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『詩』カサブランカの咲き乱れる真っ白な丘で

カサブランカの咲き乱れる真っ白な丘で
自転車が錆びている
ずっと下の方、山間やまあいの谷に小さな町が見え
町の真ん中に一筋の川が見え
谷の終わるそのずっと先まで
川はうねりながら伸びている


遠い日
外の世界では戦争があった
広い世界のあちこちで 訳もなく
たくさんの人が死んでいった


夏の暑いひでりの中 少年たちは
とうもろこし畑でかくれんぼをやっていた
上空を爆撃機が越えていった
空を仰ぐと
連なる山々の上に入道雲が果てしなく大きくて
爆撃機が去ったあと
負けじと蝉の声がうるさかった


なぜ自転車がそこにあるのか誰も知らない
いつからあるのかも たぶん誰も知らない
自転車を鎮魂するように
丘一面にカサブランカが群れ咲いて
ああ
辺りはこんなにも静かだ
鉛筆がことりと倒れるように
両手をじっと見つめるように
やがて朽ちてゆく
自転車の周りは一段と静かだ




今回、少し戦争を意識してみました。
長野県出身だった父は戦争中は小学校の高学年くらいで、田舎のことなので悲惨な話もなく、爆撃機を下から見送っていたと聞いていました。
戦争についていろいろおもうところはあるけれど、あまり強く出したくはないので、といって今月全くスルーするのもな・・・というところで、こんな詩になりました。




今回もお読みいただきありがとうございます。
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