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バンザイ

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自伝的青春小説
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#日記

自伝的小説 『バンザイ』 第九章 ぼくたちの失敗

自伝的小説 『バンザイ』 第九章 ぼくたちの失敗

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 誕生日はタマと過ごした。いつものように横浜でデートをし、ホテルに行った。そういうことをする気にもならなかったけど、なんとなく流れで一度した。そのあとはずっと横になっていた。

「元気ないですね」

「そんなことないよ」

「だって、今にも死んじゃいそうな顔してる」

「そう?」

「うちと一緒にいても楽しくないですか?」

「……そんなことないって」

「じゃあ、はい。ギューってしてあ

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自伝的小説 『バンザイ』 第七章 空も飛べるはず

自伝的小説 『バンザイ』 第七章 空も飛べるはず

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 東京都八王子。二十三区外にある名の知れた街。何度かライブをしに来たことはあるが、駅の外れまで歩くのは初めてだった。僕らは四人は全員ソワソワと落ち着きなく、駅からの道のりを歩いた。お兄ちゃんが加入してからは初めてのレコーディングだ。

「あー、やばい緊張してきちゃったよ」

 ホシくんが不安そうな顔で震えている。

「大丈夫だよ。今日は説明と見学だけらしいし、文化祭も明日からだし」

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自伝的小説 『バンザイ』 第六章 深夜高速

自伝的小説 『バンザイ』 第六章 深夜高速

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 大学の屋上にいる。理由はこうだ。

 僕とタマは度々会う機会に恵まれた。場所はいつもライブハウスだった。定期的に開かれる轟音祭で対バンしたり、ライブを観に来てくれたり、観に行ったり。不思議と僕らは、どこかのタイミングで二人きりになった。そしてお互いにいつも酔っぱらっていた。恥ずかしくてシラフではまともに話せなかった。

 酒の力を借りれば、ドラマチックなセリフだって平気で言えて

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自伝的小説 『バンザイ』 第四章 天井裏から愛を込めて

自伝的小説 『バンザイ』 第四章 天井裏から愛を込めて


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 赤信号を待つ。目の前には横断歩道を渡る、複数のサラリーマン。ヘッドライトの光が足元を照らす。

 敷かれたレールからは決してはみ出さず、無理も無茶もせず、現状維持、腹八分目、省エネルギー、毎日同じことを繰り返し、貯金をし、年金を払い、老後の準備をし、ゆっくりと、のほほんと、まったりと、焦らずに生きていく。
 僕には理解できないこと。

 信号が青に切り替わる。ラーメン屋の行列を横目

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自伝的小説 『バンザイ』 第三章 ドアをノックするのは誰だ?

自伝的小説 『バンザイ』 第三章 ドアをノックするのは誰だ?

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 真夜中。外を走る。息を吐き、そして吸い込む。首筋には汗。イヤホンからはロックが流れる。最近はこのバンドばかり聴いている。ドラムが頭おかしいくらい上手いスリーピースバンド。自分の呼吸音すら聴こえなくなる。BPMに合わせて、順番に足を蹴り上げる。しばらくすると、赤信号にぶつかる。呼吸を整え、ストレッチで身体をほぐす。音楽と向き合い、自分と向き合う時間。

 走ると自分の弱さが浮き彫り

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