桐本滉平

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最近の記事

輪島朝市

平成時代以降の輪島の朝市は観光客騙しの店ばかりだと思い込んでいた。 だからこれまで買い物なんてしたことがなかった。 コロナ禍で輪島から観光客が消え去った。 朝市のほとんどの店舗は休業したと聞いた。 それに加えて朝市組合員同士の訴訟問題も深刻化しているらしい。 輪島の朝市もとうとう終わりか… 見納めにと早朝に道を歩いてみたら、たしかに観光客向けのテント店舗は出ていない。 しかし、小さなゴザ一枚に漬物や野菜を広げるおばあちゃんたちは、何事もな

    • 金を使わない漆継ぎ

      「金継ぎ」というとどうしても金ばかりに注目が集まりがちだが、金粉は最終の装飾の役割を担っているだけで、金によって割れた破片がつながるわけではない。以前「せっかく金粉を買ったのに器が繋がらないじゃないか!」とおっしゃるアメリカの方がいらっしゃったが、それはハリー・ポッターに依頼してくれ。接着作用をもっているのは漆だ。割れた土器を漆で直し始めたのは9,000年前の縄文時代だと言われており、金粉による装飾を提唱したのは安土桃山時代の千利休と

      • 欠けの再現

        焼物の修復の仕事は三種類に分類される。そのひとつが「欠けた破片を作る」仕事。米糊、木粉、漆を調合した木屎(コクソ)漆というものを作り、指で捻って成形する。もはや焼物を作る作業に近い。なくなった破片がまだあったころを想像しながら、流れを読む。この片口の注ぎ口は特に難易度が高かった。水切れは完璧。しかし時間をかけ過ぎた。なくなった破片は蘇ったが、僕の利益はなくなった。反省。 -----------------------------------------

        • セイコさんの器

          世田谷に住んでいた頃に通った、代沢の小料理屋を営むセイコさんから預かった片口。友人が作ってくれたものだそうだ。お店で使う器について、聞いてもないのにひとつひとつ丁寧に物語を話してくれるセイコさん。コロナ禍の中でお店は閉店し、僕も東京に行けなくなってしまったが、必ず直接お届けに伺いたい。欠けた部分に描いたダーツ模様の漆絵色が明るくなった頃に、また。 ------------------------------------------ この投稿をご覧

        輪島朝市

          肌を揃える

          金継ぎの醍醐味は絶妙な存在感。目立ちすぎては品に欠けるし、目立たなすぎると傷が気になる。器の肌の質感との調和を追求する。最後の仕上げは指の腹で。 ___________________________________________ この投稿をご覧頂いている方に限り、壊れた器のお直しをお受けしています。 ご希望の方は、お分かりの範囲で構いませんので、器の写真、修復箇所のサイズ、素材、産地、作り手についてDMにてお知らせください。まずお見積もりか

          肌を揃える

          自由とは

          「自由」とは何か。 この言葉は人々の心を動かし、守り、ときに戦う原動力ともなる。希望に溢れた言葉だ。 この自由を阻害する存在に、強制、支配、拘束がある。これらから逃れることで、果たして意志のある自由は手に入れられるのだろうか。 僕が使うカメラのレンズはどれも単焦点。画角が拘束されている。被写体に近づきたければ自分の足を動かさねばならない。それと同時に相手の息遣いをも感じとる。50mm単焦点レンズで蛙のこの悟りの表情を撮ろうとするのなら、蛙の日常

          自由とは

          好きと苦手

          毎年五月に能登の山々に咲き誇る「野田藤」。 名付け親は土佐が生んだ植物学者、牧野富太郎。 彼の最終学歴は小学校二年生中退。 小学校へ向かう山道で大好きな植物採集に没頭していたら、いつの間にか日が暮れていたそうな。 学校には辿り着けないまま、日本植物学の父と呼ばれるようになった人。 94歳で亡くなる直前まで全国をまわって植物標本を作り続けた人。 「好きなことと仕事は分けて考えるべきだよ」と、僕に助言をくれた大人がこれまでに何人かいる。 残念ながらやっぱりまだ一

          好きと苦手

          器の修復ご依頼承ります

          期間限定で金継ぎをお受け致します。 当面の間、これまでの私たちの様々な仕事が消え去ったことを踏まえ、新しいものを作りつつも、古いものを直すことに、より力を注いでみることにしました。僕の投稿をご覧頂いている方に限り、SNSを経由して壊れた器のお直しをお受けしてみようと思います。 ご希望の方は、お分かりの範囲で構いませんので、器の写真、修復箇所のサイズ、素材、産地、作り手についてDMにてご連絡ください。お見積もりから始めさせていただきます。納期は2ヶ月

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          時間を継ぐ

          たしかに、いつの時代も我々人類は新しく「もの」をつくり続けてきた。人々の暮らしはものがつくり出し、つないできた。しかしいま、あまりにも過去を切り離したものの生産が蔓延し過ぎているように思う。このままでは人々の暮らしは、その背景にある文化や信仰から分断されてしまうのではないだろうか。すると当然、未来をも分断することになるだろう。時代を越える「もの」とは何なのか。「もの」が時代を超えるとはどういうことなのか。その問いと向き合いたくて、僕は自分の生まれた輪島という土地て

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          納得への道のり

          僕の幼少期のあだ名はファーブル・コーヘイ。名付け親は幼稚園の先生だ。狂気的に昆虫が好きだった。学校へ行く前と放課後のほとんどは一人で野山を駆け巡っていた。もう帰ろうよと言われるのが鬱陶しいからひとりだった。気になる女の子と二人でこっそり遊ぶ約束をしていても、立派なカマキリが潜んでいそうな原っぱを通ると、足を止めずにはいられない。ゆえに集合時間にはどうしても間に合わない。猛省している。 話が逸れた。僕は納得がしたい。カマキリと出会えるかもしれ

          納得への道のり