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2023年11月の記事一覧
【短編小説】11/30『三人の太郎が各姫たちと赤い女の子の応援を受け、動物や昆虫、老爺と協力し、朔風と陽光を味方につけて赤さん青さんたちのために大きな野菜を引き抜くお話』
「あっ」
本棚を整理している最中に、手が滑って抱えていた本を床に落とした。
ドカドカッと音を立てて散らばった衝撃で、絵本の中から登場人物が飛び出してしまった。
投げ出された床から起き上がり、桃太郎、金太郎、浦島太郎が顔を見合わせた。
『おいら金太郎。お前たちは?』
『桃太郎です』
『浦島太郎と申す』
どうもどうも、初めまして、などと挨拶を交わし、ゆっくり立ち上がった。
『おや、あちらにお困
【⚠️閲覧注意⚠️想像したら気持ち悪いかも】【短編小説】11/29『ボクを満たすもの』
食べるために目の前で命が終わるなら断るけど、食料として処理されてしまっているものは無駄にしたくないから有り難く頂く。
彼女はそう言って、最期までそれを貫いた。
けれどボクは思う。
いざというとき生き残るのは、“そういうのを気にしない奴”だって。
だからいま、ボクの腹は満たされている。
世界にたったふたりだったニンゲンはボク独りになっちゃったけど……ボクはなにも後悔していない。
【短編小説】11/28『猫の猫による猫のための』
猫の世界には、ヒトが知らない秘密がたくさんある。
猫がなる猫の医者、猫が運営する猫のための施設、猫又になる方法を学ぶために猫が通う猫の学校……。
「え? 川の中にあるんです?」
「ぃゃメダカじゃねんだから……。ちゃんと地面の上にありますよ」
「猫ちゃんなのに勉強するなんて、めっちゃ偉いですね」
「猫さんのことバカにしてます?」
「めっそうもない! 猫ちゃんは猫ちゃんというだけで素晴らしい存在な
【短編小説】11/27『組み上がるカンケイ』
ギュルルン、ドルルン。
青い空に機械の音が溶けていく。
ギュルルン、ドルルン。
庭に敷いたレジャーシートの上で家具が組み上がっていく。
組み立てる私を縁側から見守るピンク髪の男子に笑いかけた。
「電動ドライバー、マジ便利だね」
「でしょ? だから言ったじゃん、早く買えって」
「いや、使う機会そんななくない?」
「あるっしょ。これからリフォームしてくんでしょ?」
「リフォームってほど大げさ
【短編小説】11/26『最終的には惚気的なアレ』
「……ということで、新境地を開拓していただきたいと編集長が」
「ですよねー。いい加減マンネリですよねー」
「マンネリでも、先生の作風や定石が好き、という固定の読者さんがいるのでそれはそれでいいんです。先生の問題ではなく、当社の問題なのです」
「新レーベルには新しいジャンルが欲しい、と」
「はい」
「新ジャンルねー」
唸るように言って、手で顔を覆った。
私は官能小説家。大まかに言うと“エロい小
【短編小説】11/25『美しき幸福』
はあぁ……美しい……。
トルソーに着せたランジェリーをあらゆる角度から眺めて、ウットリとため息をつく。
色、形、デザイン、縫製。そのどれもが美しく、優雅で雅だ。
作成時に想定されたであろう体形で着こなすためには、着用する側の努力も必要だと私は思っている。
私の身体はまだその地点に到達していないから、完璧な体形であるトルソーに着てもらって眺める日々を過ごしている。
痩せすぎていても肉付き
【短編小説】11/24『よみがえる想ひ出横丁』
満月の夜にだけよみがえるその商店街は、【想ひ出横丁】という――。
帰宅途中にちょっと寄り道をして、とある商店街を通った。店の九割が閉店している、いわゆる【シャッター通り】だった。
アーチ状の看板も日焼けして色落ちしてるし、夜間でもネオンが光ることはない。
近所の人の通り道になっているのか、等間隔に並んでいる街灯が細い光を放っていて、真っ暗なわけではないが寂れていることに変わりはない。
【短編小説】11/23『珍味をこよなく愛する』
酒には弱いがツマミが好きだ。特に珍味系。塩辛にサキイカ、ワサビ漬けやチャンジャなどなど。なかでも一番好きなのはエイヒレ。
しょっちゅう居酒屋には行けないから、自宅で炙るタイプのエイヒレをスーパーでたまに買う。
決して安くはないので、たまの贅沢品って感じだけど、たまにだからいいんだよね。
最近だとノンアルコールビールで美味しいものがあるから、それと一緒にいただくとまた格別。
友達の知り合い
【短編小説】11/22『愛の言葉と砂の嵐』
「俺、喜美香のことが、【ザッ……】んだ」
あぁ、まただ……。
どうしようもなく悲しい気分になる。
どうして私は、その言葉を聞き取ることができないのだろう。
テレビの画面が乱れたときのような音と視界。
目の前に一瞬走る砂嵐とザラついた音に掻き消されて、相手の言葉がわからなくなる。
砂嵐に掻き消されるがまま、その言葉がどんなものかを知る由もない。
この人は私になにを伝えたかったんだろう
【短編小説】11/21『もう触れられない指先』
確かに、『あの中に入りたいなー』とは思った。でもそれは、『あの(人たちの輪の)中に入り(仲間になり)たいなー』って意味でさ、こういうんではないんだよ。
テレビ画面の中から、私の上半身が出ている。目の前に、目を見開いて驚く男性。それを見て驚く私。
男性はさっきまで私が見ていたドラマの主人公だ。
男性にはきっと、私の姿があのホラー映画で有名な人のように見えてるだろう。さぞかし怖かろうなと気の
【短編小説】11/20『猫と陽だまり』
やっとこの季節が来た。
「毛布っふ出すよー」
キャットタワーで寝ている愛猫に声をかけるけど無反応。一年前のことだし、忘れてるのかもしれない。もしくはいまは、それほど寒くないのかも?
とりあえずベッドメイキングがてら、猫が気に入っている毛布を出した。長方形の小さいやつ。人間だと肩口くらいしか温められないけど、猫には充分な大きさ。
実家から持ってきたやつだから柄はちょっとダサいけど、猫的には関
【短編小説】11/19『ナイショのお姉さん』
朝は緑のおばさん。でも夜は……。
日焼け対策として身につけている帽子にアラビアンマスク、手の甲が覆える長い薄手の手袋。
毎朝会うのに誰もその人の素顔を見たことがない。
「きっと秘密結社の人なんだよ」
「だれかのお母さんがこっそり見守ってるんじゃないの?」
「口裂け女だって聞いた。あのマスクをめくると……こえー!」
「可愛いコを探して見つけて、隙あらば誘拐しようと企んでるんだ!」
など
【短編小説】11/18『離れて暮らす幸せがある』
他人とは一緒に住めない。でも、あなたとは一緒になりたい――。
「ご飯できたけどどうする?」
『お、じゃあ食べに行こうかな』
「はーい、待ってます」
通話を終えて、食卓に夕ご飯を二人分並べる。電話の相手はこの間結婚して、隣の家に住んでいる夫。
彼と私の希望が一致して、同じマンションの同じ階、隣同士の部屋に住んでいる。お互いの部屋に行き来して、たまに寝泊まりして、でも普段は別の家で暮らしている
【短編小説】11/17『腹は温か、懐寒し。』
ついにやってしまった。
揃えてしまった、あの“三十六景”の腹巻きを。
店舗では扱ってない10作分も含めたオンライン限定セットを見つけてしまったが運の尽きだった。
36枚の値段で10枚もおまけに付いてくるとかお得じゃん! って思うじゃん⁈
とはいえ決して安くはないので、今月はもやし中心の食生活だ。しかし悔いはない。
床に並べた46枚の腹巻きは美しく、壮観だ。
この絵を崩さず身につけられ