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バンザイ

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自伝的青春小説
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自伝的小説 『バンザイ』 第七章 空も飛べるはず

自伝的小説 『バンザイ』 第七章 空も飛べるはず

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 東京都八王子。二十三区外にある名の知れた街。何度かライブをしに来たことはあるが、駅の外れまで歩くのは初めてだった。僕らは四人は全員ソワソワと落ち着きなく、駅からの道のりを歩いた。お兄ちゃんが加入してからは初めてのレコーディングだ。

「あー、やばい緊張してきちゃったよ」

 ホシくんが不安そうな顔で震えている。

「大丈夫だよ。今日は説明と見学だけらしいし、文化祭も明日からだし」

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自伝的小説 『バンザイ』 第六章 深夜高速

自伝的小説 『バンザイ』 第六章 深夜高速

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 大学の屋上にいる。理由はこうだ。

 僕とタマは度々会う機会に恵まれた。場所はいつもライブハウスだった。定期的に開かれる轟音祭で対バンしたり、ライブを観に来てくれたり、観に行ったり。不思議と僕らは、どこかのタイミングで二人きりになった。そしてお互いにいつも酔っぱらっていた。恥ずかしくてシラフではまともに話せなかった。

 酒の力を借りれば、ドラマチックなセリフだって平気で言えて

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自伝的小説 『バンザイ』 第五章 everything is my guitar

自伝的小説 『バンザイ』 第五章 everything is my guitar

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 少し時間が過ぎた。
 季節はもう冬になっていた。

 僕はいつものように音を出し、働き、飯を食い、そして眠っていた。
 
 変わった点はただ一つ。あの子と連絡を取り合うようになっていたこと。下北沢でのライブ日、酔っ払いついでに連絡先を交換し、そこからずっとやり取りをしている。

 初めて彼女から来たメールは、「月が綺麗ですね」という言葉から始まっていた。深い意味はないかもしれな

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自伝的小説 『バンザイ』 第三章 ドアをノックするのは誰だ?

自伝的小説 『バンザイ』 第三章 ドアをノックするのは誰だ?

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 真夜中。外を走る。息を吐き、そして吸い込む。首筋には汗。イヤホンからはロックが流れる。最近はこのバンドばかり聴いている。ドラムが頭おかしいくらい上手いスリーピースバンド。自分の呼吸音すら聴こえなくなる。BPMに合わせて、順番に足を蹴り上げる。しばらくすると、赤信号にぶつかる。呼吸を整え、ストレッチで身体をほぐす。音楽と向き合い、自分と向き合う時間。

 走ると自分の弱さが浮き彫り

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自伝的小説 『バンザイ』 第一章 東京少年

自伝的小説 『バンザイ』 第一章 東京少年

  まえがき

 この物語を書くにあたって決めたことがある。
 それは、『何が何でも書き切る』ということ。
 それも、二十代のうちにだ。

 僕は現在二十九才で、あと数ヶ月で三十才になる。
 三十才になってしまったら、色んなことがやりにくくなるかもしれない。つまらない大人になってしまうかもしれない。初期衝動のようなものを出せなくなってしまうかもしれない。ドントトラストオーバーサーティ、なんて言葉も

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