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宇佐美りん『推し、燃ゆ』 ダイレクトに伝わる生々しい描写、10代の心のぐらぐら·ふらふら感 #読書感想文

芥川賞受賞作 宇佐美りん『推し、燃ゆ』を読んだ。
すごかった。

なにがすごかったかって、その文章·日本語が、私が今まで読んだ小説と圧倒的に違う。教室や街などの風景、SNSの波に呑み込まれる感じ、生々しい肉体の感覚の描写が、細やかに描かれていて、リアルにダイレクトに伝わってくる。
床から立ち上がるところを
「フローリングから太腿を引き剥がすと、」
と表現したり、
「石の塀が上から黒くなった。夕方のにわか雨だった。」という言葉も、情景がすっと浮かんでくる。
全ての文章がこんな感じで、読んでいると、主人公と同じ空気をざらざらと触っているような、主人公と一緒に闇に吸い込まれていくような気分になる。

小説の内容は、10代の主人公の生きづらさ、居場所の無さ、推しに極度に依存する生き方、社会との距離、孤独が描かれている。
自分の10代の頃を思い出した。
主人公のように推しがなかったとしても、病名をつけられていなかったとしても、この10代の頃の不安定さ、苦しさは、多かれ少なかれ誰もが通る道なんじゃないか?
少なくとも私は、20歳前後の頃、心がぐらぐら不安定で苦しかった。ワンルームでひとり天井を眺めた日々。戻れと言われても、絶対あの頃には戻りたくない。
私はアイドルにはまったことはないが、推しにのめり込んでいくってこんな感じなのか? 例えば発達障害と言われるような、人が普通にできることが簡単にできないってこんな感じなんだろうか?というのもこの小説でリアルに体験できた。
絶望的な内容で、ひょっとしたら主人公は最後に死を選ぶんじゃないかとさえ思った。私だったら主人公に、大丈夫、幸せになれるから、少しずつ歩いていけるから、と伝えたい。最後に、現実と折り合いつけて生きていくんだという意思もかすかに感じとれたように思う。

とにかく、他のものとは、別格の、すごい小説だった。

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