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【短編小説】12/22『平和な村に転生してスープが冷めない距離に住む幼馴染とイチャコラする話』

 次に生まれ変わるなら平和な国がいいと願った。
 戦争などない、ただ平和で毎日が緩やかで、少しだけ退屈なくらいの――。

『平和な村に転生してスープが冷めない距離に住む幼馴染とイチャコラする話』

 ようやく身体が自分の意思で動かせるようになったな……。
 頭の中で考えるのは元・傭兵のゴジバイそのもの。しかし口はまだ思うように動かず、喃語しか喋れない。
 それでも自分の意思が通るだけマシだな。
 傭兵時代は本当に辛かった。
 あちらで戦があれば戦地に赴き、こちらで戦があれば銃を構え……何度消えてなくなりたいと願ったことか。
 若くして命を落としたが正直ホッとしていた。これ以上、誰にも苦しい思いをさせずに済むのだと。
 今世の親は前世の親と違い俺を売ったりしない。兄は俺のことを助けてくれるし、姉は両親同様俺を溺愛中。なにより、隣家には過去世で何度も人生を共にしたソウルメイト(いまの名前はリリーシュカ)がいる。
 前世では戦地を共にする盟友であったが、今世では夫婦になる約束をしている。
 過酷だった前世を癒すように、可愛い幼馴染とイチャイチャきゃっきゃするのが今世の目的だ。
 というわけで時は経ち、家族同然に育ってきた俺とリリーシュカは、当然のように将来を誓い合う仲になった。
 リリーシュカは過去世の記憶がないようだけど、俺はバッチリ記憶を保持してる。天界での記憶は覚えていないが、いまのこの記憶が前世のものだと自覚している。ゴジバイの人生で、安らぎを欲していたのだから、記憶を持ち越したいと願ったのだ。
 だから新しい名前を呼ばれると、いまだにちょっとだけ違和感がある。ゴジバイとして過ごした人生の年数を超えてしまえば、きっと馴染んでくるだろうとは思うけれど。

 家で勉強していたら、ドアをノックする音が聞こえた。
「アーリー? いるー?」
「いるよ、リリーシュカ。どうしたんだい?」
「ノエル用のお料理について相談したいの。いま、いい?」
 手に鍋を持っておいて、いい? もなにもない。
「もちろん、どうぞ」
 ドアを開けてリリーシュカを家に招き入れた。家族はみな仕事で出払っていて、家には俺ひとり。そんなのお構いなしにリリーシュカが問いかける。
「ノエルだからチキン料理がいいかしらって思ったんだけどね? 人気だから高価じゃない? それに丸焼きはちゃんと火が通っているか心配になってしまうし。だったら余熱で火が通るローストビーフがいいかしらって……なぜ笑っているの?」
「いや? なんでも。メインディッシュの相談なのにスープを持ってきたのかい?」
「あぁ、これは、あなたのママからあなたのお昼ご飯を頼まれていて……ミネストローネ風ポトフを作ってきたのだけど」
「やった、食べる。お腹ペコペコだったんだ」
 さっき火からおろしたのだろうか。蓋を開けると湯気が立って、野菜の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「美味しそう」
「でしょう? 今日のは自信作」
 リリーシュカは言って、慣れた手つきでキッチンから二人分の皿とレードル、カトラリーセットを取り出してテーブルへ置いた。
「ぬるくなってたら温め直すけど」
「大丈夫だよ」
 俺が笑いかけると、リリーシュカは少し恥ずかしそうにしつつ皿にスープを注いでくれた。
「はい、どうぞ」
「いただきます!」
「いただきます」
 向かい合わせで座ったリリーシュカは俺の感想を不安そうに待つ。
「うん! 旨い!」
「良かった~。初めて使うソーセージだから、味どうかなと思ってたんだけど」
「めっちゃいい出汁出てる。リーシュも食べなよ」
「うん。……ん、美味しーい」
「これ、ノエルのときまた作って」
「わかった。同じソーセージ買うね。あ、そうそう、それで、ノエルのディナーなんだけどね? ノエルに従って正統にチキンにするか、ビーフにするか――」
 他愛のない会話をしながら、平和なときが過ぎていく。
 あぁ、この退屈なくらいの平和な日々が、俺にとっての極楽だ!

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