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【短編小説】5/31『人生タイムラプス』

 トンネル内を列車が走る。ガタンゴトン、ガタンゴトン。
 窓に映るのは何かの景色。ガタンゴトン、ガタンゴトン。
 男女が出会って結婚して、子供が生まれて成長していく。
 その時々を切り取った映像に見覚えがある。両親が幼い私をとらえた記録だ。
 ガタンゴトン、ガタンゴトン。ガタンゴトン、ガタンゴトン。
 列車が進めば時間も進む。窓の中で幸せそうに笑う家族。子供はどんどん大きくなって、男女が出会って結婚して、子供が生まれて成長していく。その親の片方は私だ。
 愛した人と結ばれて、結晶として子供が生まれた。
 その子はすくすく大きくなって、愛する人と出会って結婚して子供が生まれた。
 見守る私はとても幸せそう。
 男女はやがて年老いて、そうして私は旅立った。
 ガタンゴトン、ガタンゴトン。
 トンネル内を走る列車。その窓に映っていた私の人生は幕を閉じた。長いように思えた人生は、こんなにもあっという間に過ぎ去っていた。
 なにも映らなくなった窓の外に、長く続くトンネル内の灯り。
 等間隔のライトは一本の線になり、まっすぐ後ろに流れていく。その線は少しずつ湾曲していき、上へと向かった。
 ゴォッという音と一緒に視界が開けた。窓の外には大きな海と広い空。
 列車は音なく上へ上へ。
 やがて成層圏を越えて宇宙に出た。
 レールのない空間を列車が走る。もう音はなにも聞こえない。
 先に見えた小さな駅で手を振るのは……。
 目的地を捉えた列車がゆっくり停まる。空いたドアの先にいたのは、愛しい旦那さまだ。
「久しぶり」
「久しぶり。もう少し待てたのに」
「いいのよ、子供も孫たちももう、手が離れたんだから」
「そうか」
 二人であの頃のように笑い合って、手を繋いだ。駅の先には長い階段。
「わぁ、大変そう」
「そうでもないよ。身体がないから、ラクなんだ」
「あらそう。なら良かった」
「入る場所が違うから一旦お別れになるけど、すぐにまた会えるから」
「そうなのね。じゃあ、あとで」
「うん、あとで」
 旦那さんと大きな門の前でお別れした。でもあのときみたいに寂しくも悲しくもない。だってすぐに会えるのだから。
 遠くなった駅の向こうで列車が動き出した。また誰かを迎えに行くのだろう。
 宇宙の中を走る列車を見送って、私は大きな門をくぐった。
 一人の人生を無事終えて、元いた世界に戻るために。

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