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2023年5月の記事一覧
【短編小説】5/31『人生タイムラプス』
トンネル内を列車が走る。ガタンゴトン、ガタンゴトン。
窓に映るのは何かの景色。ガタンゴトン、ガタンゴトン。
男女が出会って結婚して、子供が生まれて成長していく。
その時々を切り取った映像に見覚えがある。両親が幼い私をとらえた記録だ。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。ガタンゴトン、ガタンゴトン。
列車が進めば時間も進む。窓の中で幸せそうに笑う家族。子供はどんどん大きくなって、男女が出会って結
【短編小説】5/29『たまにはシリアル』
朝ご飯を作るのが面倒で、仕方ないかとシリアルの袋を開ける。皿に適量、カラカラカラ。
「にゃー!」
「ですよね」
足元に瞳を輝かせた愛猫。袋の形状と音とで自分用のドライフードだと思ったらしく、シリアルの匂いを嗅がせたら不本意そうな表情になった。
湧いた食欲が消えることはないようで、ニャーニャー言いながら足元に絡まってくる。つまづいたり蹴ってしまいそうで危ないから、さっき朝ご飯あげたばっかりだけ
【短編小説】5/28『夜に咲く』
最近はどこの公園でも禁止になってしまった手持ち花火を楽しみたくて花火ができる場所を探したら、自分が住んでいる区は全域で禁止されていた。
煙とか火の不始末とか色々近隣に迷惑をかける可能性があるとはいえ、なんか寂しいなぁ。
部屋を片付け中に出てきた十年前の手持ち花火を眺めつつ感傷に浸る。
そういえば、手持ち花火したのなんてもう何十年も前の話。いまでもできるところはあるみたいだけど、どこも自宅か
【短編小説】5/27『勇者だらけの町』
全世界的に問題視されている【スライム絶滅の危機】。
ここ最近の討伐ブームで自称・勇者が増え、レベル上げのために狩られる“スライム”が絶滅の危機に瀕している。
絶滅保護危惧種に設定するという話もあがっているが、序盤のレベル上げが困難になるため制定するには至っていない。レベル上げができなければ、最終目標である“魔王”を倒すための力が備わらない、というのが大きな理由だ。
代わりの魔物を生成する案
【短編小説】5/26『ミリ単位の幸運』
家の中にパワースポットがある。その場所でスマホを使うと懸賞に当たったりする。ただ、位置がものすごく厳密で、1ミリでもズレるとなんの恩恵もない。
そのゾーンに入れるだけでもラッキーなんだけど、真のラッキーはそんなもんじゃない。
少額は電子マネーの1ポイントから、高額は数十万円のくじまで。
そのゾーンに陣取って購入、確認すれば外れなし。だから高額当選が狙える懸賞の結果を確認するときやくじを買う
【短編小説】5/25『アカシアの本』
作業机の前の壁に貼られたカレンダーには、細かくビッシリと【締切】の予定が書かれている。
空欄の日はなく、どの日も最低でも【一人分】の締切が設けられている。
その締切日は、現世へ修行をしに降りた魂が、常世に戻って来る日。
数多の魂の軌跡はすべて自動でアカシックレコードに記録される。その記録を抽出して編集・印刷し、製本するのが私の仕事。
一冊一冊、その人の好みや特徴、歩んだ人生にちなんだ装
【短編小説】5/24『グルグルの甘々』
「伊達巻食べたい」
「えぇ? 売ってるかなぁ」
「食べたい。無性に食べたい」
珍しく駄々をこねる彼女。なだめるために触れた頭頂部が熱い。頬も心なしか熱を帯びている。メイクかと思った頬の赤さは、どうやらメイクじゃないっぽい。
「ちょっと熱測ってて。その間にスーパー行ってくる」
「んー」
体温計を渡して冷却シートを彼女のおでこに貼り、スマホと鍵を掴んでダッシュでスーパーへ。伊達巻なんて正月にしか売
【短編小説】5/23『ただそれだけのハナシ』
下駄箱に入っていた一通の封筒。これは漫画なんかで良く見る伝説のアレなのでは⁈ と浮足立って、制服の中に封筒を隠し、トイレの個室で封を開ける。
差出人が書かれていない手紙には、綺麗な字でこう書かれていた。
『私はお前の秘密を知っている。バラされたくなければ放課後、体育館裏へ来い。』
……なにこれ。
ラブレターじゃなかったことへの落胆よりも、気味の悪さが先に立つ。いくつかある秘密にはバラされて
【短編小説】5/22『試用に供する見本の品』
生卵が安売りされてたから1パック買った。その帰りに寄った、食品も扱うドラッグストアで試供品の生卵をもらった。“産地直送”という魅力的な肩書がついていたから、つい……。
いくらたまご好きとはいえ、できる料理と消費量には限りがある。
さて、どうやって食べ切ろうかな。
家に帰ってレシピサイトで色々検索してみるけど、家にある食材で作れそうなもの、となるとある程度絞られてしまう。
好きとはいえ、同
【短編小説】5/21『悪くはない街』
俺の朝は一杯のコーヒーから始まる。
机の上には朝刊が広げられ、トマトやコンビーフに齧りついたり……はせずに、印刷された記事を読む。
平和だといわれている我が国でも、事件が起こる。俺はその事件をたちまちに解明して、誰もが手を焼いていた闇を暴く……そんな探偵になりたかった。のだけど。
俺の城である探偵事務所のドアが開いた。
「どーもー」
「またあんたか」
「またってなによ、お得意様でしょ?」
【短編小説】5/20『天使な味の悪魔の舌』
ダイエットに飽きてきた。
最初の何日間かは体重と体形の変化が大きくて楽しかったんだけど、そろそろ停滞期に入ってきたらしく、どんなに頑張っても数値の変化がない。
今日もローカロリーの蒟蒻麺を食べる……うーん、お腹減ってるのに箸が進まない。
「うー、もう飽きたぁー」
「だから、普通の食べる? って」
「だっていまダイエット中~」
「別に太ってないって」
「私には私の理想があるの~」
言って指し
【短編小説】5/19『恋のマッチメイク』
シャドーボクシングのシュッシュッって口で言うやつ、速度早いぜってのを擬音で表現してるのかと思ってた。漫画の音喩みたいな感じで。
本当はあれで呼吸するのを忘れないようにしてるらしい。
その知識がなかったら、私はずっとシャドーボクシングしてる人のことを誤解したままだった。正しい知識を得るのって大事。
格闘技は痛そうで見てられないから、好んで観戦はしない。
大きな試合の結果がニュースで取り上げ
【短編小説】5/18『種から出た葉が実を結ぶ』
明晰夢、という夢をいま見ている。
夢だからなんでもあり、と思って、片想い中のアイツが現れて欲しいと願う。
霞がかった視界の向こうから、不思議そうに辺りを見回しながらアイツが現れた。
いつもは気持ちを知られたくなくて“友達”として接しているけど、夢の中ならきっと言える。
そう思って口を開くけど、声が出てこない。
私に気づいて驚くアイツ。なにか言ってるけどその声も聞こえてこない。
音のな
【短編小説】5/17『求愛ダンスは夢の中で』
休日出勤な上に残業で疲れて帰ってきた夜、彼女を起こさないようそっと家に帰る。
テーブルの上にお茶漬けセット。足りなかったら冷蔵庫におかずもあるってメモまで。なんだよ、最高か。
早くプロポーズしたいんだけど、なんだかいつもタイミングを逃してしまって言えないままうやむやになる。こんな最高の人、他にいないと思ってるのに。
もしかして彼女のほうは乗り気じゃなかったりするのかな。そんでいつもそれとな