DSC00815のコピー

2011.1.4 前編

前夜は何度も目が覚めた。

暗闇の中でシュラフに包まって瞬きをしていると、突如、目の前に絢爛なメリーゴーランドが出現し、けたたましいラッパと太鼓を打ち鳴らすオッサンの小人がたくさん出てきた。

スキップしながら風船を振り回すオッサン小人もいる。

幻覚なのは分かっているが、消えない。

プウウウウウウウウウゥゥゥゥ。

オッサン小人は、頭痛に悩む私を見透かすかのように、悪戯に耳元で思いきりラッパを吹く。

ムカついて手でかき消すと、小人もメリーゴーランドも消えた。


しばらく静寂があり、今度は暗闇の中で、耳元で幾多の声がざわめく。

まるで、地下鉄のホームにいるようだ。

これも、幻聴であることは分かっている。

だけど、消えない。

非常に不快だった。

耳を塞ぎ、神経を集中させると、ざわめきは消えた。


代わりに、ニマさんの大イビキが聞こえてきた。

これは幻聴じゃなかった。

寝れねぇな、こりゃ・・・。


暗闇の中、腕時計のバックライトに照らされた温度計、零下20℃。

道理で寒いわけだ。

現在時刻は、ようやく1時を回ったところ。

出発は5時。

あと、4時間か。

冷静に自分の今置かれている状況を想像してみる。

テントの中、大の男が川の字で寝ている。

オエッ。

想像するんじゃなかった。

そうだ、そうだ。

今日登るポカルデのシミュレーションをしよう。

思い浮かべるのは、私とニマさんが登頂旗を誇らしげに掲げる様子。

ところで、ポカルデの頂上ってどんなところだろう・・・。



ピピピピピピピピピピ・・・・・・

腕時計のアラーム。

4時だ。

テント内は真っ暗。

気付いたら、少しだけ寝ていた。

ニマさんと、ミンマものそのそシュラフから顔を出す。

「おはよう」
「・・・おはよう」
「・・・ナマステ」
「励起センセ、寝れた?」
「いや、ほとんど・・・」
「オレも頭イタくて、ほとんど寝れなかったよ」

・・・ニマさん、それは嘘だ。

思いっきりイビキかいて爆睡してたじゃん!

隣のテントからラクパさんも

「オハヨゴザイマス」

手早く朝食を済ませ、若干の緊張と、極度の興奮の中、きっちり時間通り5時にテントを出る。


外は相変わらず星たちが明滅している。

鋭い寒気で眠気も一気に吹き飛ぶ。

と、同時に緊張と興奮もどこかへ吹き飛び、妙に冷静な精神状況で人生初となるヒマラヤのサミットプッシュがはじまった。



つづく

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