「千秋の日記」立ち読み

<作品紹介>

女の子的な、あまりに女の子的な。

16歳の女子高生の日記小説。切ない恋と家族の物語。一人の女の子の胸の内を書きました。制服を着た女の子の匂いがするような作品です。執筆に2年かかりました。代表作であり、力作であり、大作です。太宰治の「女生徒」のような雰囲気。ほっこり、優しく、初々しい。女の子の心をその子の声で覗いてみてください。

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↓第1日目の日記を立ち読みとして載せています↓

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二〇一六年一月一日 金曜日  

 新年明けましておめでとう。新しい年を迎えた今日から、日記を始めてみようと思います。胸に秘めているあらゆることを、このノートにだけこっそりと書き記していくのだ。アンネは誰にも言えない心の内を、彼女の心の友である親愛なる日記帳キティーにだけ打ち明けたけれど、私にも、アンネのように人に言えない想いというものがあるのだ。それを、これからはアンネのしたように、私もこのノートに書いていくのである。  

 では早速今日の日記。今日はお正月。お正月というのは不思議だ。朝からとても神聖な気持ちになる。清らかな風が心を通り抜ける心地がする。今日は日本晴で、気持よく澄み渡った青空が広がり、清々しい一年の始まりだった。  

 朝は家族揃って朝ごはん。喪中明けのお正月だから、今年は少し贅沢をして高島屋でおせちをお取り寄せ。お父さんがどーんといこうと言って、たん熊北店の三段重を選んだ。もちろん食べる前にはお母さんの仏前にお供え。皆で焼香をして、手を合わせて、それから頂いた。料亭のおせちというのは初めてだけれど、その美しさには驚いた。彩よく、華やかで、にんじんやれんこんはお花だし、何より重箱に様々なおかずが隙間なくきれいに詰められているのは見事なものだった。お重の蓋を開けた時、みんなが「おお」と言って見とれた。お味は申し分なく、おかずの種類は豊富で、鮑や鯛なんかも入っていて豪華で、一層おめでたい気分になった。でもおせちを見たら、お母さんが忙しく立ち働いておせちを作っていた姿や、お手伝いをして一緒に作ったこと、それから私の大好きな栗きんとんはいつもたくさん作ってくれたことなどが思い出されて、ちょっと寂しくなった。おせちを食べている時、お父さんは私達三人にお年玉をくれた。お兄ちゃんと私には一万円。優太には五千円。優太はこのお年玉でDSのポケモンのルビーを買うらしい。これはクリスマスにサンタさんからポケモンのサファイアを貰った時から決めていたこと。私は半分は貯金して、もう半分は新春バーゲンに行って新しいバッグを買うつもり。お兄ちゃんは何に使うのだろう? 今は受験だからお年玉の使い道など考えていないかしら。でも大方本を買うんだろうなと思う。  

 朝ごはんの後は家族皆で氏神様である杉山神社へ初詣で。神様に新年のご挨拶を申し上げた。ところで世の人は神様にお願いをするらしいけれど、私はそうしたことがない。もちろん私だって願いというものは持っているけれど、でも神様にお願いをして叶えてもらいたいと思ったことはないのだ。だから私の参拝はいつも手を合わせるだけ。鈴を鳴らして、二礼二拍手一礼。そうすれば何だかよい気持。参拝した後は家へ帰って蜜柑を食べながらテレビを見て、お昼にお雑煮を食べてまたテレビ。今度はチョコレートとポテチを食べながら。お正月のテレビでは、女性の方々は皆華やかなお着物を着ていらして、素敵だなあと思った。夜はすき焼き。我が葉山家では毎年元日のお夕飯はすき焼きなのだ。お正月だからお肉は鹿児島県産の霜降りの黒毛和牛。お肉はやわらかくて、脂の溶けた匂いがたまらなくて、とてもおいしかった。今日はお母さんが亡くなってから五回目くらいのすき焼きだったけれど、大分味付けが上手くなったようだ。特にお酒の量が難しいけれど、塩梅が覚えられてきた気がする。すき焼きの味にはこだわるお父さんも、「上出来、上出来」と言っておいしそうに食べていた。  

 ざっと書いてみたけれど、日記とはこんなものだろうか。初日だからちょっとぎこちないものになってしまったかもしれない。本当はもっと書きたいことがあるけれど、それはまた明日にしよう。ひとまず今日はここまで。

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