数学と物理が邂逅する結び目理論:その1
以前に、ある革新的な数学理論の現状について紹介しました。
IUT(宇宙際タイヒミュラー)理論と呼ばれ、数学界の大難問の1つ「abc予想」を解いたことで話題になりました。(ただし、革新的過ぎて数学界では蓋をされかかれ、それを打破する動きが上記記事の主旨)
数学や自然科学の1分野だけで見ると、高度化が進み互いの相互理解が難しくなっている話はよく伺います。(勿論危機意識もあると思います)
ただし、逆に数学の抽象的な分野の研究が偶然自然科学に幅広く応用されるということもあります。
その1つで有名な話が「結び目理論」。
結び目とは、あの日常的に使う結び目です。
なんでそんなものが数学になりえるのか? ざっくりいうと「結び目の種類だけで分類」してみようということです。結び目を構成する大きさ・色など、その他情報は一切除外して、その関係性(または位置)だけを考えます。
歴史的には、18世紀の数学者(&音楽家でもあった)アレクサンドル・ヴァンデルモンドが、騎士の巡回から創始したとされます。
その後に、数学界の巨人ガウスもこの分野に興味をもちますが、自然科学との接点を作ったのは、ウィリアム・トムソン・ケルヴィン卿(1824 - 1907)というこれまた物理分野の巨人の1人です。
この方は物理分野で多大な業績を残してますが、中学校(か高校)で習う範囲では、絶対温度の単位「K(ケルビン)」かもしれません。
余談ですが、ケルビンは厳密には俗称で、彼の研究施設の近くに流れる川から名付けられたそうです。
親しみを込めてケルヴィン卿と書きますが、当時の物理世界で最大級の謎の1つが「原子」の存在です。
今となっては想像しにくいですが、そもそも原子の存在もあいまいだったころで、ケルヴィン卿は存在するとして、その具体的な原子モデルを見出そうとしていました。
その1つが、まさに前時代の結び目理論を生かしたアイデアです。
当時は光を届ける「エーテル」という媒体がある説が優勢で、ケルヴィン卿は、
「原子はエーテルの渦が結び目状になったもの」
というアイデアを提唱しました。
つまり、結び目の分類こそが元素なのだ、ということです。
ケルヴィン卿と親交のある数学者ピーター・テイトもこの仮説に関心を持って、結び目理論の研究を推し進めます。
ところが、今となっては自明ですが、この原子モデルのアイデアは間違っていた(そもそもエーテルはなかった!)ことが100年後に実証されます。
ただ、皮肉にもその手段であった数学の結び目理論の研究は進化し、「位相幾何学(トポロジー)」という開拓地を切り拓くことになります。
そして今度はこの「トポロジー」が、また別の自然科学の舞台に再び舞い降りてきますが、一旦ここまでにしておきます。
なお、今回だけだとケルヴィン卿が過小評価されそうですが、まちがいなく自然科学界の巨人であることを念押ししておきます☺
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