見出し画像

【短編小説】5/23『ただそれだけのハナシ』

 下駄箱に入っていた一通の封筒。これは漫画なんかで良く見る伝説のアレなのでは⁈ と浮足立って、制服の中に封筒を隠し、トイレの個室で封を開ける。
 差出人が書かれていない手紙には、綺麗な字でこう書かれていた。
『私はお前の秘密を知っている。バラされたくなければ放課後、体育館裏へ来い。』
 ……なにこれ。
 ラブレターじゃなかったことへの落胆よりも、気味の悪さが先に立つ。いくつかある秘密にはバラされて困るモノもあるから、放課後しぶしぶ体育館裏へ赴くと、そこには……
(えぇっ⁉︎)
 男子人気ナンバー1のクラスメイト、大元さんが心なしかソワソワしながら立っていた。
「大元さん」僕が呼びかけると、
「あ」髪とスカートのプリーツをサッと直して、大元さんがこちらを向く。
「あの、下駄箱の手紙って ……」
「うん。私」
「そう……。あれって、どういう……?」
「木永ってさ……私のこと、好きだよね」
「えっ、はい」
「えっ」
「えっ?」
「そんなハッキリ言われるとは思ってなくて」
「いや、だって、うん。好きだからさ」
 言ってはいないが友人達はとっくに気付いているし、いつかは伝えようとも思っていたから、特に言葉を濁したりもしない。
 けれどなんとも間抜けな告白になってしまった。
 大元さんもなんと返事をしたらいいか困っているような……。
「えっと……知ってる秘密って、それだけ?」
「そう。……で? どうする? 私たち」
「どう……どうする? って、そりゃあ……」
 促した先に続けてほしいんだろう答えはわかっているから、改めて告白をした。
 大元さんは頬を染め、今まで見た中で一番可愛い笑顔を見せて、僕の申し出を快諾した。
 ラブレターとは言い難いラブレターを受け取ったその日、僕に初めての、可愛くて大好きな彼女ができました。という、ただそれだけのハナシ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?