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エッセイ【その本は、まだ生まれていません。】

その本は、まだ生まれていません。
私の頭の中にだけ、その本はあります。

中学の時、初めて書いた小説もどきは、まだ書きあがっていなかったのに、国語の教師に持っていかれたまま……返却されなかった。卒業式の時に返して欲しいと言えなかった自分に、いまだに腹を立てている。
いわゆる中二病感満載の今思い出しても赤面するような小説もどきを、私はなんだってあの教師に渡してしまったのか。もしもあの時、とぼけたふりをして渡さず手元に残していたら……と、そこまで考えて気がついた。きっとその書きかけの原稿は、そのままどこかに埋もれてなくしてしまい、私の頭の中からも消え去ってしまったかもしれない、と。

あんなに恥ずかしい未完成のものを、「あなたは国語の教師に向いている。もっと国語の学びを深めたらいい」とちょっと褒めて認めてくれただけの大人に渡してしまった。そのうえ私は、その教師が勧めてくれた進路を選ばず親の言いなりになって高校を受験した。きっとアホな子だと思われた。あの作品は、笑われ、そして、ゴミ箱に捨てられたに違いない。そう想像しては、何年も息が苦しくなっていた。
だから忘れることなく、その本(あの未完成の作品)はずっと私の頭の中にある。

『その本は』(又吉直樹・ヨシタケシンスケ著)は、中学の時の脳内を思い出させる本だった。世界のどこにもまだ旅したことのない、ごくごく狭い範囲で生きていた私の頭の中だけでつむぎ出されていた沢山の書きかけの物語。あとからあとから脈絡なく生まれてくるのに書きあがらない、私の頭の中でぐるぐる渦巻く言葉たち。誰も期待していないし、どうせ完成しないんでしょ、本なんかにはならないから、と悪口を言うのは、自分。

でも、今でもあの書きかけの原稿が気になって仕方がない。
それは、まだこの世に生まれていない本をなんとか生み出したいと私は願っている。と、いうことなのかな。

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