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『詩』僕がステアリングを握るとき

僕がステアリングを握るとき
世界が僕をすり抜けてゆく
朝焼けの空はくれないから白へ 白から藍白あいじろ
ビルの窓ごとに 煌めく天使を抱えながら
ストリートは雑踏となり
ショーウィンドウは舞台となり


ときおり風 ときおり歌 ときおり笑顔
そして


ときおり涙


並木道はプラタナス
並木道はハナミズキ
銀杏いちょうが色づくにはまだ早い


つば広の帽子に海色ワンピース リュックの少女は
おどけたクラウンの差し出す薔薇の花を
知らぬふりして行きすぎる


飲みかけのサイダーは歓声のいろ
カーラジオの奥の競技場で
失望と歓喜がこだまして沈黙する 祈りのように


ときおり風 ときおり歌


スーパーの店先 赤と黄色のパプリカの陰で
日差しが午睡シェスタに入ろうとしている だから
誰も皆 慌ててUVジェルのキャップをひねる


黒々と影はみじかい


スクランブルを緑の風船がゆき
高架橋と運河の交差で別れが捨てられる
市長の演説原稿が風にあおられ
運河沿いの マンションの10階のベランダから
陽気なボサノヴァが4ビートで降ってくる

 

(でも僕らはこんなことも知っている
 どこか 遠い国の空の高みで
 稲妻に似た光が飛び交っていることを)


気がつけば 木陰の美しい公園の入り口で
トム・ハンクスに似た警備員が演説原稿を拾い集め
キッチンカーのメロンアイスはちぎれ雲になり
野外音楽堂のベンチでは
金色きんいろの夕日に照らされて ひっそりと
ボタンアコーディオンが黙りこむ


灯りはじめた街灯は海へとつづき
誘われて もう少し進んでゆくと 忘却が
白いカモメの顔で舞い上がるだろう
暮れ残る空の一角に


そして風 ずっと風
やがて波の音




ふと思い立って作ってみました。
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