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『美しい』+『狂気』 妖艶さと恐怖はいつの時代も相性抜群「ラストナイト・イン・ソーホー」【映画レビュー】

評価:★★★★☆(4/5)

2021年12月10日 公開初日
TOHOシネマズ新宿にて

ラストナイト・イン・ソーホー
Last Night in Soho

見てきました!

感想をまとめていきます。


本記事にはネタバレを含みます。






■いつの時代も『美しさ』と『恐怖』の相性は抜群

本作の主演は

●トーマシン・マッケンジー
●アニャ・テイラー=ジョイ
ダブル主演。

●トーマシン・マッケンジー

画像1

画像掲載元
https://www.pinterest.jp/kazemichimovie/thomasin-mckenzie%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%83%E3%82%B1%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%BC/


●アニャ・テイラー=ジョイ

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画像掲載元
https://psbr.hatenablog.com/entry/anyatj


この二人がスクリーンに写っているだけで
絵になります。

とにかく美人を心ゆくまで眺めることができる。


そして、
今も昔も
ホラー映画と美しさの相性は抜群です。


●人間の恐怖に対する興味関心
●人が惨殺されるという
 普段の生活では味わえない光景

こうした人間以外の動物であれば、
自分から体験したいと思わないようなことを
求めてしまうのが人間の不思議なところ。

こうした動物の本能としては
ネガティブな感情を
●あえてお金を払い、
●2時間ほどの時間を使ってまで
体験しよう!
と思うのは、
映画ファン特有の感覚ですね。


こうした
『普段は味わえないけど、ちょっと見てみたい!』
『ダメなこととわかっているけど、そういうものだからこそ見たい!』
というのが
ホラー映画を人気にする
人々の興味関心なのでしょう。


そして、
そうした『恐怖』に対する感情と
『妖艶さ』や『美しさ』というものの相性は
いつの時代も抜群です。


みなさんもホラー映画のイメージとして
『イチャイチャしてるカップルはすぐ殺される』
『ホラー映画って無駄にエロいシーン多め』
なんてことを思ったりしないでしょうか???


実際、
ホラー映画にはなぜかエロいシーンがやけに多いです。



これは持論ですが、


ホラー映画という
人が殺されるシーンが存在する
『見てはイケないものを見ている』
という背徳感




アダルトコンテンツに見られる
『恥ずかしさに興奮する』
という人間の背徳的な興奮


が似ているからだと思います。


この
『本当はダメだけど…
 そう言われると見たくなっちゃう…!』
といった反抗的、反骨的感情が
ホラー映画を面白くしているのでしょう。


■『心理的リアクタンス』がホラー映画をおもしろくする

行動を否定されるほど
その行動への興味関心や固執が強くなるというのは
人の心理の不思議なところ。


こうした心的抑制による行動抑制の逆効果を
社会心理学では
●『心理的リアクタンス』
といいます。


こうした人間の深層心理を
映画の作り手はよく理解しているのでしょう。


ホラー映画は
こうした『ダメだけど見たい!』という
禁止されることへの反発心を
満たしてくれるコンテンツですね。


■カメラ移動と恐怖映像の融合


本作の監督は、
ベイビー・ドライバーなどで知られる
●エドガー・ライト

画像3

画像掲載元
https://eiga.com/person/20049/


彼がこれまで撮ってきた代表作として
『ベイビー・ドライバー』2017年
『アントマン』2015年
などがあります。


こうした作品は
カメラの向け先が変わるような
視点移動を多用していると同時に

登場人物の心境が段々と移り変わっていく様
を描写しています。


本作においても
・『エリーが移動すると同時に
  段々とアンディに変わっていく様子と
  エリーの気分の高揚』
・『アンディが店の舞台裏を逃げ惑うことで
  男性社会の闇を知る』
・『エリー幽霊たちに追われ、
  町中を走り回ることで
  心理的にも逃げ場を失う』
などなど、

スピーディなカメラワークと
登場人物の表情の変化が
うまく組合わされています。

こうした映像を撮れるのは
エドガーの才能ですね。

すばらしい映像体験。


■恐怖の対象の『対比』

本作では、
アンディを苦しめた
『性欲に溺れる男性』
が恐怖の対象として現れます。

最初、
彼らは夢の中でしか見ることができなかったにも関わらず、
日を追うことに日常生活の中にも幻影として現れるようになります。



 ●恐怖の対象=白人男性

本作に登場するそうした男性の亡霊は
すべて白人です。

1960年代のロンドンが舞台の本作。

時代背景的にも
白人至上主義が根強くある時代です。


したがって、
アンディが生きている過去の記憶映像に出てくる登場人物は
男女関係なく白人ばかり。


その登場人物達の中で、
甘い言葉ばかりを言って
アンディに迫る男性はもちろんみな白人。

アンディを殺した犯人ジャックを
マット・スミスが演じています。


画像4

画像掲載元
https://www.cinematoday.jp/news/N0103215



花が高く、
眉と目の距離が近い。
わかりやすい白人イケメンといった感じでしょう。




 ●守ってくれる存在=黒人男性

一方、ファッションの専門学校で
エリーに想いを寄せる同期の男性、ジョンを
マイケル・アジャオが演じています。

画像5

画像掲載元
https://www.imdb.com/name/nm3915767/


エリーを追い詰める男性は白人。

それとは反対に

エリーを守ってくれる男性は黒人。


この対比が
善悪をわかりやすく直感的に理解させるものだと感じます。


また、
時代の変化によって
白人女性の近くにいる男性の人種は
『白人だけではない』
という現在の様子も描写できていると感じます。


この同じ男性というカテゴリーの中で
○『自分を追い詰めるヴィラン=白人』と
●「自分を守ってくれるヒーロー=黒人』を
わかりやすく分けて映し出すのが
本作のおもしろいところです。


■最後の展開は『恐怖』であり、『切ない』


エリーが悪夢から逃げ惑う中、
最終的には、
田舎に帰る決断をします。


田舎に帰るため、
部屋の大家であるミス・コリンズの元を訪ねます。


ミス・コリンズを演じるのは
ダイアナ・リグ。

本作の撮影終了後、
2020年9月に天国に旅立ちました。

過去の出演作品として
『女王陛下の007』1969年
などがあります。

ボンド・ガールも演じた名優です。

画像6

画像掲載元
https://www.crank-in.net/news/80731/1


ミス・コリンズは
『私こそがアンディである』
ということをエリーに打ち明け、


エリーとジョンを殺そうと
ナイフを持って追ってきます。


そして、
エリーを苦しめていた男性の亡霊たちは
実は過去に『アンディに殺された男性』
であり、

彼らがエリーの前に現れたのは
『エリーに助けを求めていた』
という
観客の予想とは真逆の展開になります。


今まで怯えていた存在は
実は自分の敵ではなく
助けを求めていた。

一方で、
自分が信頼していた人物が
諸悪の根源だった。


という展開が
本作の中でうまく描かれている恐怖描写です。


そして、
エリーとミス・コリンズの揉み合いにありますが


ひょんなことから発生した火事によって
それどころではなくなります。


最後の最後で
火事の中で消えゆくことを決めたミス・コリンズは
燃え盛る炎の中に消えていくのでした。


映画のクライマックス、
見事デザイナーとしてのデビューを果たすエリー。

『彼女が見つめる鏡の中には、
 キレイなドレスを着たアンディの姿があった。』

このラストシーンが

●エリーの夢がかなった高揚感



●最後の最後にはエリーを殺さず活かす決断をした
 アンディの表情

が相まって
なんとも言えない切なさを感じました。


たっぷりとした恐怖体験の後、
どことなく切なさも感じさせるラスト。


このクライマックスシーンに
この映画で表現したいことのすべてが
詰まっている気がしました。


●まとめ『過去への自省を感じる』


●映像と音を匠に使った恐怖描写
●対比的に描かれる恐怖と安心の対象
●新しい環境に高揚した人が犯す過ち
●美しさを伴うホラー特有の背徳感
●時代に翻弄された一人の女性の最期


これだけの要素を
1960年代の音楽とともにたっぷりと味わうことができます。


中だるみなんてない
とてもスピーディな展開。


終始鳴り止まない音楽と
次々に表現される恐怖。


すべての人が感じたことがある
幼さ故の過ち。


こうしたなんとも言えない感情が
一気に連想されるのが
本作のよいところです。


年末年始のタイミングで
見てはいかがでしょうか?


という感想を書き終えて
筆を擱きます。


最期までお読みいただき
ありがとうございました。

ではまた:D


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