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【書評】金成隆一『記者、ラストベルトに住む』--グローバリズム以後の世界

 まずは本当にアメリカの田舎に住んでしまう、というのがいい。普通アメリカについて語るときは、日本なんかの外国にいたり、あるいはニューヨークやロサンゼルスなんかの大都市に住んでいて、そこで出会った人たちの話とメディアで見た話を混ぜ合わせて語るのが定番である。
 でも実際に田舎の人々と会って喋って時間を過ごして、じゃないとわかんないことがあるよね、と考えるところでもう完全に偉人だ。
 したがって、この本には上から目線がまるでない。むしろ出会った人々に弟子入りして、彼らの思いを学んでいる。そのことは、トランプ本人は人種差別主義者かもしれないけれど、トランプの支持者はそんなことはない、と最後の部分で言い切ってるところにも現れている。
 だって、人種差別主義者がアジア人の記者と何年も付き合って、自宅に泊めてくれて、しかも今交際している相手を紹介してくれるわけないじゃないか。こんな説得力のある話があるだろうか。
 じゃあ、なんでそういう人たちがトランプを支持せざるを得ないのか、というところに議論が行くのがいい。著者が出会った人達は、日本人が抱いているいわれるアメリカ人像とは全然違う。みんな真面目で、控えめで、きちんと人の意見を聞き、その上で自分なりの意見も言ってくれる。
 そしてだんだんと彼らの現状が分かってくる。こんなにちゃんと生きているのに、彼らが住んでいる地域は道路すらボロボロだ。若者たちは薬物の大量摂取で次々死んでいる。と言うか、そう語っている白人の中年の男女も、死亡率はガンガン上がっている。原因は自殺や薬物乱用だ。
 こんなふうに国の中核部分がボロボロになっている以上、もう他国に軍事援助や経済援助をしてる場合じゃないんじゃないか。あるいはグローバリゼーションをこれ以上推し進めて、工場は外国に出て行き、安い製品はどんどん国内に入ってくる、という状態は変えるべきなんじゃないか、と彼らは言う。
 以前、エマニエル・トッドが『グローバリズム以後』(朝日新書)で語っていた状況が、めちゃくちゃリアルに展開されている。この本を読むと、グローバリゼーションの次の世界がどうなるかが見えてくる。
 それにしても、急に知らない街に乗り込んで、一人ひとりの人生に寄り添い、共に考え生きる、というのは素晴らしい。こういうのこそ文学なんじゃないか、とまで思ってしまう。良い本を書いてくださってありがとうございます。

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