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編集室の戦い。仕事と人間関係の狭間。

仕事は好き。でも、どこか虚しい。
そんな過去の思い出。

今日はテレビ局での映像編集者として勤務していた時のエピソードをご紹介します。

映像編集者とは?立ち位置でいうと以下になります。
私の知る限りでは、オフライン編集、オンライン編集どちらに対しても映像編集者(またはエディターや編集マン)が通称でした。


はじまり

はじめに、これは8年くらい前の話になります。なんでそんな昔話を?と思う人もいるかもしれません。
人間関係や組織のありかたについては、現代にも通ずるものがあると思うので、改めて記したいと思いました。

私がYテレビの映像編集者として働いていた時の話。仕事には大きなやりがいを感じていました。映像を編集し、ストーリーを作り上げる過程には、独特の手応えと楽しさがありました。
自分のさじ加減で、感動にもなるし、違和感にもなり得る。自分の手で作り上げた作品が多くの視聴者に届く瞬間は、何よりも充実感を感じさせてくれました。

しかし、その一方で、職場の雰囲気には常に虚しさを感じていました。特に目立っていたのは、ベテラン社員による新人への理不尽な扱いでした。

入社後、私が独り立ち(教育係なしで一人で編集を任される状態)した時のこと。
たしか、2本目の編集だったように記憶しています。どんなニュースかは忘れましたが、大阪の繁華街が映し出された素材があったのは覚えています。

補足として、編集はどんな環境で行うかというと、編集室という部屋で籠って行います。編集は編集者が1人でおおよそ5~8割がた行い、途中でディレクターや記者が立ち会って編集を進めます。

話は戻り。編集室で私が編集をしかけた時、後ろから上司が現れました。
「俺がやる」と言い、有無を言わさず編集を代わることになりました。まだ新人の私には編集が甘いと思ったのでしょう。私は後ろで上司の編集を見学することにしました。

そして、私ではなく上司が編集した映像が、無事オンエアされました。この時、自分で編集させてもらえなかった悔しさを覚えています。

そんな気持ちで私は編集室に戻り、荷物を片付けていたところ後ろから声が。

「おいおい、さっきの編集はなんだ!」と数人のベテラン社員カメラマンが、(言葉は悪いが)チンピラのようなテンションで入室してきました。
先にも書いた通り、映像は私ではなく上司が編集したもので、さらに言えば、このカメラマンたちよりも遥かに業界人として上の上司が編集したわけなのです。

「えっと…」と戸惑う私に、「何でアレの画を使った」とか「何でコレの画を使わなかった」などと言ってきました。

ここで「私じゃありません」と言うのは、なんだか悪いものを上司になすりつけてしまうように思った私は、すっかり黙ってしまいました。

その時、上司が登場しました。
「俺がやった」

一同、しーんと静まり返ると、少ししてカメラマンたちは「えっ…」と小さく声を絞り出しました。
かなり気まずい沈黙が重くのしかかったようでした。

「何か問題でもあったか」
上司は堂々とした態度で言い、私は圧倒されてぼんやりするしかできませんでした。

「い、いやぁ~」とカメラマンたちは、新人の私に対する態度から一遍して、自分たちより遥かに業界の先輩である上司に対しては、腰低く、組織に属する人なら上下関係の際に目にしたことがある"それ"をしていた。

その姿を見るたびに、このまま出世してもこんな人間になってしまうのかと虚しさを感じました。

虚しさには二種類あります。
ひとつは、編集は上司がやろうが自分がやろうが見分けがつきづらいこと。編集の上手い下手はあるにせよ、例えば絵のような、技量の雲泥の差はないのだという現実を感じたこと。
もうひとつは、経験や年数を積んでもこういう人間になる将来像が垣間見えてしまったこと。
仮に、いくら自分を保とうとも、こういう人間が多数派の環境下には、自分もいつか長い物には巻かれていくような、飲み込まれていくような、そんな気味の悪さを感じました。

カメラマンたちはそそくさと退室し、残された上司と私の2人は、多少の気まずさを感じつつ、とくに何か言及することもなく、この一件は終わりました。

現場では仕事を通じて得られるものもありました。技術力の向上や達成感。ですが、その一方で職場の陰湿な人間関係、自分の理想と現実のギャップに悩まされる日々でもありました。(最も酷かったのはNテレビでの出来事ですがここでは割愛します)

振り返ってみると、これらの経験は私にとって大きな教訓でした。仕事自体にやりがいを感じても、良くない環境では本当の満足感は得られないということを身をもって学びました。
得るものがあっても、失うものが大きければ、そこに留まる意味はないのだということを理解しました。
得るものと失うもののバランスを見極めながら、前に進んでいくことが私の目標です。




~profile~
・社会課題をテーマに活動する映像グラフィック作家
・映像デザイン事務所CreDes代表
・ヤングケアラーや機能不全家族についてのドキュメンタリー監督

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