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【シナリオ】辛いことがあるとすぐ逃げ出す女の子の話。

響「あぁ…悔しいな…。」

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響…高校2年生。『WESTミュージカルスタジオ』に通っている。何をしても”普通”で、人に勝てるところがないと思っている。努力家の姉を持つ。関西弁を話すときがあるが、全てエセである。
なずな…中学3年生。WESTミュージカルスタジオ』に通っている。天然で人がとても好き。

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7月上旬の夕暮れ時。空気は高い湿度をまとっている。
都内の繁華街を一人ぽつりと歩いている響。
そこに前から、とても陽気なオーラをまとったなずなが歩いてくる。

なずな「…?響ちゃん…?」 
響「…あれ、なずな。」
なずな「びっくり!こんなとこで会うなんて。」
響「何してたん?」
なずな「芝居観てきた!この前オーディションで一緒だった子が出てて。」
響「オーディションで、知り合いになったん?」
なずな「うん!その子の演技すっごくて、つい声掛けちゃったんだよね。」
響「相変わらず凄いなー、なずなは。」
なずな「響ちゃんは何帰り?」
響「あー、あそこ(ビルを指して)で、知り合いの個展があって。」
なずな「個展!?すごい!」
響「…ほんま、すごいよな。」
なずな「え、なになに、絵?写真?」
響「水墨画、ってやつ?」
なずな「あ、あの習字で絵描く、みたいな。」
響「そうそう。」
なずな「すごー!!え、私も今から行けるかな?」
響「なんでなずなが行くねん。」
なずな「なんか、見たことないし!しかも、響ちゃんの知り合いなんでしょ?」
響「知り合いっていうか、姉っていうか…」
なずな「響ちゃ、お姉さんいたの!?」
響「じつは。」
なずな「うひぁー、新事実ばっかりで凄い。」
響「17時までだから、まだ入れる思うよ。はい、コレ。(個展のチラシを渡す)」
なずな「(受け取って)へー!!こういう絵なんだ…。いつから描いてるの?お姉さん」
響「…小学校の時かな。」
なずな「やっぱ花咲く人は小さい頃からやってるんだよね。」
響「…せやな。」
なずな「響ちゃんはやらなかったの?お姉さんに憧れて!」
響「うちもやったよ。やってた。」
なずな「そうなんだ!」
響「うちから、はじめた。」
なずな「あ、そうだったんだ!」
響「うん。…私から。あとから、姉が。」

響、少し涙ぐむ。

なずな「響ちゃん…?」
響「あ、いや、ごめん。(目をこする)いつもそうなんだよ、なんでも、姉ちゃんの方が器用なんや。うちはほんと、いつも…あはは、あーあ。」
なずな「…はい。(ハンカチを渡す)」
響「ううん、大丈夫、おおきに。」
なずな「うん。(ハンカチをしまう)」
響「うちすぐ辞めるんや。」
なずな「ん?」
響「才能ないと、いや、才能というか、…負けると。」
なずな「…負けるかぁ。」
響「逃げたくなったら、逃げる。それで生きてきちゃったから、上達しないんや。」
なずな「…。」
響「なずなはそういう経験、ある?」
なずな「あるっていうか、それしかないよ。」
響「そうなん?なずなも?」
なずな「うん。だって、しんどいじゃん。ピアノ、水泳、あと、お琴。」
響「うそ、弾けるん?」
なずな「すぐ辞めたから、チョットだけ。(笑)
私も沢山逃げてきたよー。」
響「…でも、今逃げてないやん。」
なずな「ミュージカルは、楽しくて仕方ない。辛くても、楽しくて楽しくて仕方ないの。上手く出来なくて心がモヤモヤってしたり、ダメ出しがしんどかったりしても、それを乗り越えた先の本番のあのステージが、全部忘れさせてくれる。楽しくて…好きで仕方ないの。響ちゃんは違う?」
響「…違うわけないやろ。」
なずな「よかった。」
響「ウチもこんな最高な物に出会っちゃったから、一生続けたいって思っちゃうくらい。」
なずな「うんうん!」
響「…でも、ウチ、心弱いから、…きっとなずなより、しんどいって思うこと、多い。」
なずな「…そっか。」
響「…評価されるの、辛い。」
なずな「人に見られるの、嫌だよね。…怖くない?」
響「めーっちゃこわい。」
なずな「だよね。私も。」
響「…ほんとに?」
なずな「ほんとに!なんで疑うの。」
響「だって、なずなって意外と、メンタル強いから。」
なずな「そうかな。」
響「初めましてで演技上手い人見つけて友達になっちゃうのは相当強い。オーディションで、ライバルなのに。」
なずな「…そうか…?」
響「うん。羨ましいって思ってた。」
なずな「なのに私も意外と気にしいだったと。」
響「なんで、へこたれないん?」
なずな「へこたれてるよー?」
響「いつー?」
なずな「人知れず。響ちゃんだってそうでしょ?私そんな響ちゃん今日初めて見たよ?」
響「あはは、せやな。」
なずな「響ちゃんは、ミュージカル好き?」
響「…うん、めっちゃ好き。」
なずな「好きな気持ちに、勝ち負けはないと思うんだ。そりゃあ、技術の差とかで気になったり、オーディションに落ちて”負けた”って思うことはあるかもしれないけど。でも、好きな気持ちが続いてるなら、それが尽きない限りは続けてほしいって、私は思うよ。私はそうする。」
響「…そっか。好きって、勝ち負けないのか。」
なずな「そう。私はね、先生や演出家さんにダメ出し受けて辛いとき、そう思うようにしてるんだ。『でも私、好きな気持ちは負けてないし』って。」
響「…いい言葉やな。」
なずな「お守りにしていいよ(ドヤ)」
響「おおきに。…好きの気持ちが消えない限り、頑張り続けるのもアリかもな…。」
なずな「そうだよ。あと、それでも負けたって思った時は、私のところに来て。」
響「なんや、励ましてくれるんか?」
なずな「うん。響ちゃんのステキなところを言いまくる会を開く。響ちゃんが、響ちゃん部門1位な理由をたくさん言うの!」
響「なんや、響ちゃん部門て(笑)」
なずな「WEST(ミュージカルスタジオ名)のみんな、全員呼んで!」
響「大がかりやな。」
なずな「みんなそれぞれ響ちゃんの良い所知ってるからさ。ね?
響ちゃんは、私たちがいる限り、負けないよ。
響ちゃんは、好きをやってるだけで優勝だよ!」
響「…(笑って)ほんますごいな、なずなは。」
なずな「えっへん。」
響「ありがとう。」
なずな「ううん。」


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