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セッション定番曲その54:You'd Be So Nice To Come Home To by Helen Merrill, etc.

ジャズセッションでの定番曲。女性が歌うと雰囲気が出ますね。どんな内容の曲なのでしょうか。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:帰ってくるのは誰?

この曲の邦題は有名な誤訳として知られていますね。付けたのはジャズ評論家時代の大橋巨泉らしいのですが、本人も後に訂正しているように、完全に関係性を取り違えています。

It would be so nice to come home to you (for me)
が文意としては正しいのだと思います。
つまり「帰ってくる」のは私、「家で待っている」のはあなた
ここを理解して感情移入して歌う必要がありますね。

この話はライブ時のMC等でコスられ続けているので、話題としては微妙ですが。

何で昔は洋楽に無理矢理に邦題を付けたんでしょうね。他にも怪しいものは沢山ありますね。

ポイント2:何故そんなに帰りたいのか?

発表されたのは1942年、映画の挿入歌でした。
時代は第二次世界大戦の真っ只中。「帰りたい!」「帰ってきて欲しい!」と思う人が米国中に沢山いた訳です。そんな世情の中で「家に帰って愛する人と会って、気持ちの良い時間を過ごせたらなあ」というこの曲が刺さった訳ですね。

戦争と関係無くても、様々な事情から家から家族から離れて暮らしている人、旅を続けている人はいつの時代にも大勢いる訳で、そういう共通の郷愁の気持ちを歌った歌詞ですね。

ポイント3:コール・ポーター先生

1930年代から1960年代初頭まで、映画やミュージカルの作詞作曲を手掛け、ジャズのスタンダードになる名曲を沢山生み出したエライ人です。分業になることも多い業界の中で作詞作曲をひとりで行ったのが特徴で、巧みに比喩を使いながらストレートに「愛」を歌った曲が多いですね。ジャズを歌う人なら足を向けて寝られません。

すごく覚えやすい、歌いやすいメロディが特徴で、バラードもスインギーな曲も変に凝ったメロディや構成を避け、親しみやすくロマンティックなものが多いです。そんなメロディに合わせて書かれた歌詞がのると、最高の組合わせに。俗な言い方をすると「酒場で奏で歌われやすい曲」が多いのだと思います。スタンダード化しているものは「Night and Day」「All of You」「I've Got You Under My Skin」「What Is This Thing Called Love?」「Love for Sale」「Anything Goes」「I Concentrate on You」「I Love You」「Ev'ry Time We Say Goodbye」などなど。「ジャズスタンダードバイブル」を開くとコール・ポーターがいる、という感じですね。

List of songs written by Cole Porter - Wikipedia


顔写真を見ても分かるように先生はゲイで、当時にしては珍しくカミングアウトしていて、女性と結婚もしていました。ウキウキする感じの曲調が多いのはそういうところと長い間パリで暮らしていたという経歴も関係しているのかもしれません。
Cole Porter - Wikipedia

ポイント4:ヴァース(Verse)があります

ほとんど歌われることはありませんが、この曲にもヴァース(前説)があります。だから歌自体がこんなに短いのです。

It's not that you're fairer
Than a lot of girls just as pleasin'
That I doff my hat
As a worshipper at your shrine

It's not that you're rarer
Than asparagus out of season
No, my darling, this is the reason
Why you've got to be mine

う~ん、どうかな。あまり説得力のある詩でもないかもしれませんね。「季節外れのアスパラガス」って何だよ。
だからあまり歌われないのではないかと。

ポイント5:Helen Merrill

日本でもこの曲は「ニューヨークのため息」ヘレン・メリルの歌唱が人気でしたね。確かにスムースな声というよりは少しハスキーなオトナな歌声。ジャズボーカルってこういのでいいんだと勘違いした声量の無い歌手が、沢山ジャズを歌い出すキッカケにもなった罪作りな人です(毒)。

1960年代には日本に住んでいたこともあり、数多く来日公演も行っています。息子さんもミュージシャンでしたね。

下記はClifford Brownが参加した有名な録音。せっかくだからブラウニーのソロをもっと聴きたい感じではありますが。

You'd Be So Nice To Come Home To

ポイント6:発音のポイント

You'd be so nice to come home to
'd」の箇所は敢えて強調して歌う人と、音を飲み込んでしまって歌う人とがいます。どちらもアリだと思いますが、後者の方がメロディにはスムースにのるかもしれません。

While that breeze on night sings a lullaby
「breeze」と「lullaby」は発音がちょっと難しい単語。後者は特に「L」音が続けて出てくるので練習しましょう。

Under an August moon shining above
「August」をちゃんと言えていない人が意外と多い印象です。「ɔːgʌ'st」なので、最初の音は喉を開けた感じの「オー」。「s」と「t」の間に母音はありません。

ポイント7:色々な歌唱、演奏

シンプルな曲なのでアレンジしがいがあって、色々な人が歌っています。

エラの声量豊かな歌唱、技巧的でもあります。
You'd Be So Nice To Come Home To

Nina Simoneは彼女らしいねっとりとした歌唱、黒人霊歌のような異色のアレンジで、演奏部分が長いですね。
Nina Simone - You'd Be So Nice To Come Home To

まさかの青江三奈。コブシ回っていますね。
青江三奈  You'd Be So Nice To Come Home To

Cyrille Aiméeによる最近の歌唱、スキャットしまくっています。
Emmet Cohen w/ Cyrille Aimée & Wayne Tucker | You'd Be So Nice To Come Home To

これが一番初期の歌唱みたいです。Dinah Shoreは古いタイプのジャズ歌手でアドリブをするような人ではありませんが、こういう演奏との相性抜群です。
You'd Be so Nice to Come Home To

インストではこれが好きです。
Art Pepper - You'd Be So Nice To Come Home To

ベースが主役のこんな演奏もあります。
You'd Be So Nice To Come Home To

Chet Bakerが歌い、吹いたもの。かなり皺くちゃになってからのものですが、不思議な色気がありますね。
CHET BAKER - You'd Be So Nice To Come Home To

■歌詞


You'd be so nice to come home to
You'd be so nice by the fire

While that breeze on night sings a lullaby
You'd be all my heart could desire

Under stars chilled by the winter
Under an August moon shining above

You'd be so nice you'd be paradise
To come home to and love

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