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「ラジオといるじかん 」Vol.2 しあわせって手枷で、仕合わせで / あまのさくや

 先月スタートした絵はんこ作家でエッセイストとしても活躍するあまのさくやさんの連載企画「ラジオといるじかん」の第2回。中学生の頃から、あまのさんの生活の中に必ずあり続けてきた「ラジオ」にまつわる話をメインに、出身地の東京と現在の拠点である岩手県紫波町を行き来しながら仕事をはじめ、さまざまな活動を展開する彼女の視点で感じたこと、思ったことを綴っていただきます。今回は、ラジオリスナーにとっては「お祭り」的イベントだった2月のラジオ番組などからの気づき、そして春、区切りの季節ならではの思いがあふれるエッセイとなっています。

 みなさんのお住まいの地域では、もう桜は咲いていますか。私の暮らす岩手県は、まだです。全国放送は、基本的に天気予報が東京中心に伝えられる。地方に暮らしてみて、その違和感をはじめて感じたのを覚えている。

 関東ローカルのラジオばかり聴いていると、「ああ、そろそろ桜の季節かぁ」と錯覚することがあるが、移住してもうすぐ3年目に差し掛かろうとする今の私は、さすがに3月の桜に期待などしない。私が暮らす町からほど近い盛岡の開花予想は4月6日、満開予想は4月10日と例年よりも10日程度早まっているものの、昨年、桜が咲いたあとの4月末に雪が降ったことも、ちょっと恨みがましく忘れられないできごとだ。

 日本の1年のカレンダーに沿って、ラジオといるじかんも進んでいく。気がつけば、卒業も入学も人事異動もある季節。ラジオも改編期を迎え、オールナイトニッポンも4月からのラインナップが発表された。ラインナップに加わる新しいパーソナリティが「Ado」「あの」「あいみょん」。あど・あの・あいみょん、これほどまでに語感のいい人たちが揃うなんてことあるだろうか。

 もうまる1ヶ月も経ってしまったけれど、2月17日から20日まで、『オールナイトニッポン55周年記念 オールナイトニッポン55時間スペシャル』というラジオのお祭りがあった。胃ばかりか耳ももたれそうなくらい毎日豪華なラインナップが続き、radikoタイムフリー機能は放送後1週間まで聴くことができるが、曜日が早いものから聴いていかなければ聴ける期間が終わってしまうので、ラジオ好きにとっては2月後半、スキマ時間というものが存在しなかった。

 名放送は数えきれないが、中でも忘れられないのが『タモリのオールナイトニッポン』だ。同番組は1976年から83年の7年間、デビュー翌年に抜擢され、『(笑って)いいとも!』開始1年後まで続けられていたという。私は今回で生まれて初めてタモリさんのラジオを聴いた。

 「どぉーも、タモリでございます」で始まったフリートーク。『(笑って)いいとも!』や『タモリ倶楽部』の印象が強い私には、タモリさんはテレビの人という印象が強い。だけど声は驚くほどすんなり耳に入ってきて、まるで毎週やっている人が今週もやっているような自然さをもって聴けていた。タモリさんとゲストの星野源さんはとても親密そうに、飲み屋というよりも、高校の先輩と後輩が放送室で、ちょっとばかばかしい、ややマニアックでついていけないひそひそ話をしているような雰囲気がたまらなかった。その会話の中で「幸せ」について話す場面があった。

タモリ「桜の季節になるとぼーっと見てるんだよ。それぞれが関係ないこと   
をやってる、関係も持たずに。で、向こうに桜があって。幸せなんて、けっ、と思ってたよ。なにをいってるんだ、幸せなんてあるわけないじゃねえかって思ってて。それからひとつ、幸せっていう字は、辛いと言う字に似てる……っていうのも字の成り立ちが違うんだってね。辛いっていうのは柄のついた針。で、罪を犯したひとに刺青を入れるやつ。で、似てるけど幸せは手枷てかせ なんだって」
星野源「なんで手枷なんですか?」
タモリ「罰だよね。これは、死罪になるところが、これで済んだと言う。それが幸せらしいんだよ」
星野源「なるほど!」
タモリ「それで考えると幸せっていうのは前の上を見て願うものじゃなくて、後ろの下を見て感じるものだって考えが変わって。最近だと、幸せっていうのは自分で言ってもいいんだって思うようになって。前は自分では恥ずかしかったものが。変わってくるんだね」
星野源「幸せって、死ななくて済んだ、死のちょっと前にあるんですね
タモリ「そう(笑)」

『タモリのオールナイトニッポン』(2023年2月18日放送 ニッポン放送)

 「幸せっていうのは前の上を見て願うものじゃなくて、後ろの下を見て感じるもの」。昨日よりマシな日だったら今日は幸せなのか。そう思えば幸せな日や時間って、もう少し増えるのかもしれない。

 テレビ東京のトークバラエティ番組『あちこちオードリー』で、オードリー若林さんが自身の仕事を振り返りながら幸せについて言及していた。一時期、お笑いの番組よりも医学番組や情報番組のMCの仕事がくるようになり、なぜ自分にはお笑い番組の仕事が来ないのかと愚痴っていた時期があった。しかしある時、自分はこっちじゃないんだな、と思った時に、自分にはこっちの仕事が合っているんだと気づくようになってきたという。

「しあわせの漢字って、仕事の仕に試合の合、仕合わせ、って書いてたんですって。だから仕事が合うことってすごく幸せなのかなと思って、合っていることだから向いているのかなと思って。そしたらすごい楽しいですね、幸せです」

テレビ東京『あちこちオードリー』(2023年3月14日放送)

 演者のオードリーと、番組プロデューサーである佐久間宣行さん、どちらもラジオスターとあって、この番組は私の中ではもうほぼラジオである。

 振り返ってみると確かに、自分の目の前に課される仕事と自分の適性にズレがある時って、つらかった。新卒で入ったインターネット広告代理店では、担当クライアントの商材や思いなど、共感する・しないに関わらずいかに利益を最大化するかを考えなければいけなかった。それは会社組織としては当たり前のことであるものの、当時はそのバランスがうまく取れず、自分をひたすら殺す方向にしか考えられなかった。自分個人の気持ちとは関係なくやらなければいけないことを課される感覚があったこと、そして私はいったい誰に、何のためにこれをしているのかを見失うことが一番苦痛だった。
 その後肉体・精神的疲労により退職した後、縁あってそれまでの職種と全く関係なく、精神障がいのある方のための就労支援施設の職員として数年働いた。就職を目指す方たちと一緒にお弁当配達の事業や喫茶店の事業を一緒に動かしていく仕事、それは私のリソースが何のために使われているかという方向がとてもわかりやすかったし、繊細ながらもいい人たちに囲まれて、とても楽しい仕事で、気づけば5年間も働いていた。

 過去に何かの痛手があると、「あの時よりはマシ」だと思える材料が増えて、少し心穏やかになる。桜が咲く季節というのは毎年決まっているものだから、定点観測のように桜を見ると、どこかで「あの時」を思い出してしまうのだろうか。冬の寒さと春に向かう陽気が行ったり来たりして、出会いも別れもあってソワソワする繊細な季節に桜があることが、日本人の胸にはどこか刻まれている。春は調子を崩しやすいという人もいるけれど、これは「あの時」を彷彿させてしまう日本の春のせいであって、決してあなたのせいではない。

 そういえばチェコ・プラハにある「ペトシーンの丘」には桜の木が植えられていて、5月1日(*1)に「桜の木の下でキスすると幸せになれる」「キスされた女性は丸1年桜のように美しいままでいられる」と信じられているという。その日はカップルで混み合うというプラハの人たちにとっては、桜を見たら反射的にキスでもしたくなるのだろうか。ところ変われば、桜も幸せのとらえ方も大いに変わる。

 心を崩しがちな季節だからこそ、私も「いつもの」を大事にしながら、3月で終了するTBSラジオ『たまむすび』の放送を一回一回、噛み締めている。最近の放送ではオープニングでもリスナーさんからのお手紙を読まれていたり、ゆるやかなカウントダウンをしてくれている。

 番組終了発表の直後、水曜パートナーの博多大吉さんが「10年で番組が終わるから、きりよく2033年の春にまじでもう一度番組をやります、ってどう? だから、決めよう。2033年4月にやりますって。そうすれば、10年間さみしくなくない?」と提案してくれていた。なんと愛ある提案なのだろう。『たまむすび』では、その希望が込められた「2033年」のカレンダーが付いた オリジナルポストカードや、その他番組グッズの棚卸し…?も兼ねたプレゼントキャンペーンが3月31日まで行われている。

 基本的にラジオは「聴く」ものだから、受け取ってばかりになりがちだ。部室のようなひっそり話が楽しい時もあれば、双方向にこちら側からもアクションを起こす楽しさもある。読まれても読まれなくても、抽選に当たっても外れても、番組に届いてはいるはずで。送ることに意味がないことはない。いずれにせよ、好きな番組には、好きを表明し続けなければ。これを書き終えたら、また『たまむすび』にお便りを書こうっと。

*1… 世界的にはメーデーとされているが、詩人カレル・ヒネク・マーハが書いた詩に由来し、チェコではこの日を恋人たちの日として、愛する人と過ごす日とされている。

ラジオを聴きながら、はんこを彫るじかんがやっぱり好きだ。

文・イラスト:あまのさくや

【著者プロフィール】
あまのさくや

絵はんこ作家、エッセイスト。チェコ親善アンバサダー。カリフォルニア生まれ、東京育ち。現在は岩手県・紫波町に移住。「ZINEづくり部」を発足し、自分にしか作れないものを創作し続ける楽しさを伝えるワークショップも行う。著書に『32歳。いきなり介護がやってきたー時をかける認知症の父と、がんの母と』(佼成出版社)、『チェコに学ぶ「作る」の魔力』(かもがわ出版)ほか。
SNSは、Twitterアカウント(@sakuhanjyo)、Instagram(https://www.instagram.com/sakuhanjyo/)、また、noteで自身のマガジンも展開中。

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