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[まちあるき話]豊かな淀み

「葦原中国(あしはらのなかつくに)」は水辺に自生する葦が生い茂った中心の世界。日本神話が描いた高天原と黄泉の国の間にあるとされた、人間の住む所の表現だ。
 城北公園の北、堤防を上がると眼下の淀川には葦や夏草が生い茂るワンド群。河川敷に降り、ワンドに渡ると視点は川の中に移り、天は高く大空が広がり、目の前には生い茂った葦が足元まで続く。大阪市内とは思えない景色がここには広がる。

 古代、淀川の水路は京の都への貴重な輸送路として、日本の文明とともに発達した。 明治の初めには、蒸気船が大阪湾から京都まで通るようにと、水深を保ち川の流れをおさえるため、「水制(すいせい)」が設置された。水制とは岸から流れの中央に向って張り出されたT字型をした石積みの事。この水制に囲まれた所には土砂がたまり、上には水際を好む草木が茂り、現在のワンドができあがったという。 ワンドは淀川本流と繋がってはいるが、水の流れがほとんどないので、池などにすむ魚にはすみ易く、また水辺の植物ある所は魚の産卵や、稚魚の暮らしやすい場所となっている。ワンドの淀みは混沌としているが、豊かに生命を隠し育んでいる。

 城北ワンドには、天然記念物のイタセンパラ、アユモドキなどの魚類やエサキアメンボやメガネサナエの幼虫等、さまざまな希少な生物や植物も見られれるという。
 葦はアシと読むが「悪し」に通じる事を嫌い、逆の意味の「善し」のヨシと読み替えもする。アシ笛もあればヨシ原もある。つまりアシもヨシも同じ事だ。
 ヨシ原は水鳥の貴重な生息域となり、アオサギやコアジサシ、夏になればオオヨシキリも姿をあらわすという。しかし、外来種のブラックバスやブルーギルなどが、淀川に昔からすむ魚の数を減らしている事も事実だ。
 困った事に、ヨシ原は外来種にもすみ易い所となってる。まさに「悪し」も「善し」も同じ事。その現れ方で違いが出る。

 炎天下のお昼時、風は止まり、空気は淀む。スズメは砂を浴び、アゲハ蝶は低く飛ぶ、気の早いトンボは一匹で行動している。ワンドの背丈程もある夏草の道無き道を行進し、虫撮りの親子はヨシ原に降り立つ。そして、釣り人は外来種の反乱を、ひとり静かに鎮めていた。

月刊誌「大阪人」/2010年5月号 掲載
淀川みてあるき
イラストレーション&文⚫︎中田弘司

発行:大阪都市工学情報センター





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