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[まちあるき話]変わり目の風景

 JR環状線「福島」駅を降り、ドーナツ屋さんを曲がると「福島聖天通商店街」。この道は福島の聖天さん(如意山了徳院)への参拝道として古くより発展した。明治には大和田街道・梅田街道として、北区西天満一丁目を起点に尼崎に通じる物質流通道路でもあった。また、戦前は大阪の4大商店街の一つといわれていた。ただ、数年前の休日に歩いた時は、とても空が広く静かな商店街だった。

 けれど、今日は第4金曜日。テレビや雑誌に紹介されていた「売れても売れても占いデー」の開催日。やはり女性が多いが、年齢層もバラバラのたくさんの人達が行き交っている。学校のフェンスには占い師情報板。タロットカード、手相、四柱推命、等々いろんな占いがある。街路に並ぶ小さな机では、真剣に向かい合う、占い師さんとお客さん。

 江戸時代の易の大家の水野南北という人、聖天さんの熱心な信者だったという。幼き時より罪を重ね、牢屋に入れられた。出所後、ある易者に「おまえの寿命はあと三年」と 宣言されてからは、心を入れ換え、信心と易の研究を重ね、易相学者として大成したという。
 カードの表と裏のように、変り目がくれば、物事は大きく変化する。ただその時期と方法が判らないから、ここで立ち止まり道標を探す。西梅田やUSJ、周辺環境の大きな変化と共に、古い商店に混じって、新しくおしゃれな飲食店、墨や陶器を扱ったギャラリー、オーダーできる木彫アートのショップ、外国人バックパッカーの宿泊施設、浪曲寄席のポスターが違和感なく溶け込む。通りからは枝葉のように伸びた路地、昔ながらの生活空間。変わらない事と、変わり続ける風景の交差点もある。

 商店街を過ぎると、右の道路に大きな鳥居、福島の聖天さんだ。お参りすると、掃き清められた境内には、今年平成二十一年の歳を占うとして「世界に広がる経済危機の根は深いが、物みな究極に達すれば新たなものが始まる。先を見据える冷静な目があれば危機は、変革の好機になる。」と案内板。なるほど!当たるも八卦、当たらぬも八卦と、今年を検証したら、もう次ぎの行き先を思う。

月刊誌「大阪人」/2010年1月号掲載
福島みて歩き
イラストレーション&文⚫︎中田弘司

発行:大阪都市工学情報センター




とまあ、平成二十一年(2009年)に書いた街歩きのイラストコラムですが、その後インバウンドやコロナもあり、今はもう令和五年(2023年)。現在の福島聖天通商店街のHPを見ると、「夜市」や「だいこん祭り」などのイベントを推しているようで、占いの情報は見当たらない。危機は変革の好機。街は生き物のように、必要に合わせて変化を繰り返していますね。


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