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zorozoroベスト作品集 その1

 僕の運営している小説投稿サイト「zorozoro - 文芸寄港」に投稿された本数が100作品を超えました。あざす! 全ての投稿者と読者、そして配布されていたスクリプトに感謝だ。  このサイトは100作品毎に「作品集」という括り方をされるので、結構おめでたいかもしれない。  どうしてこのサイトを作ったかとか長話も出来るっちゃ出来るんですが、まあそんなことよりは祭ってやろうという気概で今回の記事です。  今回は、サイトに投稿された中で、特に優秀だった作品を紹介していきます。

小説「ラパラパ」

 つくづく私はツイている。びっくりするほど環境に恵まれている。仙台にゴジラはいないし、死ね虫も少ない。それに名掛丁ではラパラパを幾らでも飲める。商店街のベンチに並んだ空きカップを眺めていると、胸にじわじわとした充足が湧いてくる。それは身長が高くなったようで、テストの点が上がったようで、誰かが自分の代わりに叱られているみたいだった。  たぶん、そんな感じだ。 「また飲んでる」  私に話しかけたのは、やはりCだった。こんな昼間に会いに来るのはCくらいだ。茶色い髪が少し伸びて、

小説「空と幻肢痛」

0  残酷なまでに晴れていて、馬鹿みたいに暑い夏の日だった。空の中に君がいた。  六階建てビルの屋上、扉を開けた先、一歩踏み出せば、天に手が届く場所だった。  はじめ、僕は分からなかった。君が風を連れていたから、どこかに行こうとしているんだと思った。だって、下ではなくて、上を見ていたから。わざわざ一番高い塀の上で、見上げていたから。  だから僕が声を出したのは……案外、君と仲良くなりたかっただけなのかもしれない。  君は僕に背を向けているから、顔も、名前も、靡く黒髪が長い理由

小説「寝るところ」

 三題噺「骨 爪の垢 睡眠」  最悪の目覚ましアラームが何かと聞かれたら、やはり玄関チャイムの音だろう。目を覚ました後の、今日は何をして過ごそうかなんて孤独にボンヤリ考える至福は奪われ、起き抜けから人と接しないといけないからだ。よって、この小うるさいインターホンの音を、無視するのには正当性があり、自分には二度寝の権利がある……などと考えていたのは、吸血鬼……ヴァンパイアの女であった。名をマーブルと言う。  ピーンポーン……  マーブルは憂鬱だった、現在時刻は夜の八時、

カス催眠音声ランキング

 せ~のっ、いらっしゃ~い。電子ドラッグというものをご存知だろうか? 音源などで流通し、人間の脳へ麻薬のように作用するプログラム。半ば都市伝説的存在でありながら、アメリカなどでは小さな社会問題を呼び起こしているシロモノであるが、我らが日本国では、合法となっている。それも当然、理由は電子ドラッグを常習する日本人が大勢いるからに他ならない。これは、10から0までの数字をカウントダウンするだけで絶頂体験に至ることが出来るという代物で、この手の商品は多数存在する。日本には電子ドラッグ

小説「花畑」

 森を抜けた僕の目の前に広がっていたのは、世の中で定義された全ての花畑よりも花畑であった。人間が食用にする為などの理由で植物を栽培するために、人の手によって区画された耕地。人工的に植えられて、一定の秩序が約束された野菜や穀物が土から顔を出している、それが畑だ。だから、この場所を表現するのであれば、花畑という言葉が何よりも相応しい。丁寧に耕された柔らかそうな……実際に柔らかい土の上に、等間隔で白い花が咲いている。整列した花々は同じ肌の色をしていて、皆そろって七枚の花びらを広げて

アダルトビデオの視聴中に「騙されている」と感じた時の原因と対処法

 その時は、誰もが熱中しているだろう。画面だけに集中して、母親の帰ってくる音も聞こえないほどに没頭する。その場に存在しないかの如く没入し、自己研鑽に勤しんでいる。  だが、そんな熱がスッと冷めてしまう瞬間が訪れる。なんの予兆もなく、ラジカセの電源を切った時のような鎮まりに包まれる。理由がなんだ? 出演者の演技が荒いから? 吐息が面白かったから? 時間停止中に大型犬が動き出したから? 疑念が生まれて膨らみ、境界が霧散してしまう。ガレキひとつ無い壊れた世界に、ポツンと立つ旗は首を

小説「カシコミカシコミ、境内ホ別0.005」

 体温計の数字が、僕に終身刑を宣告する。積み重ねてきたものを、うっかり肘先で崩してしまったような焦燥感。背骨から熱が抜けて、顔の形が定まらない。ああ、何もわからないや。ショックというのは衝撃という意味なんだ、脳が揺れている。落ち着いた心の端から燃えていく、ひどい後悔、ひどい後悔。ああ、拳を机に打ち付けたい、喉が枯れるほど叫びたい、ふざけるな、どちらも出来るわけないだろ!  いつ貰ったんだ、同窓会か映画館か、この憤りをどこにぶつければ良いんだ。スマホに爪を立てるようにして、SN

深夜散歩と鞦韆少女

 座ったまま小説を書いていると、段々と血の動きが鈍くなってきます。多動症なもので、椅子の上でも脚の筋肉がぐんぐん動いたりはしているのだけれど、それでも一、二時間と似たような姿勢を続けていては思考も堂々巡りしてしまうというもの。こういう時は散歩をするに限ります、考え事は捗るし、体を動かすので健康に良い。  丁度ティッシュペーパーを切らそうとしていたので、それを買うのも目的の一つとして、夜の街へと歩を進めました。散歩、買い物、考え事を同時に行います。マルチタスクは得意ではないです

小説「うつくしい世界を写して Ver.2.1」

 目を開けると、気味の悪いピンク色の景色が瞳から流れ込んで、私の脳をずぶずぶと浸した。視界がピンクに染まっている。体を動かすと、衣服の内側と皮膚の間がねちゃねちゃと粘着質な水気を挟んで、体は冷たいのに暑さで気怠いような感覚に、立ち上がるのを諦めてしまった。身を捩って起きる理由を探しても、瞼と同じピンク色が続くばかりだったから、寝ていても変わりはないよと言われているようだった。奇妙な光景への驚きと、その熱を奪うようなピンク色の泥が、私の呼吸を邪魔してくる。  動けずにじっとして