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セッション定番曲その84:Day By Day

ジャズセッション定番曲。綺麗で分かりやすいメロディで、みんなに好まれます。バラードでもスイングでもボサノバでも。歌入りのイメージが強いですが、インストでも。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:求愛の歌

相手に対して「私はこんなに貴方のことを思っていますよ!その思いは募る一方です!」と訴えかける歌。それを重い気持ちとして歌うか、晴れやかな気持ちとして歌うか。表現の仕方に工夫が出来るのが人気の秘密かもしれません。

バラードなら「私の気持ちは届いていますか?」と切々と。
スイングなら「明るく告白しちゃうかな」と気持ち良く。
ボサノバなら「貴方の気持ちはともかく、私はこんなに幸せ」と幸せな気持ちを振り撒いて。

ポイント2:大抵の曲はFrank Sinatraが歌っている

長いキャリアの中でFrank Sinatraはとんでもない量のレコーディングとライブをこなしていました。彼のオリジナル曲もスタンダード曲もポップス曲も。なので、ジャズスタンダードの歌入りバージョンを探すと多くの場合、彼が歌っています。ロック世代からすると、マフィアと繋がりのある鬱陶しい老害に見えていましたが、時間が経ってみると、なかなかエラい人でした。

彼は技巧派ではなく、ジャズシンガーというよりもポピュラーシンガーという感じで、ジャズボーカルのファンからすると軽く見られがちですが、歌詞の解釈とか歌唱の安定感とか、評価してあげたいですね。

この曲もビッグバンドをバックに、スケールの大きい歌唱です。メロディを崩すというよりも、歌詞の内容に沿って部分的に語り口調にしたり、テクニックよりも感情表現を優先していますね。こういうミドルテンポのスイングで歌わせると流石です。


ポイント3:女性ボーカルで迷ったらCarmen McRaeを参考(ゴール)に

スタンダード曲なので沢山の人が歌っていますが、Carmen McRaeの歌唱はとんでもなくいいです。自分が歌おうと思った時の目標(当面の、ではなく「ゴール(到達点)」として)にするのも悪くないんじゃないかと思います。スイング感、歌詞の表現力、声のコントロール、メロディのフェイク、自由自在という感じで、楽しそうです。バンドも完全に彼女がコントロールしています。歌わされているじゃなくて、演奏させている、支配している。

こんな風に歌えたら楽しいし、演奏者も聴衆も楽しいでしょうね。

Carmen McRae


ポイント4:Sarah Vaughanはバラードで歌っています

バラードになると歌の表情がぐっと切なくなりますね。
実は私はこの人のビブラートの掛け方がちょっと苦手なのですが、これもお手本にはなりますね。

ちょうど難しいテンポでの歌唱。もう少し遅ければ隙間を使えるし、もう少し速ければ勢いで乗り切れるけど、これはちゃんと歌詞を伝えることを意識しなければ歌えない微妙なテンポですね。

Sarah Vaughan


ポイント5:ボサノバといえばAstrud Gilbertoなのだが・・・

歌としてのボサノバを米国に最初に伝えたのは彼女で間違いないんですが、これをお手本にすると勘違いしてしまいますね。個性的というか「ヘタウマ」というか、とにかく唯一無二のスタイルで「これがボサノバだ」ということになっちゃったので・・・

声量が無くて声域も狭い人が、そのまま「ああ、こういう風に歌えばいいんだ」と勇気をもらって、そのままで真似をしようとするケースが多かったのかもしれませんね。声量も声域も改善出来るのに。

Astrud Gilberto

スタンダード曲をボサノバ・スタイルで歌う時に(本当は)必要な「リズムの躍動感」とか「歌詞の意味の表現」とかが残念ながら彼女の歌唱にはあまり感じられません。英語が母国語ではないというのもあるかもしれませんが。

もっと新しい世代の歌手がボサノバ・スタイルで歌っているのを聴くと、参考になると思います。

Eliane Elias(2008年発表)
バラードで始まり、途中からボサノバになります。
彼女自身ピアニストでもあるので、リズムの躍動感は素晴らしいですね。


ポイント6:歌詞と発音のポイント

すごく短い歌詞なので、一気に覚えてしまいましょう。

Day by day
「毎日毎日」「日増しに」という意味です。この歌詞の中では後者のニュアンスですね。「段々と気持ちが高まっている」と。

I'm falling more in love with you
more」の使い方が面白いですね。歌メロ的にもここにポイントが来ています。
「with you」はありきたりの表現ですが、発音的に「w」をちゃんと意識、「th(ð)」と「you」の繋がりをスムースに、などを練習しましょう。

There isn't any end to my devotion
It's deeper, dear, by far, Than any ocean
devotion」は「献身的な愛情」、つまり「自分のすべてを捧げる」という感情です。ちょっと怖いですね。それが「どんな海よりも深く」と・・・
「dɪˈvoʊ.ʃən」と発音が難しいので、よく聞いて練習しましょう。「vo」にアクセントがあります。

I find that day by day, You're making all my dreams come true
「dreams come true」はひとかたりで発音出来るようにしましょう。「dreams」と「come」が続くところが意外と難しいです。日本語の「ドリームズ・カム・トゥルー」は全部の子音の後に母音が入るので、その癖が付いていると、英語に聞こえませ。

I'm yours alone, And I'm in love to this day
「to this day」は「この日(今日)までずっと」という意味。
「私の気持ちに揺るぎはありません」と。

As we go through the years, Day by day
どのくらいの期間「私はこんなに貴方のことを思っている」のかというと「何年も間ずっと」「「日増しに」だと。
おそらく相思相愛な仲なんだと思いますが、それでも「「私は貴方のことを思い続けています」と伝えたい、そんな気持ち。

意外と重い内容ですね。

ポイント7:もっと様々なバージョンを聴いてみましょう。

Jimmy Scott
いきなり異色の重いバラード。
か細い声で、語りかけるように歌っています。
まさに「私の気持ちは届いていますか?」という感じですね。


Cyrille Aimée(2018年発表)
気持ちいいテンポのスイングに乗って、コケティッシュな声でテーマを歌った後、技巧的なスキャットが続きます。

こんなマニアックな動画もあります。


Ben Paterson
(2020年発表)
ピアノを弾きながら、軽い調子で歌っています。
「明るく告白しちゃうかな」の体現。


Ella Fitzgerald
(1977年発表)
早いテンポの4ビートにのって、自由自在に縦横無尽に歌っています。
すごく短いんですが、ジャズのエッセンスが詰まっていますね。


Doris Day(1956年発表)
エラとは対照的な、歌メロを丁寧に歌ったDoris Day。
歌いかける相手に対する仄かな愛情が伝わってきますね。古き良きアメリカ。


Sonny Stitt

テーマを丁寧に吹いたインスト版。


The Oscar Peterson Trio · Herb Ellis

なんだがプログレみたいな箇所がありますね。


◾️歌詞


Day by day, I'm falling more in love with you
And day by day, My love seems to grow

There isn't any end to my devotion
It's deeper, dear, by far, Than any ocean

I find that day by day, You're making all my dreams come true
So come what may, I want you to know

I'm yours alone, And I'm in love to this day
As we go through the years, Day by day

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