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『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』が乗り出すフランチャイズの荒波

『Solo: A Star Wars Story』★★★☆。(4ツ星満点中、3ツ星半。)

ミレニアム・ファルコン号の旅路は波乱含みだ。監督交代劇、プロモーションの盗作疑惑、そしてアメリカ国内での興行不振が大作フランチャイズに苦難を強いる。ところが、作品そのものには輝く原石が。『レイダース』の冒険と主人公像を連想させるハイスト・ムービーは、世間の評判に反して上々の完成度。


ディズニー傘下となった「スター・ウォーズ」フランチャイズにとって2作目のスピンオフは、かつてハリソン・フォードが演じた大人気キャラクター、ハン・ソロの若き日を描くオリジン・ストーリー。

製作は大荒れだった。『レゴ・ムービー』を手がけたフィル・ロードとクリストファー・ミラーの監督コンビは、撮影半ばで降板。代わりに『ビューティフル・マインド』『ラッシュ/プライドと友情』のロン・ハワードが監督の座についた。ハワードは撮影分の7割以上を撮り直したため、制作費は大幅に超過したと言われている。

プロモーション周りでもデザイン盗作が指摘された上、極めつけは興行面での不発だ。初週$170Mは稼ぐと言われた同作は、国内およそ$100Mという気弱な出だし。最終的に$275M以上はかかったとされる制作費にP&A費を乗せた総額を回収できる見込みは、薄い。ブランドとしての訴求力のない中国市場での不振も手伝って、国際市場でのサポートも期待できない状況にある。

この結果がフランチャイズの戦略そのものに与える影響は、大きな懸念事項だ。

[物語]

銀河に帝国軍の軍靴の音が鳴り響く動乱の時代。若きアウトロー、ハン(オールデン・エアエンライク)は、キーラ(エミリア・クラーク)と描く明るい未来のため、ある賭けに出る。

[答え合わせ]

『ハン・ソロ〜』には欠点が多い。しかし。

製作の内幕にまつわる混乱ぶりと興行面の不振に伴うイメージに反して、よくできたクライム・サスペンス調SFハイスト・ムービーだ。「スター・ウォーズ」フランチャイズの世界観を活かした映画だと言えば簡単だが、その実は、主軸からもっとも距離を置いた派生映画だと言える。ジャンル面での違いから見ても、芯のある、特殊な作品になった。

だが、まずは欠点からあげていこう。胸のつかえを取るべきだ。

冒頭30分の走り出しの酷さは、筆舌に尽くし難い。もちろん、並べておきたいメッセージは理解できる。走り屋としてのハンの、スリルへの耐性、勝ち気で豪胆な性格。すでにマフィア的な組織に所属していることから、危ない橋を渡ることに頓着しない人間だということ。恋人の存在、その彼女との計画、そして運転の腕。いわゆる「インサイティング・インシデント(物語の発端となる出来事)」までの十数分で、ハンの目的は確かに、はっきりと位置付けられる。

しかし雑だ。

セリフに詰め込まれた解説、急ぎ足な展開、生活感のなさ、ケミストリーに欠けるパフォーマンス。この一連のシークエンスの音楽ラインの大げさな印象に加え、どこを見ればいいのか焦点の定まらない照明と撮影も、わかりにくさに拍車をかける。この一幕分で関心を失う観客がいても、文句は言えないだろう。

幸い序盤を過ぎると、この違和感の頻度も減っていく。しかし以後もプロットの要所で、拍子抜けする演出もところどころに散見される。ショット選び、撮影、音楽の各側面で、大作であるにも関わらず極端な落ち度が見える珍しい映画だ。

その上で。

『ソロ』は「スター・ウォーズ」ユニバース内で独自のジャンルを形成していく。冒頭の苦行を乗り越えると、確かな旨味が待ち受けているのだ。

スピンオフとしての本作は、時代劇由来のライト・セーバーを西部劇由来のレーザー銃に差し替える。帝国軍と反乱軍のせめぎ合いは、圧政下の「腐敗警察機構」と「マフィア」の抗争的なバックドロップへと再構築。法と無法の間で生きる道を探す主人公は、裏社会から足を洗おうともがく「正義を内に秘めたルーキー」という役割を与えられている。ギャング映画の対象年齢をPGレーティングへと引き下げて、宇宙に舞台を移したかのような作り。

そこへ、プロットの構成がギャング映画らしい強みを後押しする。足早な印象は伴うが、死と隣り合わせの賭け、裏切りに次ぐ裏切り、組織の内と外の人間関係といった要素を巧みに盛り込む。手堅さが光る。

キャラクターたちも、独特な際立ちを見せる。メンター的な立ち位置のベケット(ウディ・ハレルソン)、謎多き女性キーラ(エミリア・クラーク)、悪役ドライデン(ポール・ベタニー)のいずれも適材適所。懐かしのランド・カルリジアンを演じるドナルド・グローバーのパフォーマンスはいま一歩というところだが、キャラクターはしっかりと立っている。笑いも逃さない。

なによりオールデン・エアエンライクが好演した若きハン・ソロは、パフォーマンスのみならず脚本から力強い個性を放つ。キャラクターとしての成分は、言ってみれば『レイダース/失われた聖櫃(アーク)』のインディ・ジョーンズのそれに近い。強烈な個性で、いくつもの危機を乗り切る主人公の様子を追うスリルが際立つ。『レイダース』や『帝国の逆襲』を手がけたローレンス・カスダンと、その息子ジョナサン・カスダンの脚本によるところが多いのだろう。気持ちがいい。

もちろん、突き詰めれば「正史のあいだを埋める」物語だから、全体につじつま合わせな印象が伴うことも確かだ。『スター・ウォーズ』旧三部作のセリフに出てきたあらゆるトリビアを補強してまわる「せせこましさ」は否めない。マーベル的な「ユニバース」構築への意欲を感じさせる、終盤の蛇足的なカメオにも痛々しさがあった。それらの雑学に「いくつ気づけるか」でも、大きく評価が分かれる一本ではある。

けれど、総体としては冒頭に戻る。いくつかの欠点を大目に見れば、『スター・ウォーズ』というフランチャイズに、袴を着た男たちのチャンバラ以外の楽しみをもたらす冒険的な娯楽大作だ。こき下ろされるべき映画ではない。

前作『最後のジェダイ』との公開間隔を広げておけば、あるいはもっと受け入れられたのかもしれない。

それだけに、中身と結果に折り合いをつけにくい映画とは言えるだろう。

[クレジット]

監督:ロン・ハワード
プロデュース:キャスリーン・ケネディ、アリソン・シェアマー、サイモン・エマニュエル
脚本:ジョナサン・カスダン、ローレンス・カスダン
原作:ジョージ・ルーカス『スター・ウォーズ』
撮影:ブラッドフォード・ヤング
編集:ピエトロ・スカリア
音楽:ジョン・パウエル
出演:オールデン・エアエンライク、ウッディ・ハレルソン、エミリア・クラーク、ドナルド・グローバー、タンディ・ニュートン
製作:ルーカスフィルム
配給(米):ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
配給(日):ウォルト・ディズニー・ジャパン
配給(他):N/A
尺:135分

北米公開:2018年5月24日
日本公開:2018年6月29日
鑑賞日:2018年6月3日21:15〜
劇場:Pacific Theaters Glendale 18

公式ウェブサイト:


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