「ゴブリンでもわかるゲームプログラミング」第1話 ~読むだけでゲームプログラミングがなんとなくわかるようになる謎のファンタジー小説~
【あらすじ】
IT企業務めの社畜……吉田ユキは、ある日、働きすぎて死んだ。
気が付くと、異世界の魔王の街の住人ユキ・リバイスに転生していた。
中等部にて魔法を学んだユキであったが、魔法補助具と呼ばれる補助なしでは魔法を使えない無才であった。
しかし、好奇心から魔法補助具の構造を探究していくと、仕組みがプログラミングに類似していることに気付く。
それに気づいたユキは魔法補助具をハックし、マジック・ロジックを組み込むことで、便利な道具を作り出すことに成功する。魔法補助具なしでは魔法を使えないユキは高等部に進学できず、高等部の用務員に就職した。
改造した魔法補助具を利用して、雑用をこなしつつ穏やかな日々を過ごしていた。
【補足】
●3話以降のエピソードのあらすじ
ユキは高等部の用務員として改造した魔法補助具を利用し、雑用をこなしつつ穏やかな日々を過ごしていた。
そんなある日、氷の魔女と呼ばれる高等部の生徒会長であるアイシャ・イクリプスにその様子を発見されてしまう。
そんなアイシャはユキに、厳命を出す。
〝冷蔵庫を作れ〟
なんやかんやあり、アイシャの手引きにより学園に編入されることになってしまったユキは穏やかな学園ライフを送りたい本人の想いとは裏腹に、バキバキに成り上がってしまうのであった。
●読みながらプログラミング学習
本作は本文にがっつりソースコードが出てきます。
読むだけでシューティングアクションゲームのプログラミングの雰囲気がなんとなくわかるようになる!(誇大広告かもしれない)
ついで学習をコンセプトとした【教養×ファンタジー】です。プログラミングをがっつり学ぶというよりは、ゲームで魔法を再現する時、中ではこういうことをしているという具体例を示しつつ、プログラミングがそんなに難しいものじゃないということを知ってもらうくらいのレベル感です。
●WEBトゥーン
創作大賞の漫画原作部門への応募作です。
本作は本文にソースコードやらプログラミングの解説やらが出てくるせいで、致命的に縦書きの本に向いていません。
要するに書籍化が非常に困難なことに気付きました(ぶっちゃけ最初から気付いてたけど、書きたかったから仕方ない)。
紙面に制限のある通常のコミカライズも難しいでしょう。
ただ、ちょっと閃きました。WEBトゥーンならワンチャンあるのではないかと。ということで、漫画原作部門で応募しております。
●その他
その他の補足についてはこちらの記事にまとめています。
【本文】
「お、ここだ……! 単純ミスじゃねえか……だーから変数のスコープは無理に広げるなって言ってるのによ」
吉田ユキ(35)は問題となっていたシステムのプログラミング内にバグを発見した。
その時であった。
「う゛……!」
ユキの身体に激痛が走る。
吉田ユキ(35)は残業中に血管系の病気が発症。 周りに誰もおらず、翌朝、冷たくなっているところを発見される。
ユキは本業はシステム系のプログラマーであった。 業務外では趣味のシューティングゲームを作ったりもしていた。 実力はともかくとして、プログラミングが好きであった。
そんなユキは大変ながらも結構、仕事を楽しんでいた。 彼が初めてプログラミングに触れた時、〝まるで魔法のようだ〟と高揚した。 その気持ちはユキという人間の根幹となっていたのだ。 だから、プログラミングをしているときは自分が自分でいられる気がした。
だが、精神とは裏腹に身体はついてこれていなかったようだ。 平均睡眠時間3時間が常態化していた。 ユキは自分はショートスリーパーなのだと思い込んでいた。 しかし、過労は、知らずしらずのうちにユキの身体をむしばんでいた。
そして、死に際にユキは思った。
「せめて……このバグ直してからにしてくれぇ……変数iが悪さをしているんだ……」
〝犯人はi〟
それが、ユキが死に際にメモに残したダイイングメッセージであった。(病死なのに)
◇
そんなユキが自身がこのような死を遂げた転生者であることに気が付いたのは、11歳の時であった。
魔王城が構える城下町に、平民として新たな生を受けたユキ。 苗字はリバイスなどという、いくらか洒落たものに変わっていた。 しかし、偶然(?)にも新たな親が付けてくれたファーストネームはユキのままであった。
そのことに気付いたユキ・リバイス(11)が最初に思ったこと。 それは……
(ゲームのような世界だな……というか、ゲームの世界だと思う)
そう思った理由、それは……
転生したこと。 転生後の世界が前世におけるJRPGゲームの定番の世界観であったこと。
それから半分、冗談めいた話ではあるが……
(Y(旧twetter)を買収したウーロン・タスク氏はこの世界がシミュレーションワールドである確率は99%なんて言ってたしな……)
そんな言説を知っていたこともあり、ユキはこの世界はやっぱりゲームの世界なんじゃないかと思った。
そんな驚きがあったのももう一年以上も前の話……
◇
「ユキ、そろそろ行かないと学校に遅刻するぞ」
洋風な石造りの集団住宅の一室。 そのリビングで、壮年の男が穏やかな口調でユキに告げる。
「もう出るよ、父さん」
ユキ・リバイス(12)を学校へと促したのは今世におけるユキの父であった。 その傍らではユキの母も微笑んでいる。
魔王城が構える城下町に、平民として生まれたユキ。 両親は少し保守的でお堅くはあったが、普通の家庭であった。 平民なので、特権階級があるわけではないが、特に虐げられているわけでもない。 贅沢ではないが、慎ましすぎることもない。 幸せな家庭に生まれ、ユキ少年は穏やかな少年時代を過ごしていた。
ユキには少年時代の記憶もあり、ちょうど前世の記憶と混じり合ったような状態であった。 ただ、前世の記憶が混ざったことで、少年時代の記憶が少し飛んでいることがあった。
◇
「それでは三限目は魔法学の授業です」
(きたか……!)
中等部生(現世でおける中学生にあたる)であったユキの唯一、好きな授業は〝魔法学〟であった。
ユキは前世において、小中高大と学生時代を送り、社会人となっていた。
ユキは転生により、もう一度、学生をやり直さなければならないことは正直、少し嫌であった。
学生には、テストやらレポートやら単位やらというものがつきものである。 根はまじめであったユキはそれらをこなすのに、割と苦労した記憶があった。 その課題を今世においてもやり直さなければならないという事実は結構、辛かった。
そんなユキには悲報と朗報がそれぞれ一つあった。 まずは悲報……この世界には、前世のような高度な科学技術がないこと。 そして朗報……この世界には、〝魔法があること〟だ。
悲報の方……科学技術がないことは、すなわち、その一員であるプログラミングがないことを意味していた。 ユキにとってプログラミングがないことは辛い事実であった。 しかし、代わりに魔法があったのは救いであった。
魔法を学ぶことが今世におけるユキの楽しみであった。
そんな魔法のあるゲームのような世界に転生したユキには一つ、気がかりなことがあった。
それは〝魔王城〟の存在だ。
魔王と言えば、ゲームにおいて、勇者に討たれるのが昔ながらの定番の設定である。 しかし、魔王の街の生まれとはいえ、当事者である魔王であるわけでもない。 貴族やら幹部やらの重役でもないただの平民。 この世界に勇者さまがいるのかどうかはわからない。 しかし、勇者が正義の味方ならばこんな平民を惨殺することなどなかろう……と、ユキは大して気にしていなかった。
故に……〝自由気ままに生きよう〟 という結論に至っていたのであった。
「それでは本日はいよいよ魔法の実技訓練をおこないます」
ユキはゴクリと息を呑む。
今日は、そんな魔法のある世界において、初めて魔法を実践できる日であったのだ。
魔法は幼少期には使うことができない。 法律うんぬんではなく、本当に使うことができないのだ。 不思議なもので、12歳になると使うことができるようになる。 そして12歳になってからは今度は法律により、初めての魔法は魔法学の教官の指導の元、行うこととなっている。
その初めて魔法を使う日が今日というわけだ。
ユキはワクワクすると共に緊張していた。
これまでも座学で魔法のあれこれを学んできた。 だが、魔法を実際に使うのは本当に初めてのことだからだ。
教室から専用の魔法訓練場に移動する。
「それでは、学生番号順に並んで、一人ずつ。あの的に向かって無属性魔法の光弾を使用してください」
白髪で、おじいちゃんっぽい見た目の男が魔法学の教師だ。 教師は淡々とした様子で生徒たちに指示をする。 教師の指示に従い、一人ずつ、初めての魔法……光弾を使用していく。
「〝光よ――力となりて敵を討て 光弾〟」
「「「おぉおおおお!!」」」
最初の一人目の男子生徒が実技に入る。 構えた右の手の平からサッカーボール大の光の弾が放たれ、的に向かって飛翔する。 真ん中にというわけにはいかないが、見事に的をとらえて、的が砕け散る。
「「「おめでとう!」」」
最初の一人目ということもあり、周囲は感嘆の声をあげ、男子生徒を祝福する。 男子生徒も右腕を突き上げて喜ぶ。
その後も、一人ずつ、初めての魔法を放っていく。
光の強さやスピード、弾の大きさや的に命中するかどうかの違いはあれど、皆が初めての魔法を成功させていく。
そのため、早くも慣れが生じ始め、最初よりも拍手が適当になっていく。
そして、ついに……
「次、リバイス……ユキ・リバイス、前へ」
「はい……!」
ユキの番がやってきた。
「よし、では、実施ください」
教師は淡々と指示する。
(……ふう)
ユキは緊張した様子で、一度、息を吐く。
肩幅程度に軽く足を広げ、努めて肩の力を抜く。 右の手の平を前方に構える。
そして……
「〝光よ――力となりて敵を討て 光弾〟」
「「「……!?」」」
飽きにより、少しずつ盛り下がっていた学生たちが久し振りに注目する。
(……っっ!!)
ユキの手の平からは、何も……何も放たれなかった。
「ゆ、ユキ・リバイス……肩の力を抜いて、もう一度……」
教師はユキに再実施を促す。
「は、はい……」
(い、いや……もう抜いてるんだけどな……)
「〝光よ――力となりて敵を討て 光弾〟」
が、しかし、一回目と結果は同じ。 ユキの手の平からは、何も放たれなかった。
「ま、まぁ……そういう人もいるから……大丈夫。幸い、魔法補助具というものもある……」
教師は多少、憐れむように、ユキを慰める。
「え、ひょっとして無才?」「教科書には確かに乗ってたけど、本当にいるんだね。魔法補助具なしじゃ魔法使えない人」「止めなよ、聞こえてるよ、可哀相」
(っっっ……)
ユキは唇を噛み締める。
その間に、教師は次の生徒を呼び出す。
「次、アレイ・ハイレンス、前へ」
「はい」
(…………そんな)
「どんまいどんまい」
「っ……」
ショックから立ち尽くしてしまっていたユキの肩を、次の順番であったアレイ・ハイレンスが叩く。 立ち退こうとしたユキは、ふとアレイ・ハイレンスの顔を見てしまう。 その顔は必死に笑いをこらえているようであった。
「「「おぉお……おめでとうー!」」」
その後、アレイ・ハイレンスも初めての魔法に成功する。 ユキのように失敗した生徒は他には一人もいなかった。
◇
魔法とは……ものすごくざっくり言うと、
体内で生成される魔素を集約し、具現化。 脳内で属性や動きや作用(魔法論理と呼ばれる)を組み上げて……放つ。
というものである。
得手不得手はあれど、この世界では、万人に魔力があり、魔法を使うことができる。
だが、稀に、〝魔生成不可者〟と呼ばれる魔法の具現化が絶望的に苦手な者がいた。
魔生成不可者は、魔法補助具なしでは魔法を扱うことができないのだ。
ユキは正にその魔生成不可者であった。
魔生成不可者は先天的なものであり、表向きには差別的な発言はご法度である。 しかし、実際には〝無才〟と言われているのが現実であった。
そんな無才であることが判明し、それなりに落ち込んでいたユキであったが……
「ユキ・リバイス、ちょっと……時間、ありますか?」
その日の放課後に魔法学の教師に呼び出された。
「リバイスくん、これを……」
おじいちゃんっぽい見た目の魔法学の教師は魔法訓練場にて、ユキに棒状の物体を差し出す。
「え、えーと……これは……?」
「魔法補助具だ。魔生成不可者であった生徒には学校から支給されることになっている」
「……!」
魔生成不可者が魔法を使うことができるという魔法補助具である。
魔法補助具は木製の杖のような見た目をしていた。
木製の割に幾分、重みがある。
「……使ってみなさい」
「あ、はい……」
ユキは魔法補助具を手に持ち、その先端を的に向ける。
「魔法補助具を使う時は、〝実行〟の掛け声だけで大丈夫です」
「わかりました」
ユキは再び息を呑む。 なにせ、すでに無才であるのだが、ある意味これは最後のチャンスである。 魔法補助具を使った上で、うまくいかなかったらどうしよう……
そう思うと、緊張で口の中が乾いてくる。
だが、覚悟を決める……
「……実行」
杖の先端から青白い光の弾が連続で三発放たれる。
「でた」
(しかも、三発も!?)
「魔法補助具を使っているのだ。出てくれないと困る」
魔法補助具を使ったとはいえ、初めての魔法に目を丸くしていたユキに、おじいちゃん教師が当然である旨を告げる。
「あ、はい……」
(……!)
その直後、ユキは急激な倦怠感に襲われる。
「身体が重いだろう。いきなり光弾を三発も出せばそうなるだろう……」
おじいちゃん教師はまるでそうなることがわかっていたようだ。
「リバイスくん、その杖は君の所有物としてくれて構わない。魔法学の授業の時は忘れないようにな」
「は、はい、ありがとうございます」
それがユキと後に〝魔法具〟と呼ばれるデバイスとの出会いであった。
◇
数か月後――
「それでは今日の魔法学の授業は自由魔法の実技試験を行います」
魔法学のおじいちゃん教師がそう告げると、
「「「おぉおおお!!」」
クラスのお調子者たちが活気づく。
自由魔法の実技試験…… それは学生各々が、自由に魔法を披露し、その能力を評価する試験である。
「では、最初の者……」
「はい!」
最初の男子生徒が前に出る。そして……
「水弾!」
男子生徒の手の平からは水の弾丸が放たれ、見事に的を射ぬく。
「おぉおおおお! いきなり無詠唱か!」「しかも、なかなかの威力だ!」
最初の男子生徒の滑り出しは上々であった。
その後も次々に生徒たちが各々、思い思いの魔法を放っていく。
生徒たちが初めて魔法を使ってから三か月が経過している。 三か月もすると、多少、能力の差も出てくる。
勢いのある水流を放つものもいれば、元気のない風を放つのが精一杯の者もいる。
「それでは、次、リバイス……ユキ・リバイス」
そんな中、おじいちゃん教師にユキの名が呼ばれる。
「はい……」
ユキは緊張した面持ちで前に出る。
ユキの番になると、それまでに比べ、少し空気感が変わる。 いくらか静かになったのだ。
ユキにはそれまでの生徒と異なる点がある。 それはユキが杖……すなわち魔法補助具を携えていることだ。
ユキは魔法補助具をかざし、的へと向ける。
そして……
「実行!!」
杖の先端から青白い光の弾が連続で三発放たれる。 三つの光球は一応、的には命中した。
しかし、周囲は微妙な雰囲気になる。
憐みの目をむける者もいれば、笑いを堪える者もいる。
「また白玉三兄弟かよ」
誰かが我慢できずにそんな言葉を口にです。 すると、かろうじて堪えられて鼻笑いがいくつか解き放たれる。
「控えなさい」
おじいちゃん教師が穏やかな口調ではあるが叱責し、すぐに場は静かになる。
(わかってはいるけど……やっぱりちょっと辛い……)
魔法補助具があれば、別に直接、魔法が使えなくてもいいじゃないか。
そう思っていた時期がユキにもありました。
魔法補助具についてわかったこと…… 魔法補助具を使うと、哀しいかな……その補助具に埋め込まれているらしい〝単一の魔法〟しか使えない〟
「次、アレイ・ハイレンス、前へ」
「はい」
白玉三兄弟を放ったユキの後は、アレイ・ハイレンスの番であった。 初めて魔法実技を行った時にユキのことを嘲笑するのを必死にこらえていた人物だ。
「炎槍!」
アレイ・ハイレンスの手の平から放たれた炎は火柱となり、直進し、的を射ぬく。
「うぉおおおおお、すげぇええええ!!」「流石、アレイくん……!」「アレイくんなら、王立の高等部への入学も夢じゃないかも」
アレイ・ハイレンスの放った炎槍により、訓練場は今日一番の盛り上がりとなる。
(……すごいなぁ)
そんなアレイを見つめるユキの目にも羨望の感情はあったかもしれない。
才能というものは時に残酷なものであった。
◇
(ふむふむ……魔法補助具とは……魔法の才のない者でも魔法を扱うことができる奇跡の天然物である……か……ふむふむ……)
ユキは自室のベッドで寝っころがりながら、 学校の図書館から借りてきた魔法補助具に関する資料を読んでいた。
「へぇ~、こんな杖みたいな形しているのに、人工物じゃなくて、天然物なのか」
ユキは資料から得られた情報を抜粋したメモを改めて確認する。
●魔法補助具 ・一つの魔法補助具で一つの魔法のみが使用可能 ・魔法の才のない者でも魔法を扱うことができる奇跡の天然物 ・魔物を討伐した際のドロップなどで稀に入手できる ・神聖なものとして扱われている
「なるほどな~~……魔法補助具を使うと、あんなに馬鹿にされるけど、その実、奇跡なんて言われてるんだな。まぁ、確かに本来、魔法が使えない俺みたいな奴でも少しでも魔法が使えるようになるっていうんだから、奇跡には違いないか……」
ユキはぶつぶつと独り言を言う。
そして、ユキはふと素朴な疑問が思い浮かぶ。
(……でも、なんで魔法補助具は単一の魔法しか使えないんだろうなぁ)
「…………」
その答えはすぐにはわからなかった。
だが……
ユキは魔法補助具の杖をじーっと、見つめ、息を呑む。
(…………解体してみるか)
「いやいや、しかし、神聖なものとか言われてるみたいだし、罰当たりだったりするのだろうか……」
(……だけど……)
◇
数日後――
ごくり……
再び、ユキは自室にて、息を呑んでいた。
(…………買ってしまった)
ユキは新たな魔法補助具を実費にて、購入していた。
調べてみてわかったのだが、街の武具屋でこじんまりとだが、魔法補助具の取扱いがされていたのだ。
ユキはその中でもっとも安価であった杖型のものを購入する。
そして魔法補助具購入の目的は……
(うむ、早速、解体してみよう……!)
解体・分析であった。
◇
ユキはまず杖を削ることにした。
工具を使って、少しずつ木の素材を削っていく。
解体ができないように、なんらかの仕掛けがあるかもしれないと懸念していたが、幸い、特にそういったことはなかった。
ゆっくりと時間を掛けて削っていく。すると……
「お……?」
杖の内部から木製ではない球体の物質が出てきた。
(……なんだこれ?)
球体は表面はつるつるしており、つやつやした紫色をしていた。
(ひょっとしてこれが魔法を放出する役割を担っているのだろうか……いや、その可能性が高いよな……)
「……」
ユキは更に、球体の分解にも挑戦する。
球体はとてつもなく堅い…………わけでもなく、なんとかこじ開けることに成功する。
「どれどれ……」
球体の中には、物体が二つ格納されていた。 一つ目は球体の中央になるように格納されたこれまた球体の物体であり、比較的小型であった。 二つ目はやや大型の直方体の紙のような素材の物体であった。 また、その二つは導線のようなもので、接続されていた。
「この仕組み……」
その二つの物体を見て、ユキは直感的に前世の知識のなかから似ているものがあると感じる。
(…………コンピュータに似ている)
中央の球体と脇の紙のような素材の関係が、ちょうどコンピュータにおけるCPUとメモリ(記憶装置)の関係に似ていると感じたのであった。
コンピュータというとディスプレイ、キーボード、マウスのセットを連想するかもしれない。 しかし、前世において、実はコンピュータとはあらゆるデバイスに利用されていた。 例えば、家電であったり、あるいは玩具であったり……
それらにはマイコン(マイクロコンピュータ)と呼ばれるCPUとメモリをセットにした小さなチップが埋め込まれており、専用のプログラムが組み込まれているのだ。
「仮にそうだとして……CPUは魔法を出力するための装置だとしたら、メモリには一体、何が……?」
(……!)
ユキは魔法学で習った魔法についての基礎知識を思い出す。
魔法とは……ものすごくざっくり言うと、
体内で生成される魔素を集約し、具現化。 脳内で属性や動きや作用(魔法論理と呼ばれる)を組み上げて……放つ。
というものである。
「……〝魔法論理〟」
ユキは、メモリの中に、魔法論理が書き込まれているのではないかという仮説にいきつく。 それに気づいた瞬間、ユキは全身に鳥肌が立つのを感じた。
(……よし)
ユキは更に、メモリ(記憶装置)の解体に着手する。
……
が……
「だーめだ、さっぱり分からん!!」
ユキは両手を万歳するように上げる。 正にお手上げである。
メモリ(記憶装置)の解体自体はできた。
しかし、前世におけるメモリ(記憶装置)も解体したところで、その中に、どのような処理が刻まれているのかなんて、普通の人間には、到底、解析することはできないのだ。
「それこそパソコンが必要だよなー」
家電などに組み込まれているマイコン(マイクロコンピュータ)は、USBなどを用いて、パソコンと接続することができるものがある。 すると、パソコンの中で、マイコンの内部のメモリに記憶された処理(プログラム)を読み込むことができる。 場合によってはプログラムを編集することもできるのだ。
「でも、パソコンなんてないしなー……仮にパソコンに代わるものがあるとしたらなんだろう……」
(……見当もつかんな)
結局、そこでユキの魔法補助具の解析は息詰まってしまう。
その後、ユキは解体することは一旦、諦める。
代わりに魔法補助具を用いた魔法訓練を行うようになった。
毎日、魔法補助具を用いて、魔法を放つというものだ。 自宅の近くにちょうど人が寄り付かない洞穴があったのは幸いであった。
しかし、何度繰り返しても、魔法補助具を使用した時の魔法の速度、大きさ、威力などが強化されることはなかった。
だが、強化されることがないという事実は、魔法補助具の中の球体に魔法論理が書き込まれているという仮説をより強くさせるものでもあった。
(魔法補助具の効果がいつも一定である。それは良くも悪くも魔法論理に書かれているものを下回ることもないし、上回ることもない……ただただ、そのロジックを再現するだけなんじゃないか……)
ユキはその後も無駄であると思いつつも、何か取っ掛かりのようなものが掴めるかもしれないと魔法補助具による訓練を繰り返した。
ただ、しばらく続けていると訓練というよりは習慣となっており、毎日欠かさずに実施しないとなんだか落ち着かないようになっていた。
そうして、魔法補助具による訓練を初めて、二年ほどが過ぎたころ――
ついに変化がおとずれる。
◇
「さーて、こいつはどんな魔法が使えるのかなー」
いつもの自宅近くの洞穴にて、ユキは魔法補助具を構える。
その日、ユキは新調した魔法補助具の試し撃ちをしようとしていたのだ。
いざ魔法補助具を使おうとしたときのことであった。
(……!)
「あれ……」
なぜか使う前から、どんな魔法が放たれるのかがわかったのだ。 魔法のイメージが頭の中に流れ込んでくるような感覚だ。
「いやいや、まさかな……」
ユキはそんなまさかなと思いつつも、心臓ばくばくで、魔法補助具を使用する。
「実行!!」
(……!)
小さな水の弾が一定間隔で四発、放たれる。
「うそだろ……」
それはユキが事前に想像した通りのものであった。
だが、これだけなら偶然という可能性もある。
ユキは別の魔法補助具でも同じことを試した。
「すげぇ……」
別の魔法補助具でもユキが事前に想像した通りのものとなったのだ。
これにより、自身の感覚が再現性のあるものであると確信に到る。
しかし、ユキは同時に一つのことに気付いてしまう。
(ん……? でもこれ……何の役に立つんだ?)
そう。魔法補助具から発生させられる魔法が事前にわかったところで、何の役にも立たないことに気付いてしまう。
その日、ユキは非常に興奮した後、急激に冷めてしまうのであった。
だが、その一か月後になると、更に別の感覚を感じとれるようになってくる。
魔法補助具から数値的な情報を文字列的なイメージで感じとれるようになってきたのである。 具体的には、射出時間、射出間隔、射出角度、発射位置、大きさ、威力、属性、速度、加速度、……といった情報である。
time = 480 //射出時間
interval = 120 //射出間隔
angle = device.angle //射出角度
position = device.position //射出位置
size = 1 //大きさ
power = 1 //威力
attribute = WATER //属性
speed = 2 //速度
acceleration = 0 //加速度
(な、なんだこれ……まるでプログラミングにおける変数の初期化じゃないか……)
ユキは動揺する。
(しかも……なぜか前世の〝英語ベース〟の文字が使われてる? うぉお、なんか懐かしい)
そんな母国語でもない英語への懐かしさに浸りつつ、想起した文字列から簡単に読み取れたのは……
(大きさと威力が1、属性が水、速度が2ってことか……?)
そうして放った魔法補助具からは、一定間隔で四発の小さな水の弾がややゆっくりとした速度で放たれたのである。
大きさ、威力、速度については確かなことは言えなかったが、属性に関して言えば、完全に的中していた。
しかし、それはこの世界の魔法における根源たる魔法論理を、ユキが世界で初めて具体化できる人間となった瞬間でもあった。
【2~3話リンク】
下部にある「次の記事」で次話にいけます。
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