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小説|青い物件

「こちらの物件はいかがでしょう?」と担当者に勧められて客は資料を手に取ります。担当者は続けました。「それほど新しくはありませんが、外観は美しく、とても日当たりが良くて、住みやすいと思いますよ。ただ」

「ただ?」と客は眉をひそめます。担当者は、咳払いをしました。「過去に当物件で動物が死んだことがありまして」。客は笑います。「動物なら気にしません」。担当者は言葉を継ぎます。「実は人も何人か」

 それでも客は動じません。「命あるものいずれは果てるものですから」。担当者は加えて言います。「ルームシェアと言いますか、生きている動物と人と同居というかたちになるのですが」。客は平気な顔をしています。

 担当者と客は内見へ。最寄りの恒星まで光速八分。築四十六億年。現地の言葉で表すなら、未確認飛行物体に乗ったまま、ふたりは遠く見える物件を眺めます。客は呟きました。「たしかに青い色が美しい」






ショートショート No.194

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