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小説 桜ノ宮

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大人の「探偵」物語。 時々マガジンに入れ忘れていたため、順番がおかしくなっています。
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2020年7月の記事一覧

小説 桜ノ宮 ⑭

小説 桜ノ宮 ⑭

修はカレーを平らげると、お盆に食器を載せて流し台までもっていった。続けて、食器を洗いにかかった。
「そのままにしてくれていいのに」
「ごちそうになったから」
手早く洗い物を済ませると、修はまたもといた席へと戻ってきた。
昔より分厚くなった胸を張って紗雪を物憂げに見ている。
「探偵って、何をする気なん」
「うーん。わからへん。何となく考えているのは、芦田さんの奥さんを尾行したり、友達になったりとか」

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小説 桜ノ宮 ⑬

小説 桜ノ宮 ⑬

緊急事態宣言が発令されたことにより、紗雪と広季の母が入所する老人ホームは勤務している関係者以外は出入り禁止になってしまった。
テレビやネットが、買い物など生きていくうえで必要な用事以外は家から出るなと国民に警告してくる。
仕事もなく一緒に住んでいる家族がいるわけでもない紗雪は本当に暇になってしまった。ぼーっとテレビを見ているだけで時間が過ぎ、お金も無くなっていく恐怖から目をそらしたり、対峙したりし

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小説 桜ノ宮⑫

小説 桜ノ宮⑫

インターホンが紗雪の部屋にお気楽な音色を奏でたのは、夜11時を回ったころだった。
紗雪はちょうど風呂からあがったところで、タンクトップとパジャマのズボン姿で濡れた髪をタオルで拭き取っていた。
胸の奥にいきなり落ちてきた不安の塊を抱き、警戒しながら画面を見ると、修の顔があった。
僅かに肩が揺れ、貧乏ゆすりをしている。
久しぶりに会ったあとでこのような行動をとられると非常に気持ちが悪い。しかも、こちら

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