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セッション定番曲その78:The Sky Is Crying

ブルースセッションでの定番曲、せつないスローブルースです。今夜も世界中のブルースバーで演奏され、歌われているはず。様々な人がカバーしていますが、どんな曲なのでしょうか。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:「空が泣いている」からの連想(その1)

「空が泣いている=大雨が降っている」→「自分も泣いているけど、雨に紛れて他人には見えない(であって欲しい)」

このパターンの歌詞は世界中にあって、The Everly Brothersの「Crying in the Rain」などもそのパターン。
Crying in the Rain

You won't know the rain from the tears in my eyes
I'll do my cryin' in the rain

ポイント2:「空が泣いている」からの連想(その2)

ブルースには「大雨」「堤防の決壊」「洪水」などの水害についての歌が沢山あります。昔の(今でも?)米国南部での治水が重大な問題だったことが分かりますね。農場が大打撃を受けるし、貧しい土地ってだいたい川沿いや低地にあることが多いですからね。

Memphis Minnie & Kansas Joe
When The Levee Breaks

Led Zeppelin
When the Levee Breaks

If it keeps on raining, levee's going to break
When the levee breaks, have no place to stay

Big Bill Broonzy
Big Bill Broonzy - Southern Flood Blues

Larry Davis
Texas Flood

Stevie Ray Vaughan & Double Trouble
Texas Flood

Well, it's floodin' down in Texas
All of the telephone lines are down

Sippie Wallace, Louis Armstrong、1927年録音
The Flood Blues

Lonnie Johnson、1947年録音
Falling Rain Blues

Storm is risin' baby, rain begin to fall.
I'm all alone by myself, no one to love me at all.

ポイント3:Elmore Jamesというブルースの神

ロックミュージシャン達に直接影響を与えたブルースマンとしては「3大キング」やMuddy Waters, Howlin' Wolf, Buddy Guyなどが有名ですが彼らが、英国でブルースブーム~ブルースロックが全盛を迎えた時期には、バリバリ現役だったのに対して、Elmore Jamesは1963年に45歳の若さで急死(心臓病)してしまうので、少し微妙な存在です。1950年代からレコーディングを始めたので、実質活動期間は10年ちょっと。もちろんスライドギターを武器にしたJeremy Spencer(初期Fleetwood Mac)などはエルモアに夢中でしたが。

そして1960年代のブルースロック全盛期を過ぎて、本気でまたブルースに取り組むミュージシャン達が増えてきた時期に「再発見」されたのではないかと思います。尚、Duane AllmannのスライドギターはJesse Ed Davis経由だった様子。

Robert Johnsonから受け継いだ「Dust My Broom」っぽい曲も多くあり、ワンパターンと陰口を叩かれることもありますが、強烈な個性で一時代を築いた人。

Elmore Jamesが録音した有名な曲だけでも「Dust My Broom」「It Hurts Me Too」「Shake Your Moneymaker」「One Way Out」「Look on Yonder Wall」「Done Somebody Wrong」などがあり、この辺はどれが誰のオリジナルかなど議論してもあまり意味が無いのが、当時の当事者の意識だったと思います。

そんな中でこの「The Sky Is Crying」はエルモアのオリジナル曲と呼べる傑作です。
The Sky Is Crying (song) - Wikipedia

ポイント4:歌詞のポイント、発音のポイント

The sky is crying

冒頭のこのフレーズにどれだけ感情をのせられるかが大事ですね。
実際の光景でもあり、心象風景でもあります。空は灰色、雨粒は大きく、降り止む気配はないでしょう。主人公は傘などささずに雨の中に立っているのかもしれません。心の中で泣いているのか、それとも実際に涙を流しているのか。たぶん温かい雨ではなく、冷たい雨。

「crying」
よく歌詞に出てくる言葉ですが、意外と発音が難しいです。
「R」音はちゃんと出しましょう。「cry+ing」なので「i」音が重なりますが、ここの発音は人によって違っていて、「i」音ひとつにしてしまう人と「i」を少し伸ばしてニュアンスを出す人がおいると思います。後者を試してみましょう。

Can't you see the tears roll down the street?

この一文は畳み掛けるように一息で発音してしまうのがよさそうです。
歌いかける相手への問いかけ/詰問というイメージ、あるいは「反語」で「見えないかい?そんな訳ないよね」と。

*ブルースの歌詞の定形で、最初の2文を繰り返して「状況や問題の提起」を行って、最後の1文で「(仮の)結論/オチ」を歌います。この一番の歌詞だと
I've been looking for my baby
And I wonder where can she be
がそれにあたります。

なので「自問自答」を常に行なっていることを理解して歌いましょう。

ブルース曲の歌唱や演奏が平板っぽくなりがちな人は、この構造を理解出来ていない可能性があります。構造を理解した上で歌詞を読み込むと「ああ、そういうことね」と腑に落ちるのではないかと思います。

It made my poor heart skip a beat

「(びっくりして、あるいは悲しくて)心臓のビートが乱れちゃったよ」
シンプルな単語の組合わせですが、面白い表現ですね。生活のあらゆる場面でリズムやビートを感じながら生きているブルースマン/黒人ならでは表現かもしれません。

ポイント6:様々なバリュエーション

Elmore James、1959年録音?
原点にして頂点。声の張り、擦れるスライド、


Eric Clapton、1975年録音
カムバック後、オリジナル曲がなかなか書けずに行き詰っていた時期だと思いますが、味わいのある演奏です。


Albert King、1969年録音
らしい粘っこいチョーキングを連発。


Stevie Ray Vaughan & Double Trouble、1985年録音
SRVの饒舌なギターが炸裂しています。


Gary B.B. Coleman
2億回再生ってマヂ?


Gary Moore、1993年録音
歌もギター演奏も絶頂期。この曲ってやはり演奏する人が歌うのが一番いいんだろうなと思わせられます。


Etta James、2004年録音
敢えて少し感情を抑えたような歌唱。


George Thorogood & The Destroyers、1978年録音
こいつは信じていい。


The Allman Brothers Band、2014年録音


Jeremy Spencer, Bill Wyman


■歌詞

The sky is crying
Can't you see the tears roll down the street?
The sky is crying
Can't you see the tears roll down the street?
I've been looking for my baby
And I wonder where can she be

I saw my baby early one morning
She was walking on down the street
I saw my baby early one morning
She was walking on down the street
You know it hurt me so bad, y'all
It made my poor heart skip a beat

I've got a bad feeling
My baby don't love me no more
I've got a real bad feeling
My baby don't love me no more
Yeah, the sky's crying, yeah
Can't you see the tears roll down the road


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