【短編小説】11/30『三人の太郎が各姫たちと赤い女の子の応援を受け、動物や昆虫、老爺と協力し、朔風と陽光を味方につけて赤さん青さんたちのために大きな野菜を引き抜くお話』
「あっ」
本棚を整理している最中に、手が滑って抱えていた本を床に落とした。
ドカドカッと音を立てて散らばった衝撃で、絵本の中から登場人物が飛び出してしまった。
投げ出された床から起き上がり、桃太郎、金太郎、浦島太郎が顔を見合わせた。
『おいら金太郎。お前たちは?』
『桃太郎です』
『浦島太郎と申す』
どうもどうも、初めまして、などと挨拶を交わし、ゆっくり立ち上がった。
『おや、あちらにお困りの方々が』
浦島太郎の言葉に視線を移動させると、少し離れた場所で、かぐや姫、人魚姫、親指姫、白雪姫、赤ずきんが身を寄せ合っている。
『お嬢さんがた、どうかしたかい?』
金太郎が斧を担ぎながら遠巻きに声をかけた。
『あちらに狼がいて……』
『ほう。なにか悪さをするようなら懲らしめて……』
『金太郎さん、狼にもなにか事情があるかもしれないよ。平和的解決ができるかどうかを聞いてからにしないかい?』
さすが亀を助けた浦島太郎、慈愛に満ちている。
声をかけようと近づく浦島太郎に気づいて、狼たちが助けを求めた。
『人間たち! 鬼と会話はできるか⁈』
『お、鬼⁈』
見れば、遠くで赤鬼たちと青鬼たちが金棒を担いでウロウロと徘徊している。
『あんな太い棒で殴られたら、俺たちゃひとたまりもない!』
『鬼と人間はカタチが近いから、俺らみたいに狩られないだろう?』
『もう悪さはしないから、助けてくれ! なっ』
『気を付けてください、狼たちはウソをつきます』
遠くから赤ずきんが声をかける。
『おぉ赤ずきんじゃないか! もうウソはつかない! お前のばぁさんにも手は出さない。だから、なっ!』
皆が赤ずきんに注目した。赤ずきんは納得いっていないようだが、おばあさんを引き合いに出されたからか渋々了承した。
狼たちは浦島太郎と一緒に姫たちと赤ずきんを守るために移動し、腕っぷしの強い金太郎と桃太郎が鬼に立ち向かおうとした。しかし。
『やぁやぁ人間たち! 悪いが協力してくれないか。我々の大事な食糧が大きく育ちすぎて、収穫ができんのじゃ!』
『このままではワシら全員腹を空かせて倒れてしまう。どうか助けてくれないか』
鬼たちが指さすほうに、鬼の二倍はあろうかという長さの菜っ葉が見えた。床に盛られた土の中から、白い実の一部が頭を出している。
『君たちは、人間を襲わないのか』
桃太郎が問うた。
『なにを言う。人間がワシらの宝を求めて襲ってきているのだ。ワシらが人間界で暴れたことがあったか?』
『……確かに。育ててくれたお爺さんとお婆さんに頼まれて鬼ヶ島へ行くことになったが、理由までは聞いていない』
『食料がないと人里に出て探さなければならん。争いたくはないから出来れば避けたい』
『あの実があれば、島の鬼らの腹は当分満たされるのだ』
ならば仕方ないと、桃太郎と浦島太郎、力持ちの金太郎が腕まくりをし、三匹の狼を引き連れて、長い葉を引く鬼たちに加わった。
『うんとこしょー! どっこいしょー!』
まだまだ白い実は抜けない。
騒ぎを聞きつけどこからか現れたアリの大群や競争中だったウサギとカメ、小脇にかごを携えたお爺さんも加わった。
『うんとこしょー! どっこいしょー!』
それでも白い実は抜けない。
遠くの空からやって来た太陽が湿って重くなった土を乾かし、流れて来た北風がなにもない床のほうへ乾いた土を吹き飛ばして加勢した。
『うんとこしょー! どっこいしょー!』
女性陣と一緒にキリギリスも見守る。キリギリスは持ち寄った楽器で力が湧く音楽を奏で、葉を引く面々を女性陣と一緒に応援している。
『うんとこしょー! どっこいしょー‼』
何度目かの掛け声で、ようやく大きな実が地面から抜け、姿を現した。それは、まぁるくて大きくて真っ白なカブだった。
『ばんざーい! ばんざーい!』
お爺さんは大きなカブが抜けたお祝いに、近くの木へ灰を撒いて桜を咲かせた。
一致団結して仲良くなった皆は、その桜の下で大きなカブを分け合い宴会を開いた。島に残る鬼たちの食糧は皆で協力して集め、鬼ヶ島へ持って帰ってもらうため、大きなつづらに入れてお土産に持たせた。
【――とさ。めでたしめでたし】
どこかから声が聞こえた。
登場人物たちはその声を聴いて、各々それぞれの物語が描かれた絵本の中へ戻っていった。
なにもなくなった床に散らばった数冊の絵本を集めて確認するが、中は元の物語のまま。
けれどみんな、心なしかいつもより嬉しそうに笑っていた。
「めでたし、めでたし……?」
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