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『詩』シーサイドホテルの青いテラスで

シーサイドホテルの青いテラスで
夕日のようなカシスオレンジに手もつけず
僕は手紙を書いている
午前の 明るい日差しに
海面は小人の群れのように白くかがやき
二人乗りの水上バイクが
小人の群れに割って入る



おまえがどこにいるのか誰も知らない
インクが朝焼けの色なので たぶん
カシスオレンジをこぼすと読めなくなってしまう
それで
気恥ずかしさが残っているうちに
僕はわざとのようにグラスを倒す


テーブルに広がる水たまりは世界地図だ
色が濃いところは戦争のしるし
僕はスタッフに声をかけて
こぼれたカシスオレンジを拭き取ってもらう
遠く離れたこの国では
戦争はきっとそんなものだ


海がこんなにも懐かしいので
スマホはきっと似合わない でも
手紙はもっとよせばよかった
僕の心のようにそれは狭すぎる


水平線という<線>はない
まやかしの区切りは
誰の気持ちの中にもあるけれど


おまえはどこにいるのだろうか
僕はもう
スマホを開いたほうがよくはないか?
本気で届けるつもりならば・・・


「太平洋高気圧が・・・」と
カシスオレンジから避難をした
ラジオが僕に語りかける
それだってまやかしなんだ
空と 雲と お日様と・・・
言いかけて僕は不安になる
何一つ誰にも掴めやしない!


海風が
ガーデンパラソルを揺らして過ぎる
もう手紙はあきらめて 足を組んで
僕はもう少しここにいよう
シーサイドホテルの青いテラスで
あるはずのない水平線を眺めていよう
正午を過ぎたら
おまえの影も 戦争も
まやかしになりはしないだろうか?




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