり……なんのかんのシチュエーションは違えど、“恋人たち”に向けた楽曲が多い。
ワタシ的にはムーディーなものよりアップテンポで楽しげなものが好きだ。
【短編小説】12/24『大人になったら欲しいもの』
『ごめん、いつも』
「……なに、急に。どうしたの?」
『いや……メンバーに言われてさ……。こういうイベントの日に会えないの、我慢してる彼女に感謝しろって』
「うん……いや、別に、あまり気にしてないから」
『だよね』明らかに声色が明るくなった。『ほらぁ』あぁ、後ろにメンバーさんいるのね。
「職場とかじゃないの? 大丈夫?」
『大丈夫、シズカんち』
「そう。っていうか、メンバーさんと一緒なら」
『ちが
【短編小説】12/23『テレカ 〜テレホンカードの【本当の】使い方〜』
テレカを差し込み、早く飲み込めとカードを指先で叩くが動かない。受話器を取らねば通話ができない、と説明されてことを思い出し、慌てて受話器を上げる。
さっきまで動かなかったテレホンカードは電話機に吸い込まれ、カードの残り度数が小さい画面に表示された。
数字が刻まれた丸いボタンをせわしく叩く。
『はい、召喚獣派遣請負、サモン株式会社です。どの属性をご希望ですか』
「木属性のモンスターを!」
「現在
【短編小説】12/22『平和な村に転生してスープが冷めない距離に住む幼馴染とイチャコラする話』
次に生まれ変わるなら平和な国がいいと願った。
戦争などない、ただ平和で毎日が緩やかで、少しだけ退屈なくらいの――。
『平和な村に転生してスープが冷めない距離に住む幼馴染とイチャコラする話』
ようやく身体が自分の意思で動かせるようになったな……。
頭の中で考えるのは元・傭兵のゴジバイそのもの。しかし口はまだ思うように動かず、喃語しか喋れない。
それでも自分の意思が通るだけマシだな。
【短編小説】12/21『とおいおと』
時間でもないのに時を報せる鐘の音が聞こえる。
人々が見上げると、撞木(しゅもく)から伸びる縄を持った動物が顔を見せた。
逆行に照らされ、人の目には黒い影にしか見えないその生き物が声をあげた。
『私キツネ! 鐘撞きしたわ!』
「意外や意外」
喋るキツネを目の当たりにして目を丸くして驚かせる人。
「恋しい、初々しいコ」
瞳を輝かせる動物好きな人。
反応は様々だ。
いたずらっ子のキツネが人
【短編小説】12/20『ラティメリア・カルムナエ』
生まれて初めて見たシーラカンスは、なにかの液体に漬けられ、水族館の片隅に展示されていた。
下からのライトに照らされた色の抜けたその姿がなんとも不気味で、幼心に恐怖を覚えた。
それがトラウマになったのか元からの性質なのかはわからないけど、いまだに海の生き物が苦手だ。
水揚げされて店に並んでいるのもちょっと怖いけど、水族館などで泳いでいるのはもちろん、その姿を映像で視るときも恐怖心が湧いてくる
【短編小説】12/19『代償』
うおおおぉぉぉ!
スタジアムに歓声が響き渡り、俺の心は今日もチームを勝利に導くことができたという安堵で満たされる。
息を吐き、仮想空間の中でゴーグルとコントローラーを置いた。
「今日も大活躍だったな」
たったいま、試合が終わったばかりの俺を、監督が労ってくれる。
「ありがとうございます!」
ドローンサッカー選手として出場していた俺は、フィールドから自分の分身を充電ドックに戻した。
俺の
【短編小説】12/18『家獅子が守るモノ』
不安になって三十分前にも確認したのに、また玄関のドアが施錠されているか不安になってドアを確認した。
もちろん鍵はかかっていて、外から開けられる状態ではなかった。
室内にいるときだったらすぐに確認できるけど、外出時だとそうはいかない。
施錠したかどうかを確認できるキーホルダーも、うちの鍵の形状は対象外だった。
ドアに手をかけ施錠を確認したら、背後から少し寂し気な声が聞こえてきた。
『あるじ