0→1営業~製品ないのにどう売るの?~
はじめに
この記事のタイトルに興味を持っていただいた貴方はミッションとして新規事業を立ち上げる立場の方かもしれないし、たまたま自分が担当していた顧客が検討しているという情報を掴んだという方かもしれません。もしくは貴方自身が新しいプロダクトの企画者かもしれません。
理由はどうであれ0→1を創れるかもしれない貴重なチャンスに巡り合えたことは素晴らしいことだと思います。とはいえ、通常の営業プロセスのように手慣れたデモもなければ、導入実績や事例もない。当然安ければいいという話でもなく、通常の提案プロセスと同様に行っても勝算は低いと思います。では、その中でもどうやって差別化を図り未だ世の中に存在しいない製品を受注するかということについて整理してみることにしました。
前提として私自身がBtoBのITベンチャーで開発前の新規プロダクトを複数回に渡り獲得した体験を基に記事を作成しています。あくまで個人としての経験から来るエッセンスではありますが新規製品を世に広げていくことにチャレンジしたい方にとって参考になれば嬉しいです。
フェーズ1:正しい問題を発見する
1-1.武器は何か?:あるものに目を向ける
製品もない実績もないと無いものばかりに目が向きだが、何がないかより大事なことは何があるかだ。起業する際も創業者や創業メンバーの経歴や経験、実績などのバックグランド見られることも多い。社内にいる人材の経験やノウハウ。或いは製品を企画する段階でヒアリングしたアンケート調査結果と分析のレポートなど製品はなくとも営業に使える武器はあるし、なければ作るしかない。
少なくとも新規プロダクトを立ち上げる際には背景があるはずでその仮説となるストーリーを共有することも非常に大事なポイントだと考えている。ちなみにこれが自社都合の理由のみだと中々に説得力が弱い。当初からある程度のラインナップを構想していてそれが形になりましたということであればまだいいが、「もう一本プロダクトを当てないと目標に達しないから」「マーケットがありそうだから」という動機だと説得力のあるストーリーは生まれづらい。少なくとも理念に沿って矛盾しない動機がないとなぜこの会社がその問題に取り組むのかという理由が伝わらない。この部分は最後の最後で効いてくると考えている。提案が全部出揃った最終局面で「本当にその会社やってくれるの?上手くいかなかったら撤退するんじゃないの?」と問われた際に功利のみの理由しかないのと、企業理念、存在意義としてやるべきことだというのでは全くもって納得感が違うと考えている。
特に大手企業ではどこまで行っても未知というリスクを顧客が取って社内で説明する際になぜこの会社なら任せられるのかという理由がないと説明しきれないので、やり切る覚悟を会社として伝える必要があると考えている。大手企業の新規事業や外資系のTech Giantのような場合だと違った戦略を取れるが本記事ではあくまでベンチャーという立場でのケースなのでここでは言及しない。
1-2.話の機会を作る:Give&Give&Give!!!
大前提として問題を発見するためには事前準備もさることながら実際に問題について話をする機会を作らなくてはならない。そのためには顧客が抱える問題の相談先として意味がある相手と認識してもらえるための自己開示が必要となる。その上で、問題に対する考察や周辺情報など議論をする上で有益な情報提供が必要になる。問題に対する理解を示した上で、問題解決への新しいアプローチに興味を持ってもらえるかということが商談の初期フェーズの大きなポイントになってくる。
ここで勘違いされがちなのが顧客へのヒアリングから入ろうとして失敗するケースだ。そもそもまだ実績もない相手に問題について真剣に話す意味がない。まずは自社なりの仮説を提示し、共感を得た上で顧客の抱える事情の解像度を上げるためにヒアリングしていくという流れが必要だと考えている。元々信頼関係がある場合はヒアリングから入ることはできるかもしれないが仮説への共感がなければただ親切に教えてもらえているだけになるので、いずれにせよ問題に対する仮説は必要だと考えている。
1-3.問題を評価する:それは本当に問題なのか?
既存のソリューションでは満たされない問題を発見できたのであれば、次は問題を評価しなければならない。確かに他社では満たせないかもしれないがその問題がそこまで大きな問題ではなければ差別化要素にはならない。
形も実績もない最後尾の位置から提案をするにあたってはその問題に対して下記の2つの問いで考えてみるといい。
・本当に代替案がないのか?
→金、人、時間があれば解決できる問題ではないか?
・本当に我慢できない問題なのか?
→現状維持に明確なストレスやペインを感じるか?
ここで気を付けるべきことは表層的な問題に対して機能ベースで差別化を考えてしまうことだ。確かにあったら便利なものだったり、性能だけで比較すると優位に見えることもあるかもしれないが、実際の利用シーンで考えてみたら数分、数秒の違いしかないものを一生懸命にアピールしても大した差別化にはならない。機能、性能ではなく問題を解決した際の価値で考えないと問題解決の提案にはならない。
マーケティングの世界では古典的なレビットの「ドリルと穴理論」といえばご存じの方もいるだろう。実績も形もないプロダクトを売るためにまずやるべきことはドリルの性能差を説明することはなく、問題という「穴」を再定義することだ。新規プロダクトに限らず営業案件において「この案件いけるな」と手応えを掴めるのは問題を正しく認識できた時だと考えている。ドラッカーの言葉にある「正しい問いを探すこと」は営業にも当てはまるということだ。
ここまでのプロセスを顧客と会話して「確かにそれが本当にできるなら検討してもいい」という期待値で選択肢に入れたのなら次は競合と同じ土俵で戦わないことが重要になる。複数の中の選択肢から一つを選ぶ構造ではなく、自社の提案VSその他(既存の選択肢)という構図を作る必要がある。いわば「俺か、俺以外か」という話である。
フェーズ2:『問題解決』を提案する
正しい問題を発見することができたならば、問題解決のプロセスに進むことができる。概略としては図に示すように「現在地を示す」、「GAPを明確にする」、「GAPを解消する」という流れで進めていく。
2-1.現在地を示す
0→1の提案であっても「100%が新しい」というわけではない。新技術にしても前触れもなく突如として生まれたわけではなく、これまでの歴史の積み重ねの上に成り立っており、開発プロセス自体も目新しい方法というわけではないことが多いだろう。
また、新規性は目新しさという意味で興味を引くには強いが、そればかりを提案してもリスキーなものにしか映らない。toCや個人で利用する製品やサービスであれば新しいものが好きなイノベーターが一存在しているが、BtoBの場合は合意形成が必要になるため不確実性の高いものは評価しづらい。特にエンタープライズ企業であったり業務系の仕組みとなってくるとその不安はより顕著になる。
そこで重要になってくるのが「何が新しくて、何が新しくないのか」ということ示すことだ。概念も技術も新し過ぎると評価できない。例えば、新幹線からリニアという変化であれば既に体験している高速の長距離間移動を技術革新によってより速く安全に移動できるというイメージを持って選択することができるが、人類で誰も経験したことがない瞬間移動装置を提案されたとしたら怖くて乗りたくないと思う方が大多数の感覚だと思う。
ここでも「あるものに目を向けること」が重要になってくる。例えばこれまでリリースして既に価値を証明しているプロダクトの事例やそれを再現できる既に確立された技術、開発プロセスやノウハウなどもそうだ。問題の解決ラインが10だとすると0からのスタートということではなく、途中まではこれまで提供した価値や経験、実績でカバーして残りの差異をいかに埋めるかという提案に持ち込む必要がある。
2-2.GAPを明確にする
先に述べた差異を埋めるためにはその差分を明確にして実現までの距離を測る必要がある。それが導入期間中に現実的に収まる差異なのか、逆に差を埋めるためのリードタイムが許容できる範囲なのかということが重要になってくる。ここを明確にするには営業では難しいので業務を理解して要件を整理できるプロダクトマネジメントができるメンバーと連携する必要がある。
このスコープを整理することがプロジェクトにおいても非常に重要であり、やること以上にやらないことを明確にできるか否かは死活問題になる。顧客の要望をできるだけ汲み取りたい営業の立場からすると前のめりにより多くの要望を実現しますと言いたくなる気持ちになるが、ここで重要なのは価値を提供するための最小単位MVP(Minimal Valuable Product)に落とし込んで現実解を作ることだ。ただし、そこに留まっては本来望む姿には至らないため、将来構想の通過点としての位置付けとして示す必要がある。将来構想に至るためのはじめの一歩をどれだけ小さく現実的に落とし込めるか、そしてその後に続く2歩目、3歩目を着実に実現していく道筋を示して信用を得られるかがポイントになる。
ちなみにVision Salingという言葉は「夢を売る」と解釈されがちだが、期待値を上げるだけなら簡単なので夢だけを売ることは実はそこまで難しいことではない。しかし、現実が伴わないとその期待は失望に変わり不満因子になってしまう。「夢と現実を同時に売る」ことこそがVision Salingの正しい解釈であり極めて難易度が高いことだと考えている。
2-3.GAPを解消する
ここまでで問題を解決をするためには「何が必要か」ということがクリアになった次は「どうやって実現するか」だ。まだ形のない製品を購入してもらうためには形にするまでのプロセスまでを提案をすることで「確からしさ」を感じてもらう必要がある。ここで必要になるのがプロジェクトマネジメントだ。目的を達成するためにどのような工程をどれくらいの期間、リソースを用いて、どのようにマネジメントしていくのか、どこにマイルストンを置いてどのようにモニタリングを行い、顧客とどのようにコミュニケーションを取って進めていくのか、予め想定されるリスクに対してはどのような対策を検討できるかなど顧客の疑問を具体的に払拭する必要がある。
クロージングフェーズともなると顧客も本当に大丈夫なのかと不安になることもあれば、上申のプロセスの途中で検討当事者以外の関係者から指摘を受けることもある。その際にプロジェクトを推進していく上での障害とそれに対する打ち手が予め想定された質の高い計画を示すことで担当者への安心感と関係者に説明できる武器を与えられるかが重要な鍵になる。特にエンタープライズ企業とのプロジェクトにおいて進捗が芳しくないと顧客側でも説明が必要になるため、報告に必要なドキュメントの提出を大量に求めれることになる。そうなると一気にマネジメントコストが増大することになるため先手を打ってマネジメントプロセスを整備しておくことは自社のビジネスを守る楯にもなる。
フェーズ3.実行する覚悟
ここまで問題に対して魅力的で納得感がある提案を作るために必要なことは何かを説明してきたが、どこまでいってもあくまで未来の話であり仮定であるという事実は変わらない。そこで最終的に問われるのはそれをやりきるだけの覚悟になってくる。プロジェクトの当事者だけではなく経営としての覚悟、場合によっては企業をバックアップする出資者にまで話が及ぶことさえある。顧客もプロダクトを提供する側にとってもチャレンジングなことなので双方で同じ目的に向かってやり切る覚悟が最後のピースになると考えている。最終的に信頼を得て一緒に仕事をしようと人の心を動かせるのは人なのだ。
ここまで新規プロダクトを提案する上での問題解決プロセスを整理してきたが、実は既にあるプロダクトでも新規のプロダクトでも営業という視点では本質的な考え方は変わらないのではないかと気づいた人もいるのではないだろうか?私自身も本質は変わらないと捉えているが、形も実績も乏しい新規性の高いプロダクトの方がわかりやすく着飾れるものがないため営業力というものの本質がむき出しなると考えている。
ここから先は新しいプロダクトを世に出していくことを実行する当事者向けの内容になっている。提案を前に進めるための顧客の状態と提案当事者が持つべきメンタリティについて述べていく。もし、貴方がまだ世にないプロダクトを営業している、これからしようとしているのであれば是非この後もお付き合いいただきたい。
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