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バンザイ

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自伝的青春小説
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自伝的小説 『バンザイ』 第五章 everything is my guitar

自伝的小説 『バンザイ』 第五章 everything is my guitar

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 少し時間が過ぎた。
 季節はもう冬になっていた。

 僕はいつものように音を出し、働き、飯を食い、そして眠っていた。
 
 変わった点はただ一つ。あの子と連絡を取り合うようになっていたこと。下北沢でのライブ日、酔っ払いついでに連絡先を交換し、そこからずっとやり取りをしている。

 初めて彼女から来たメールは、「月が綺麗ですね」という言葉から始まっていた。深い意味はないかもしれな

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自伝的小説 『バンザイ』 第四章 天井裏から愛を込めて

自伝的小説 『バンザイ』 第四章 天井裏から愛を込めて


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 赤信号を待つ。目の前には横断歩道を渡る、複数のサラリーマン。ヘッドライトの光が足元を照らす。

 敷かれたレールからは決してはみ出さず、無理も無茶もせず、現状維持、腹八分目、省エネルギー、毎日同じことを繰り返し、貯金をし、年金を払い、老後の準備をし、ゆっくりと、のほほんと、まったりと、焦らずに生きていく。
 僕には理解できないこと。

 信号が青に切り替わる。ラーメン屋の行列を横目

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自伝的小説 『バンザイ』 第三章 ドアをノックするのは誰だ?

自伝的小説 『バンザイ』 第三章 ドアをノックするのは誰だ?

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 真夜中。外を走る。息を吐き、そして吸い込む。首筋には汗。イヤホンからはロックが流れる。最近はこのバンドばかり聴いている。ドラムが頭おかしいくらい上手いスリーピースバンド。自分の呼吸音すら聴こえなくなる。BPMに合わせて、順番に足を蹴り上げる。しばらくすると、赤信号にぶつかる。呼吸を整え、ストレッチで身体をほぐす。音楽と向き合い、自分と向き合う時間。

 走ると自分の弱さが浮き彫り

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自伝的小説 『バンザイ』 第二章 リンダリンダ

自伝的小説 『バンザイ』 第二章 リンダリンダ

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 今月のライブは二本決まっている。下北沢は一昨日終えたばかり。そして今日は蒲田だ。昔からよく出させてもらっていて、今でもお世話になっている、蒲田トップスという名のライブハウス。

 高校生の頃、初めてコピーバンドで出演したのが始まりだった。初めてのライブで僕はクボタたちと出会った。まだクボタとホシくんは、もう1人のメンバーを連れたスリーピースバンドだった。僕らは高校の友達や地元の友達が混

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自伝的小説 『バンザイ』 第一章 東京少年

自伝的小説 『バンザイ』 第一章 東京少年

  まえがき

 この物語を書くにあたって決めたことがある。
 それは、『何が何でも書き切る』ということ。
 それも、二十代のうちにだ。

 僕は現在二十九才で、あと数ヶ月で三十才になる。
 三十才になってしまったら、色んなことがやりにくくなるかもしれない。つまらない大人になってしまうかもしれない。初期衝動のようなものを出せなくなってしまうかもしれない。ドントトラストオーバーサーティ、なんて言葉も

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