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みなさまの大切なnoteに私のイラストを選んでいただきありがとうございます。感謝の気持ちをマガジン掲載という形に変えさせていただきました。(#komekoarts イラスト登録中)
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#小説

雑文(47)「キンモクセイの香りを嗅ぐと」

 秋が来た、と、思います。 「キンモクセイ、キンモクセイだよね、この匂い?」と、僕は、妻に訊ねる。妻は、ちょっと間を置いて、僕に、「そうだよキンモクセイ。この時期になるとね、キンモクセイって気分だよね。この間まであんなに暑かったのに、匂いを嗅ぐと秋が来たんだなって思うよね」と言う。 「僕もちょうど君と同じこと考えていたよ。キンモクセイの匂いを嗅ぐと秋が来たなってね」僕はそう言ってくんくん嗅いだ。キンモクセイの香りがたっぷりあり、キンモクセイの匂いが身体に染み付くんじゃないかと

頑張れ!ダイヤ君 「ごはん」

お月様コーチ「大嶋、昨日浦和ブルージュニアユースの選手ともめたんだって」 大嶋「そうなんですよ、グランドの隅で弁当食べてたら、あいつらのはしの使い方なってないから、注意したんです」 お月様コーチ「お前が正しい、さすがうちのエースだ」 大嶋「そうでしょ、そしたら相手が怒って、お前こそ、なにごはんにコーラかけてるんだって怒ってきて、もめました」 お月様コーチ「お前、ごはんにコーラかけて食ってんのか?」 大嶋「はい、なにか?」 お月様コーチ「そっちのほうが…」

おいしいごはん

「いただきます」 そう言って二人で囲んだ食卓を、一緒にご飯を食べた日々を私は忘れない。 「私は私のことを好きな人が好きなのぉぉぉ!」 柚夏(ゆな)の少し高くてよく通る声がBar”L♡VE”に響き渡る。 ここは性自認が女性であることが入店条件のガールズオンリーバーだ。 「いやだから駄目なんでしょ」 きりりとした表情でバッサリと切り捨てるように言ったのは、ここで働いているバーテンダーの明日香(あすか)だ。 制服である黒のカマー・ベストと黒のシャツに燕尾のナロータイを締め

捨てられないもの

 泥だらけになりながら、部屋の奥まで進むと、ぬかるんだ足元に、僕は、思わず尻餅をつきそうになった。 「圭吾!大丈夫か」  その声に腰を低く落としたまま、体勢を整える。智のおかげで、なんとか尻餅を回避できた。 「気を付けろよ」 「あぁ、悪い」  先週、この町に記録的な大雨が降った。川が氾濫しそうだという知らせを聞いた僕は、なんとか命からがら逃げ出した。今は高台にある智の家に身を寄せている。  人が入れるくらいまで水が引いたのは、大雨から丸2日も経ってからだ。アパートを

私は鳥になった

※前回までのあらすじ ある日、私は鳥になっていた。 なぜだかわからないが、 背中に翼を持ち、自由に空を飛んでいた。 そんな私もあの海の向こう側へ行きたくなった。 私は鳥になった① 私は鳥になった② リレー小説③ 鷹男 「それにしても何故鳥になったんだ?」 「とにかく元に戻る方法を見つけたいが、 今は鳥の様に自由に飛んでみよう」 「おいっ!」 鷹男 「空からみると地上って凄く小さいな」 「鷹男、鷹男!」 鷹男 「誰か呼ばれたような・・・」 「気のせいか!さっ、

読書日記:変身 主軸が家族のグレゴール・ザムザ

 フランツ・カフカの「変身」について私の友人はこう言っていました。 「主人公が朝起きたら巨大な毛虫になり、そのせいで家族に疎まれる。何の救いもなくそのまま死んでしまう、どうしようもない話」  職場の同僚は言いました。 「主人公が虫になって何が伝えたいのかわからなかった」 「ずっと部屋に引きこもって家族を苦しめる、ニートか!?と思った」 「この話は気持ち悪くて嫌い」  私の「変身」に対する期待値はおのずと低くなります。  そんな時、立ち寄った古本屋で解説も収録されている「変

2月:フロランタンは時を越えて【短編小説】2200文字

「前から・・・綺麗な人だと、思っていました」 真っ直ぐに私を見つめるヘーゼルアイは、いつの間にか夜空に溶け込む深いグリーンに見えるようになっていた。 はっきりと発音されたその言葉は急速に私の鼓動を早めて、8年間が埋まっていく。 紅葉したミナヅキが入荷し始めた10月頃から、毎週火曜日の閉店間近に彼を見かけるようになった。 遅い時間に学生が花屋を覗いているのも珍しいが、それよりも彼の容姿に目が奪われる。 夜風にサラッとなびくブラウンの髪に、つぶらな瞳はヘーゼルアイだ。 最初は遠

日乗(1126-1128)

▼1126(土)昨日は19:00から泥のように寝た。帰宅したら夫が煮るうどんが良い匂いで一瞬目覚めたけれど、睡魔に勝てずひたすら寝る、寝る寝る。休日のコメダ珈琲は本当に混んでいる。コメチキ食べたかった… 夕ごはんは所謂"エモい中華屋さん" 夫のために買ったバースデーケーキを誰よりも楽しみにしているわたしです。 ▼1127(日)夫の誕生日〜! 年齢は大分離れているけど気が合うので問題ない。 そして(わたしが)楽しみにしてたバースデイケーキ🧁 大好きな焼き菓子屋さんのケーキでフ

貧困と欲望と妊娠と人生 燕は戻ってこない 桐野夏生

代理母と、代理出産を依頼した夫婦の物語である。 代理母となる29歳のリキ、代理出産を依頼する40代と30代の夫婦・草桶基と悠子の三人の視点で描かれている。 燕は戻ってこない桐野夏生 代理出産はこの世の中にすでに存在している「現実」のものである。あくまで日本では代理出産が認められていないというだけで、海外を経由すれば依頼は可能だ。 本の紹介文には「予言的ディストピア」と書かれているが、果たしてこの物語は本当に「予言」なのだろうか? 現代社会の不安や焦燥、格差、困窮、人間

小説を書くことを「研究」し始めます。

こんにちは、作家・歌法師です。 私は作家なので、小説を書いて売って収入を得ることが一番の目的です。 実のところ、ぜんぜん売れておりません。 デビュー作の『風』は有料公開中(https://note.com/katarimono/n/nccb6ad54e1bb)ですが、 なんせ私の認知度・知名度が低い。 これは作品数に比例しています。 Twitterのフォロワー数もまだ3ケタいってませんからね(2022.9.22現在)。 そこで、 短編小説をnoteに投下することに

私にとってはきっと「今」だった。

書くことに目覚めてから、生きることが自然に、 無理なく出来るようになった気がしています。 以前、人生のがんばる方向を間違えていた私は、 がんばってもがんばっても報われないことに疲れ果てていて、皆と同じようにがんばり続けることが出来ない、自分のダメなところにばかり目が行ってしまって、 「世の中の人々と同じようにがんばれない私は、 生きることが向いていないタイプなんじゃなかろうか?」と一人考えていた時期もありました。 だからと言って、人生やめてしまいたい、と考えたりしたこと

実家のカブトムシの名前

 昨日、母からメールが来ており、カブトムシ全匹の名前が判明しました。  「竜太郎、もも、さん太、みく、まゆ」です!  たぶん、深い意味はあまりなく、なんとなく付けた名前ではないかと。竜太郎だけは、昔、「りゅうた」という猫を飼っていたので、そこから取ったと言っていました。  わたしはそのメールを読んでまず、「名前だけは送られてきたけど、写真はまだなんだな……」と頭をよぎり、「さん太」の「さん」の、ひらがなに、なんともいえない可笑しみを感じたのでした。  サンタクロースの

私は少々ズレているのか?

今日のタイトルは、本当は、 「私は、ちょっとした変態なのか?」にしようと思ったのですが、万人の方に見ていただくような状況で、あまりにもセンセーショナルすぎるか…… と思ったので、こちらのタイトルにしました。 個人的な好みのお話しになりますので、すべての方に受け入れていただけるような雰囲気の記事には、いつも以上にならない気はしていますが、書きたいので書きました。笑 私は、noteや本を読むときも、好む傾向がどちらかと言うと、はっきりしている方だと思われます。 綺麗で健やか

ボタン

「あっ…」 スーツからゆっくり落ちていく。ほつれそうと思っていた矢先だった。地面に落ちた茶色のボタンは、もの寂しそうな表情をしていた。僕は、まじまじとヤツを眺めることを止めなかった。 「こんなところに…」 立ち止まる人影を感じた。誰だかすぐに分かった。しゃがんで拾い上げると、ヤツの雰囲気が変化し始めた。華奢な親指と人差指に摘まれた格好で、申し訳なさそうにしている。拾ってくれた人と目が合った。 「これ…」 「取れてしまったんだ」 「付けてあげる。ほら、上着を脱いで」