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2023年9月25日 小松庵銀座 森の時間|画家・百田智行さんアーティスト・トーク

9月25日(月)銀座ギャラリータイム「森の時間」は、銀座ギャラリーで個展を開催した画家の百田智行さんのアーティスト・トーク。ゲストに版画家 広根良子さんを迎えて画家ならではの興味深いお話と掛け合いが繰り広げられました。百田さんは「entrance−新しい場所へ−」というタイトルで個展を開催しました。entranceという作品はどのように出来上がっていったのか、その過程をスライドを使ってわかりやすく解説していただきました。

(以下、百田さん談)
今回の私の個展ですが、久しぶりに自分の思うようにできたと思います。わがまま勝手に描かせていただきました。全く雑念を持たずに。そんなことは学生以来です。このような機会をいただき、ありがとうございました。

スケッチからエスキスへ
—私の絵画における制作のきっかけ、発想—

スケッチとはデッサン、風景など日頃描いているものです。そういうものを集め、絵画を作っていく過程で定義してまとめたもの、キャンバス作品の手前にあるものを「エスキス」と言います。本絵に入る前の下絵のことです。

entrance a (54.9×84.1㎝ パネル アクリル)
entrance c (55×69㎝ 紙 アクリル・水彩)

これは個展のDMカードに使用した2作品ですが、このentranceという作品の一つの発想ときっかけは、マンションのエントランスです。ある雨の日、エントランスの自動ドアを通る時、後ろを振り返ったら、雨の日ですから床にたくさんの足跡がついていました。フットプリントって言うらしいですが。すると晴れた日も、昼も夜も気になっちゃって、何も考えずに何枚もデッサンしていきました。また、ある時は駅のホームで見た看板のポスターが何度も剥ぎ取られた跡が発想ときっかけになったこともあります。

マンションのエントランスの足跡(フットプリント)
フットプリントを元に描いたイメージ画(1)
フットプリントを元に描いたイメージ画(2)

この雨の日のエントランスのデッサンと駅のポスター跡のデッサン、2つのイメージを重ねて作品ができていきました。ある程度カタチになってきたらキャンバス作品にしていきます。この時私はデッサンに忠実にただ写していくのではなく、逆に少しずつデッサンから離れていくことを望んでいます。更に自分の深層にある俵屋宗達や、長谷川等伯の屏風絵などがインスパイアされて重なり、作品ができあがっていきます。

『槇檜図屏風』俵屋宗達 (紙本金地著色 六曲一隻 96cm×223.8cm) 石川県立美術館蔵

参考資料)『松林図屏風』長谷川等伯(安土桃山時代・16世紀) 
紙本墨画 国宝 東京国立博物館蔵

駅のホームで見た看板。ポスターが何度も剥ぎ取られた跡が発想に
駅のポスター跡を元に描いたイメージ画(1)
駅のポスター跡を元に描いたイメージ画(2)
駅のポスター跡を元に描いたイメージ画(3)
銀座ギャラリー展示作品「forest・blue」
銀座ギャラリー展示作品
作品ができるまでの流れをデッサンや写真でわかりやすく解説

表現活動は観察からはじまる

日常的なデッサンからも作品にしていきます。私の家の近くの公園の木です。花が落ちた後の藤棚の木です。本当に何枚も代わり映えもしないデッサンを描きます。ただ気になるから描きます。それを元にキャンバス作品に入りデッサンに縛られず離れて行こうとします。
どうしてそれが気になったのか、知らないものを見てみたいという思いが作品を作る原動力になるんだと思います。

銀座ギャラリー展示作品「garden・gate」
藤棚から発想を得て、描き起こしたデッサン
さらにデッサンを元に描いたイメージ画

ここで、百田さんとのお付き合いは大変長いという広根さんとの対談です。
感じ取る力を研ぎ澄ますためにしていること、読書や音楽から取り入れたり、普段していることについてお話ししました。
「百田さんはよく万年筆でその辺にあるものや人を描いているんです。鉛筆でも何でもいいんですけど、そうやって描くことが筋トレと一緒なんですよね。よく見ること、描いていくことを常にしていく。観察することが大事。その辺のつまらないものでも、描けないなんて言わずにどんどん書いていく。」と広根さん。
広根さんはリルケが好きで影響を受けたそうです。「リルケは自分がここにいるのは一度だけ、自分が今あるだけ、生まれ変わりなんてありえない、一瞬一瞬を大事にしよう、と。リルケから見たロダンは毎日毎日、とにかく仕事をして、とにかく手を動かしている、そうやっているうちに自然に出てくるもの、そういうものが大事と言っている。」
「世の中で起こっていることや自分の体験を合わせて、普遍性を持てれば良い作品になると思う。普遍性とは感情、悲しみや喜びとか。そういう自分の中で大事にしていかなきゃいけないことを忘れてはいけない。」
そんな広根さんは「一番幸せな時間は絵を描きながら音楽を聴いている時」とのこと。百田さんも共感していました。

最後に画家の山本ミノさんが抽象画について持論を話し、他のアーティストも加わり様々な意見があがりました。

アーティストの方も多く参加し、後半は議論が白熱

百田さんの制作についてのお話を受け、デッサンから構築していくもの、いきなり抽象画を描いていくもの、複数のアーティストの方々がそれぞれの立場で抽象画のアプローチについて真剣に意見を交わすシーンもあり、またそこに書道家の方の意見も加わり、議論を通じアーティスト同士のリスペクトを強く感じる会になりました。百田さんのしっかりとしたデッサンをもとに描いた抽象画作品は見飽きることがないと絶賛する意見もあがっていました。
百田さんのお話や会場の方々のお話は、普段あまり聞くことができない画家、作家の制作過程や心情が、私たちにも少し見えてくるようなとても興味深いものでした。

百田さんに展示されている個々の作品についてお話を伺った際、「公園の池」という作品のモデルの池には本当は水車があったけど、それを描いてしまうとみんなの心の中の風景の「公園の池」ではなくなってしまう。だから水車は描かなかった。と仰っていたのも大変印象的でした。
百田さんが試行錯誤を繰り返して作品を完成していく過程を知り、料理人や職人、そのほか様々な仕事にも通じると感じました。「ものづくり」の情熱に垣根はなく、これからも良い刺激を受けていきたいと思います。今回は貴重な資料をありがとうございました。

参考資料)
ライナー・マリア・リルケ
(Rainer Maria Rilke 1875.12.4-1926.12.29)
オーストリアの詩人。1902年よりオーギュスト・ロダンとの交流を通じて彼の芸術観に深い感銘を受けた。『ロダン論』のほか、自身の芸術観や美術への造詣を示す多数の書簡もよく知られている。

フランソワ=オーギュスト=ルネ・ロダン
(François-Auguste-René Rodin 1840.11.12-1917.11.17)
フランスの彫刻家。

profile
百田智行 Momota chiyuki
(油画、アクリル画、水彩画等制作)
新潟県西頸城郡青海町(後、糸魚川)出身 現在 東京都在住
16歳で版画家 深澤幸雄に師事 東京藝術大学絵画科油画専攻 卒業
元尚美学園講師 現在、池袋コミュニティ・カレッジ絵画制作室講師

略 歴
1999年 ちばぎんアートギャラリー 個展 (日本橋/東京)
2002年 阪急美術画廊 個展 (大阪/梅田)
2003年 ジュンク堂書店エントランスギャラリー 個展(池袋/東京)
2005年 GALLEY ART WAD'S  個展 (渋谷/東京)
2006年 GALLEY ART WAD'S  個展 (渋谷/東京)
2007年 東京芸術劇場  二人展 +やすのゆうじ (池袋/東京)
2007年 ChibaArtFlash07 「極私的空間からの...」
     千葉市民ギャラリー・いなげ特別企画展 (千葉)
2008年 中野画廊アベニュー 個展(中野/東京)
2009年 中野画廊アベニュー 個展(中野/東京)
     酒々井まがり家ギャラリー 二人展 +森雅代 (酒々井/千葉)
2010年 中野画廊アベニュー  個展(中野/東京)
     三愚舎ギャラリー 企画展 「雑司ヶ谷ラビリンス」展(東京)
2011年 中野画廊アベニュー 個展 (中野/東京)
    三愚舎ギャラリー 二人展 +矢成光生(豊島/東京)
2012年 ギャラリーオカベ 個展(銀座/東京)
    三愚舎ギャラリー 個展 (豊島/東京)
2014年 ギャラリーオカベ 個展 (銀座/東京)以降、20年終廊迄毎年開催
2015年 ウィリアムモリス 個展 (渋谷/東京)
2017年 つぎのカーブ 個展(新宿/東京 )
2020年 えすぱすミラボオ 個展 (銀座/木挽町)
2022年 小松庵総本家銀座 個展(銀座/東京)
     つぎのカーブ 個展(新宿/東京) 
     espace天 個展(新橋/東京)
     小松庵総本家銀座「はじまりの7人展」小松庵総本家100周年記念展
     その他グループ展等多数出品
 ※保坂延彦演出、朗読劇「少年口伝隊一九四五」
 美術担当として参加/2016~18年
※東條政利監督、映画作品に美術として参加/2013
※書肆山田、出版刊行の詩集等に装画(全4冊)

小松庵総本家 銀座 森の時間(平日16:00〜17:00)は展示してある作品をじっくりご鑑賞いただける、ギャラリー・タイムです。(この時間はお食事の提供はしておりません。)
今後も不定期でワークショップやトークショーなど様々なイベントを企画していきます。お気軽にご参加ください。
小松庵総本家 銀座(Tel. 03-6264-5109)

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