【短編小説】5/22『試用に供する見本の品』
生卵が安売りされてたから1パック買った。その帰りに寄った、食品も扱うドラッグストアで試供品の生卵をもらった。“産地直送”という魅力的な肩書がついていたから、つい……。
いくらたまご好きとはいえ、できる料理と消費量には限りがある。
さて、どうやって食べ切ろうかな。
家に帰ってレシピサイトで色々検索してみるけど、家にある食材で作れそうなもの、となるとある程度絞られてしまう。
好きとはいえ、同じ料理ばかりだとさすがに飽きるよなーって悩んでいたら、お腹が鳴った。うーん、料理の写真見てたら小腹が空いたぞ。
炊飯器の中に中途半端に残っていたご飯をお茶碗によそって電源を切る。お茶碗の中のご飯に醤油を回しかけ、軽く混ぜてからテーブルに置いた。
なんとなく“産地直送”のほうが鮮度がよさそうに感じて、そちらを割ってご飯に中身を乗せた。
しまった、真ん中へこませればよかった。
ご飯の上を白身が滑って、危うくこぼれそうになるのを箸でおさえる。
うわなにこの黄身、箸で押しても割れないじゃん。すごい。
色も少し濃いように見えるけど、これはエサの種類によるらしく、栄養があるかどうかの判断基準にはならないってなんかで聞いた。真偽のほどは定かでない。
黄身を箸でぷつりと割って、醤油ご飯と軽く混ぜてかきこむ。
んんー、うまぁい。
このたまご、心なしか味も濃くて美味しい。生卵食べてる! って感じ。
手間もはぶけるし、しばらく朝ご飯は卵かけご飯でいいんじゃないか。足らなさそうならソーセージをボイルするか焼くかして乗せよう。目玉焼きご飯も美味しそうだな。
んん、食べてるハシから明日以降の朝ご飯が楽しみになってきたぞ。
昔は一日に二個以上食べると栄養摂りすぎ、みたいに言われてたけど、いっときいくつ食べても大丈夫、みたいに言われてた時期があると記憶している。
また一日に二個まで説が復活してるっぽいけど、どっちを信じるべきなのか……。結局、個人の体調によりけりみたいなことに落ち着くんだよなー。
あまり食べ過ぎないようにすればいいか……。
冷蔵庫の中で冷やされている卵の数を思い浮かべながら、美味しく消費するためのプランを考えはじめた。
夢の中に卵が出てきそうなくらい考えて、考えたところで結局当日違うの食べたくなるんだから意味なさそうって気づいてやめた。
十二個あった卵は、一週間もしないうちになくなった。
新たな卵料理を作れるようにもなったし、良い出会いだったな。
今度またあのドラッグストアに行って、もらった卵と同じのを売ってたら買ってこようと思う。
試供品作戦にまんまとハマってしまったが、新たに美味しい物を開拓できるのは嬉しいことだ。
もしかして今日もなにかの試供品がもらえるかも? ってほんのり期待しつつ立ち寄ったドラッグストアで、今度はミネラルウォーターの試供品をもらった。
産地によって水も味が違うんだって初めて知った。もらったお水はあまり口に合わなくて、それからしばらく“自分にとっての美味しい水”探しにハマった。
自分って案外グルメで凝り性なのかもしれない、という新たな一面も見つけられた。
試供品、なかなか侮れないヤツ……。
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