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クリニックの帰り道に地下街で理想のワンピを見つけて人生に泣けてきた話 〜とある休職中のオタクの想いごと〜

 スーパーやコンビニ以外の久しぶりの外出はクリニックだった。

 身だしなみをそれなりに整えて、地下鉄に揺られてクリニックへ。睡眠導入剤を服用するようになって入眠しやすくなったこと、だけど三時間ほどで目が覚めてしまうこと、食事をしても吐いてしまう日が続いていること、気分が落ち込み起き上がれない日があることを伝えた。

 心身を壊した原因が明らかなので、担当医からは退職すれば症状は回復していくだろうということを今日も言われる。私の意思も退職の方向で固まったので、今後に不安はありまくりだが、それでも復職してまた体調を崩すかもしれない可能性がある場所へ戻ることは避けたかったし、信頼していた人物から宗教勧誘されたことに思いの外ダメージを受けている自分がいて、それが症状を悪化させた原因のひとつであること、復職したらまた同じ悩みが付き纏うことを考えた時に、退職するしかないと腹が決まった。

 上司は私のことを気にかけてくれ、お世話になった人物ではあるのだが、日常の何気ない会話の中にも信仰している宗教の教えを挟み、乗り気でない態度や断りを入れても休日に集会場所に誘ってきた。そんな相手を上手くかわしながら働き続ける自信が今の私にはなかった。

 それに、自分をコントロールされそうな違和感がずっと拭えず、気になってマインドコントロールについて調べてみたら、当てはまるものがいくつもあってぞっとした。特に二元論の話には鳥肌が立った。白か黒以外にもいろんな選択肢があるはずなのに、どちらかを選ばなければならないという状況を経験した。私のことを本当に思ってのことだったのか、それとも故意にされたのかはわからないが、当て嵌まること自体がちょっと怖すぎた……

 これは参考にまで書くのだが、二元論の放棄と自己の客観視、そして第三者の意見を聞くこと。それがマインドコントロールされないために、もしくはそこから抜け出すために大切なのだそうだ。コントロールをしてくる相手は、ターゲットの自由意志を嫌うとあった。会話の中で自分の意思を伝えた時に、それを頭から否定したり、明らかに不機嫌になったり、話をそもそも取り合わなかったりする人には注意した方がいいかもしれない。私もこれから気をつけようと思う。

 実は、休職するにあたってこれまでの経緯や現在の状況を友人に話したところ、こう指摘されたことがある。

 それぞれ別々にやり取りをしている友人たちから、「原因がわかってるから会社から離れた方がいい」「仕事は他にもたくさんあるよ」「復職しても根本が変わらない限り、また同じことを繰り返すんじゃない?」などと言われ、私はそこでダメージを受けた。メンタルが弱ってる時にこのようなことを言われると、なんだか責められているように感じて結構きつかったりする。

 簡単に言わないでよ、私の事情も知らないで。会社を辞めろっていうけど、こっちは生活がかかってるんだよ。頼れる人もいないんだよ。ここを辞めたらもう正社員で採用されないかもしれない。私の人生に何の責任も取れないくせに、他人事だからって正論ばっかり言わないで!

 ……と、こんな風にせっかくアドバイスをくれた人に対して、ネガティブな感情が生まれてきて、恨めしくなったりするのだ。実際に言葉にはしなかったが、LINEのやり取りすらきつく感じられ、返信が遅くなってしまうことも多々あった。でも、冷静に自分を客観視できるようになってきた今はこう思う。そうだね、これ以上人生が悪化する前に離れるわ……よわよわに弱って面倒くさいやつの話をここまで聞いてくれてありがとね……(泣)

 休職中で時間がたっぷりあるので、これまで腐るほど思考を巡らせてきた。なんにも考えない方がいいのはわかっていても、それはなかなか難しいことで、体調を崩して起き上がれなくなったりしながら、調子が良い日も悪い日も本当にいろいろ考えて、この結論に至った。メンタルが壊れているので、重要な決断は今しない方がいいという思いや、被害妄想が膨らんでいるだけかもしれないとも考えた。でも、友人たちの意見はこうだった。自分のことを大切にしよう。そこから離れよう。会社も人も変わらないよ。

 今回の診察では、担当医と今後の治療方針などを話し、薬をより眠りを深めるものに変えて様子を見ることになった。仕事に就く時期などは担当医と経過を観察しながら決めていく予定だ。

 クリニックからの帰り道の途中、会社に改めて退職の意思を伝えた。このまま退職の方向で話は進みそうだ。何度か意思を表示してきたつもりだが、今回やっと受け入れてもらえたことにほっとした。ようやく暗いところから抜け出せそうな気がしている。

 それから少しして遅い昼食を摂った。ずっと行きたかったお店でランチをして、日頃の運動不足を解消すべく、二駅分歩いた。

 駅に直結している地下街で、たまに立ち寄る雑貨屋がある。ちょっとしたプチギフトや可愛い雑貨、服やバッグなどの取り扱いもある店だ。そこで私はSALEで半額以下になっているロングワンピを見つけた。スニーカーやスポサンなどを合わせてカジュアルに着れる、カットソー素材のシンプルなワンピース。実はずっと日常でガンガン着れるカジュアルなロングワンピが欲しかったのだ。色はベージュとブラウンの2種類が残っていて、鏡の前でどちらが似合うかチェックしてみた。イエベ秋の私にはブラウンの方が似合って見えた。

 お値段は1500円。安い。ありがたい。休職中だし、次の仕事のこともまだ考えられる段階ではないし、出来るだけ出費は抑えたいけれど、1500円はやっぱり安い。買わなかったら絶対後悔しそう。

 そんな思いから、食費を切り詰めれば大丈夫と自分に言い聞かせてブラウンのロングワンピを買うことにした。これまでの私なら即買いの価格だけれど、今は少しの出費も躊躇してしまう。そのことが切なくて悲しくて情けなくて涙が浮かんだけれど、手でパタパタとあおいで乾かし、レジへと向かった。

 このワンピを着て、友達とどこかへ出かけよう。カフェでも定食屋でも居酒屋でもカラオケでもどこでもいい。話を聞いてくれたこと、親身にアドバイスをしてくれたこと、これまでと変わらず接してくれたことについて、お礼を伝えられたらいい。

 新しい服は、気持ちを外へ、明るい方へ向けてくれる。そのパワーにあやかりたい。

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