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2023年10月23日 小松庵銀座 森の時間|画家・石原七生さんギャラリー・トーク

10月23日(月)銀座ギャラリータイム「森の時間」は、銀座ギャラリーで個展開催中の画家の石原七生さんにお話しいただきました。日本画との出会いや作品づくりについて、実際に使用している画材を紹介しながら解説していただきました。

日本画との出会いは 「偶然のようなもの」

美大受験で選んだ学科はデザイン、版画、先端芸術、日本画で、合格したのが日本画でした。
もともと日本画に興味があったわけではなく、初めは苦労しました。近代日本画の作家や歴史も知らず、迷い、模索しながら、江戸絵画や肉筆浮世絵など日本の中世〜江戸期の美術、日本画というより日本美術に興味を持つように。その時に学んだ輪郭線への親しみや平面性、装飾性、空間の捉え方など、今も制作の指針にしています。
大学時代からのバイブル『日本美術の歴史』(辻惟雄 著)は、日本美術史についてわかりやすく書かれているオススメの書。日本画の輪郭や平面が現代のアニメに続いていることなど解説されています。インパクトある横尾忠則さんの装丁も良いですね。
辻 惟雄さんは日本美術の時代や分野を通底する特質として、「かざり」「あそび」「アニミズム」の3つを挙げています。

かざり」独自の発展を遂げた豊かな美意識である装飾性
あそび」一見生真面目に見える日本人の生活の裏側にある豊かな遊び心
アニミズム」八百万の神々と例えられる万物に霊がやどるという自然信仰や各時代に混ざり合う神仏に対する思い入れ、根付く信心、信仰心

私もそういった美意識に憧れ、共感して作品を作り続けてるように思います。

いいところを活かした技法
アクリル絵の具と日本画材の混合

日本画の「岩絵具」という粉末状の顔料。これは鉱石などを砕いて作られていおり単体では支持体に定着しません。定着させるために接着剤の役割をする膠(にかわ)が必要になります。チューブに詰められて売られている水彩絵の具や油絵の具との大きな違いです。
日本画材全体に言えますが取り扱いがすごく難しいです。鍛錬し扱っていくその先には納得の合理性があったりはするのですが、経験を積むことには金銭的にも時間的にもかなり投資が必要です。膠は腐りやすく、絵の具も剥離しやすく、湿度などの影響を受け劣化しやすいです。私は扱いが簡単な合成膠を使用しています。自由度の高いアクリルガッシュと併用していきたいと考えたからです。堅牢さを出したかったこと、色の鮮やかさを安定させたかったことなどが理由です。日本画材では水干絵の具や泥絵の具を使うことがありますが、その代わりにアクリルガッシュを使用している感覚に近いです。
最後の仕上げに岩絵具を使用することで、表面に岩絵具の良さが感じられるようにしています。岩絵具には独特の粒子感や輝きがあり、代え難い色彩や輝きがあります。
金箔や銀箔などの金属箔もよく使用します。こちらも日本画らしい表情が出ます。私は箔の部分には金箔、銀箔ではなく、アルミの箔を使っています。錆びや変色、劣化が少なく、ほんの少し安価でわざとらしくキラキラが持続するので気に入っています。
支持体については木製パネルに綿布を張り込んでいます。和紙や麻紙は高額で、かつ大きさに制限が出やすくなるため天竺木綿を選んでいます。木製パネルに綿布を張り込み、ジェッソや胡粉で仕上げ、やすりで磨いてから作画に入ります。
日本画の技法の基礎をベースに、画材の仕組みといいところを抽出し、解釈して使っていま す。高価な日本画材を効果的に使いつつ、それ以外のところは合理的な材料を使用することで費用も抑えられ、新たな挑戦にもつながりました。

日本画材(岩絵具、胡粉など)は普通の画材屋では手に入らないものも多く珍しい
刷毛や連筆(れんぴつ)など愛用の絵筆。岩絵具は筆の消耗が早いので大切に使っている
金色・銀色のアルミ箔を使った作品(銀座ギャラリー展示)

うまし うれし おもしろし

私の作品は「特別な日、非日常」をテーマに描いています。
今日しかない特別な日を描く。身の回りに集まるさまざまな物語を読み解くこと。辻褄の合わないことを掻き/描き集める先に、必然性との共通点を見出したいと考えています。
今回の個展はタイトルに「うまし うれし おもしろし」とつけました。

うまし : すばらしい。おいしい。味がよい。美しい。
うれし : うれしい。たのしい。ありがたい。
おもしろし : 趣がある。風流だ。すばらしい。興味深い。

私がお蕎麦に抱くイメージをそのまま表題にしたとも言えます。小松庵に来てくれた人へ私からの歓迎やもてなしや気持ちも込めています。
展示スペースのサイズに合わせた立体物にも挑戦してみました。彫刻というのはおこがましく、郷土玩具への憧れもあり、立体の作品を「おもちゃ」と呼んでいます。
多くの作品に描き、立体物にもしている「白象」は京都の養源院の杉戸に描かれている俵屋宗達の「白象図」のイメージです。白象というと若冲を連想する人が多いみたいですが。

小松庵銀座のバーカウンターに飾られた「招き猫」「白象」
「白象」は俵屋宗達の「白象図」からイメージ
銀座ギャラリー展示の中で一番大きい作品。「白象」の表情が印象的
参考資料)杉戸絵『白象図』 俵屋宗達
元和7(1621)年頃作 182cm×122.5cm 養源院蔵(京都府・京都市)

愛用の画材を持参して丁寧に説明していただきました。石原七生さん、どうもありがとうございました。
最後に参加した皆さんで意見を交わしました。
日本画と西洋画の違いとは「画材の違い」なのか「平面か立体かの違い」か。何が日本画かの解釈は難しく、いまだ解明されていないそうです。
日本は島国でずっと続いてきた歴史があり、シルクロードで繋がっている大陸の文化と違い、独特の文化が熟成したと言えます。浮世絵が西洋の印象派に大きな影響を与えていたり、現代はアニメーションなどを通じ、日本画と西洋画もボーダレスになり線引きは難しい…話は尽きませんでした。
 
石原さんのお話を伺い、日本の色の名前の多彩さ、その色の美しさを実際に見て学ぶことができ、貴重な体験ができました。
この日、石原さんが着ていたワンピースは、お友達のデザイナーが作品をテキスタイルにして作ったそうです。その作品と並んだ石原さんもひとつのアート作品みたいです。

参考資料)
『日本美術の歴史』辻惟雄 著

profile
石原七生 Ishihara Nanami
東京出身
2011 日本橋高島屋 ジパング展 
   -31人の気鋭作家が切り拓く、現代日本のアートシーン。-
   東京~大阪~京都 巡回
2017 「石原七生×村上佳苗 潮綯い合す処」(二人展) 今治市大三島美術館、愛媛
2018 「石原七生個展 まわる めぐる わになる」(企画展) ギャラリー枝香庵、東京
2020 「石原七生 村上佳苗 二人展 いきかよふ ほとり ほころぶ(企画展) ギャラリー枝香庵、東京
2020 「石原七生個展 あなたこなた よするなみ ひきなみ」(企画展) 照恩寺、東京
2020 「石原七生個展 彼方此方 寄波 引波」(企画展) えすぱすミラボオ、東京
2021 「石原七生個展 あまくも けはひ くものみを」(企画展) 照恩寺、東京
2022 「石原七生個展 くもゐ くもあい くものみね」(企画展) ギャラリー枝香庵、東京
その他展示多数
 
展示予定 2024/3月  石原七生個展 ギャラリー枝香庵、東京
 
アートワーク
2014 「アーティスト・イン・ホテル」企画 アーティストルーム「祭り」
    パークホテル東京
2018 アーティストルーム「海女」 TOBI hostel & apartments 305号室、三重(志摩)
2019 「東京キャラバン2019」メインビジュアル
主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
2020 小田急線片瀬江ノ島駅 新駅舎 装飾ガラス 原画提供
2020 ニューバランス Tシャツコレクション「9 BOX」 第5弾 原画提供

イベントのお知らせ
小松庵銀座ギャラリーで開催中の石原七生展も残りわずか、12月3日(日)までとなりました。
11月27日(月)銀座 森の時間は、石原七生さんエンディング・パーティ&ギャラリー・トーク Part IIを開催します。作品のモチーフ、象、鯨、猫、雲、人物や立体作品、玩具について、その他コラボした服、イベントのメインビジュアル、駅舎のアートワークの話など盛りだくさんの内容を予定しております。参加無料ですので、お気軽にお越しください。

小松庵総本家 銀座 森の時間(平日16:00〜17:00)は展示してある作品をじっくりご鑑賞いただける、ギャラリー・タイムです。(この時間はお食事の提供はしておりません。)
今後も不定期でワークショップやトークショーなど様々なイベントを企画していきます。お気軽にご参加ください。
小松庵総本家 銀座(Tel. 03-6264-5109)


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