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コンプレックスがあるから、あなたの人生は面白い。-心電代表・郡司淳史さん-

彼のそばでは、人の個性が輝きだす。

自分に自信がなかった人は、いきいきと自分のことを語れるようになり、新しい一歩を踏み出す勇気がなかった人は、その一歩を力強く踏み出す--。僕も、彼と接するなかで自分の自信を取り戻していった一人だ。

「彼」とは、「心電」を立ち上げ、その代表を務める郡司淳史さん。

郡司さんは『心(sin)に電(den)気を』をコンセプトにした「心電」で、ブランディング、商品開発、映像・グラフィック、イベントなどの事業に取り組むクリエイター集団をマネジメントしている。

「心電」ではデザイナー、プランナー、映像ディレクター、イベントプロデューサーなどのメンバーがその個性を発揮し、商業施設「グランツリー武蔵小杉」のハロウィーンイベントや、お茶を通じた豊かな時間を提案するブランド「VAISA」など、多くの人を驚かせるクリエイティブを世に送り出し続けている。

なぜ彼のそばでは、人の個性が輝きだすんだろう。

その背景には、「コンプレックスがあるから、人生は面白い」という彼の哲学と、コンプレックスと向き合い、もがき続けてきた人生があった。

郡司淳史
心電/VAISA/CHOUTSUGAI/caravan
GaiaXを始め、様々な企業のコンサルティングやブランディング、イベント企画に携わる。「VAISA」というプロジェクトを遂行する傍ら、「心(SIN)に電(DEN)気を」をテーマにチームを結成。2018年からは「ほめるBar」など、人の魅力やありのままの姿を肯定するための「ほめるプロジェクト」活動も開始。「行動」をテーマに「郡司塾」も主催。


人と同じことができないコンプレックス


--郡司とは2年前くらいから仲良くなって、活動もよく見させてもらってるけど、人の個性を輝かせる力がすごいよね。

郡司:そうかな? ありがとう。

--たとえばおれが「これやりたい」って言い出すと、「それ、本当にやりたいことなの?」って問いかけてくれる。確かによく考えると、周りがやってるからやりたいって言ってるだけだったりするんだよ。だから、郡司は人のやりたいことや個性に気づく力がすごいんだろうな。今日はそれがどうしてなのか、聞いていきたいんだよね。

郡司:あぁ、なるほどな。それはおれのコンプレックスからきてるのかもしれない。

--コンプレックス?

郡司:小さい頃から、頭が良くないというか、要領が悪いのね。

たとえば、話を噛み砕いてわかりやすく伝えることができなかったり、人と会話してても、ぼーっとして会話が遅れたりするんだよね。昔から集中力がなくて。多動なのかもしれない。人が当たり前にできることができないのが、小さい頃からずっとコンプレックスだったんだよ。


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--それで苦労してきた経験があるの?

郡司:高校までテニス部だったこともあって、大学に入ってからテニススクールのコーチのバイトをはじめてさ。自分でレッスンを持ったんだけど、おれの要領が悪すぎて。生徒の名前が覚えられないし、レッスンもうまく回せなくて、他のコーチから「お前何やってんだ!」っていつも怒られてたんだよね。逆に生徒から教わることもあるくらいでさ。「あいつだめだ」っていう視線を感じながら、ずっと耐えてた。

--それはきつそうだな。

郡司:きつかった。もう、プライドがめちゃめちゃになるよね。それで人間恐怖症みたいになって、人とコミュニケーションがとれなくなったんだよ。帽子を深くかぶって、誰とも目を合わせないでレッスンしていた時期もあった。


今はこうやって笑って当時のことを話せるけど、あのときは結構ヤバい状態だったと思う。「行きたくない行きたくない…」っていつも思ってたよ。


人と違うこともできないジレンマ


郡司:でもさ、人と同じこともできないけど、人と違うこともできなかったんだよね。

--っていうのは、どういうこと?

郡司:「人と違うことをしたい」って気持ちはあったから、大学時代はロン毛にして、海外を旅したりしてたんだよ。だから就活はベルトコンベアーに乗せられてるみたいで、違和感があった。だけど、「みんなと同じじゃなきゃいけない」っていう気持ちも強かったんだよ。人と違うことをすることの恐怖感みたいな。


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--ああ、その恐怖感はおれも感じてた気がする。

郡司:うん。だから髪を切って、一応就活をしたのね。100社ぐらい受けて2社だけ受かって。そのなかのひとつだったITベンチャーの社長が「郡司くん、おもしろいね」と言ってくれて。そんなふうに自分のことを認めてくれるんならいいかと思って、そこに入ったんだよね。

最初は「デザインやりたい」って言ったけど叶わなくて、マーケティングの仕事をして、そっから営業やって。

でも、マジで仕事できなかったのよ。ビジネス文章の書き方もわかんなくてさ。3人の同期のなかで、もちろん給料は一番低いし。仕事にも身が入らなくて、フレックスだったから16時に帰ってた。夜は DJやったり、友達と飲み会とかしまくってたんだけど。 いま振り返ると黒歴史だよ。

このまま同じような毎日を一生ごすのかな? もし会社がなくなったら生きてけるのかな? っていう不安がずっとあった。


とにかく動くことしかなかった


--その時から、会社を立ち上げようと思ってた?

郡司:いやいや、ぜんぜん。いつか自分の会社を立ち上げるなんて思ってなくて、「このままじゃダメだ!」っていう焦りみたいな気持ちだけ。

辞める時は、崖から飛び降りるくらいの、ものすごい恐怖に襲われたよ。でも、ずっと変わりたかったから。心のどこかで、「自分にしかできないことができるはずだ」って信じてたんだよね。

--コンプレックスもあったけど、自分を信じてる部分もあったんだ。

郡司:そうだね。自分を変えるためにおれにできることは、とにかく動くことしかなかった。フリーランスになって、それからはガムシャラに、工事現場の仕事とAirbnbの清掃の仕事と、メルカリでの販売をしてお金を稼いでたよ。

朝6時から、工事現場で2時間7000円の荷揚げの仕事をして。現場を一日3件回ってさ。あとはAirbnbの清掃の依頼があったらいつでも行けるようにして、1回3時間くらいやって。隙間時間にメルカリで着ない洋服とか、あるものを売って。


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--めちゃくちゃ働いてたんだね。

郡司:ガムシャラだったね。 実は当時フェスを主催して、100万円くらい借金を背負ってたんだよ。それもあって、お金を稼ぐしかなかった。しかも生活をしなきゃいけないから、毎日マックのハンバーガーばっかり食べて、現場には自転車で行ってた。携帯も買えないから、もらった携帯を使ってさ。「おれ、なんでこんなことしてんだろ?」って、泣きながら家に帰ってたよ。

--泣きながら。

郡司:誰にも相談できないしね。26歳で会社辞めて工事現場で働いてることを、人に言いづらいっていう気持ちがあってさ。そういう仕事をしている人を否定する気はぜんぜんないし、現場にも尊敬できる人がいたけど、当時は自分がやりたいことではなかったから。

だから、人に会う時は工事現場で働いてるのがバレないように、現場から家に帰ってシャワーを浴びて、着替えてから会ってたよ。現場で使うヘルメットは、見たくないから早く捨てたくてしょうがなかったし。作業服は人が来ても見えないように、洗濯機に押し込んで隠してた。


誰だって、その人にしかない特殊能力を持っている


郡司:そんなある日、人生を変える出会いがあったんだよ。それはあるIT企業の社長との出会いでさ。仕事の関係で出会って、話したら「グンちゃん、君おもしろいから、おれがやりたいことを企画に落とし込んでみてよ」って言われたの。

それから毎週毎週オフィスに呼ばれて、アイデアを伝えられて「これ来週まで企画書つくってこれる?」って。おれも「はい!できます!」って返事してさ。

--できるっていう自信があったの?

郡司:いや、ほんとはやったことないんだよおれ。だからある意味、ハッタリだよね。でもハッタリを本当にするために、ガムシャラにやった。言われたことを覚えるの苦手だから必死で聞いて、当時使わせてもらってた作業場で夜中まで資料をひたすらつくって。そのまま朝チャリで現場に行って、夕方に作業場に戻ってきて、また資料を作る……みたいな生活。それを1年くらい続けてたね。


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--チャンスを掴むために。

郡司:というか、ガムシャラにやることしかできなかったという感じかな。そうやって頑張ってるうちに、人から「郡司さんの企画、すごいですね!」って言われることが増えてきて。 有名な企業から、アドバイザーの相談が来たりしてさ。

1年前の自分だったら考えられなかったことじゃん、そんなの。たくさんの人に評価してもらえたことを通して、「人と同じことができないのがコンプレックスだった自分でも、人が思いつかないような企画をがつくれるんだ!」って気づいたんだよね。

--コンプレックスに対する見方が変わっていった?

郡司:そうそう。コンプレックスって、むしろ特殊能力なのかもしれない。誰だって、その人にしかない特殊能力を持ってるんだ、って。

そのことに気づけて、「自分は間違ってなかった」って、自分で自分を信じられるようになっていったんだよ。


誰でもコンプレックスを含めて、自分の個性を活かすことができる


郡司:おれに「人のやりたいことや個性に気づく力」があるとしたら、今話した経験が根っこにあるんだと思う。おれだってやれたんだから、誰でもコンプレックスを含めて、自分の個性を活かして、毎日楽しく生きることができるって信じてるんだよね。

--でも、今はそう生きれてない人が多い感覚があるのかな。

郡司:そうだね。前、音楽のイベントを三軒茶屋でやった時に、友達の女の子が自分で作ったピアスをつけてたの。そのピアスがめっちゃ可愛かったから、「売りなよ!」って言って、イベントで売ってもらったのね。

で、売れ始めたんだけど、その子が仕事が忙しくて作る時間なくなって、売るのやめちゃったんだよね。それがおれはすごく悲しくてさ。そうやって、周りにその人の個性を活かせる環境がないことで、世の中の才能がどんどんなくなっちゃったらもったいないじゃん。


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--個性を活かすには、環境が大事なのか。

郡司:うん。人が持っている特殊能力を発揮すためには、人から認められて、前向きになれるような関係性が必要だと思うんだよね。

大学生のとき、あるバーで働いてたことがあるんだけど。そこでもおれは当たり前のことができなくて、社員さんにすごい怒られてさ。でもその人は愛があったから、「お前面白い奴だな」って言って、認めてくれたんだよね。おれが自分のコンプレックスを受け入れられたのは、あの人のおかげだと思ってる、本当に。

その店にはおれみたいな、人と同じように生きれない人がいっぱいいて。ある意味みんなポンコツなのよ。でも、お互いポンコツなところを認め合ってる。その人たちと話してる時は、自分も大丈夫だと思えたというか、むしろこれまでコンプレックスだったことが、人間味があってユニークじゃん、と思えるようになったんだよ。自分のルーツみたいな場所だった。


特殊能力を活かし合えるチームをつくりたい


--そのバーみたいに個性が活かされる環境をつくりたい?

郡司:そう思ってる。コンプレックスがある人達を、「それが素晴らしい特殊能力じゃん!」って受け入れて、その特殊能力が発揮できるような環境をつくりたいんだよね。

コンプレックスだと思ってしまうようなことだって、愛らしい個性だから。みんなそのままで生きる人が増えたら、世の中ハッピーになるって思うんだよね。

おれにとって、「心電」も「VAISA」も「ほめるBar」も、根っこにある想いは同じ。関わっている人が、個性を発揮して、幸せになってほしいんだよ。


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特殊能力を持った人が助け合いながら、一緒に面白いことをしていくことを通して、それぞれが生きがいを見つけられたらいいなって。「オーシャンズ11」とか、「アベンジャーズ」みたいな個性あふれるチームをつくりたいの。

--なるほどな。どんな瞬間が一番嬉しい?

郡司:そうだなぁ。おれ、人が「これだ!」って使命を持って、やりたいことをやっている時の笑顔を見るのが好きなんだよね。だから、おれが小さなプロジェクトをつくって、「やりたい!」って手をあげる人に任せていきたいと思っている。今は「心電」はクライアントワークも多いけど、究極は一人ひとつ、自分が本気でやりたい自社事業を持てるようにしたいと思ってるよ。

自分たちだけじゃなくて、商品とかイベントに触れた人が「これおもしろい! 私もなにかやってみよう」って行動を起こしてくれるのが、究極の理想だね。「心電」のコンセプトは「心(sin)に電(den)気を」なんだけど、まさに心にビビビッと電気を走らせていきたいんだよ。


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自分の人生を大切にして、楽しく生きたい


郡司:今ってコロナの影響で、価値観がすごく見直されるタイミングだと思う。お金を稼ぎ続けることが幸せだと思ってた人も、誰かと一緒にすごす時間の大切さに気づいたり。これまで以上に、自分の価値観を大切にすることが必要になっていくと思うのね。

--うん。

郡司:だからさ、自分の価値観に気づいたときに、「そんな自分はおかしいんじゃないか」って否定するんじゃなくて、そのままの自分を信じていけたらいいよね。

できないとこあるなら、それをみんなで補いあってけばいいじゃん、って思う。自分のことを、コンプレックスだったことも含めて受け入れて、楽しく生きる人を増やしていきたい。

--すごく共感する。一方で、なかなか簡単じゃないよね。

郡司:本当にそうだよね。ひとりで自分の価値観に気づいて、さらに受け入れていくのは難しい。だから一緒に取り組むために、おれの経験や価値観を伝える「郡司塾」っていう講座も始めたんだよね。今、20人くらいが集まって、定期的に生き方や働き方について考えてる。

おれだってまだ完璧にできてるわけじゃないから、「一緒に楽しく生きてかない?」っていう気持ちだね。それを強制するつもりもないし、あくまでも提案だけど。

みんな、一度しかない、自分の人生だからね。みんなで楽しく、自分を信じて生きていきたいんだよね。


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(執筆・撮影:山中康司)

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